UFOは”ユー・エフ・オー” サイエンティスト迫村勝の回答(後編)

2019/10/21(月)19:24
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「アブダクションって編集工学では“仮説形成”だけど、UFO業界では“拉致“の意味なんだよね。宇宙人に誘拐されることを、業界では“アブられる”っていう。アブられたイタリア人女性が、UFO内でレイプされて妊娠したっていう記録もあるんだよ。でも、死産した胎児の写真はどう見てもネズミの死体なんだよね」。

 居酒屋で、迫村勝(師範)は笑みを浮かべて話す。面白くて仕方がないという様子だ。井ノ上裕二(師範)が、大笑いをしながら同調する。

「月へロケットを飛ばせたのが半世紀前で、人類300万年の歴史では、ほんの一瞬です。人類はあと1万年ももたんでしょう。ほかの惑星で知的生命体が生まれたとする。それが人類と同時代的に接触するなんて、確率論的にありえんでしょう」。

 迫村の目つきと口調が変わる。「井ノ上君、生命体のいる可能性がある太陽系外惑星は、もう発見されているんだ。条件さえそろえば、地球以外に知的生命体が存在する可能性はあるんだよ」。

 井ノ上はひるむ。この人は本気か。迫村は工学博士号をもつ。理論で本気になるとかなわない。話題を編集学校のよもやま話に移す。濃いめの焼酎で二人ともろれつが回らなくなる。井ノ上は思いつきを口に出す。

「でも、隣の惑星まで何光年も離れているわけで、そこから地球を探してやってくるのは、いくら宇宙人でも大変でしょう。コストがかかるし」。

「井ノ上君、なんらかの方法で、地球で物質化をすればできるじゃないか」。

 迫村は寸鉄を刺す。つけ入る隙を与えない。井ノ上は察知した。界面化学を専攻する迫村は、科学とオカルトの境界にいる。この間、迫村はUFOを「ユー・エフ・オー」と発音していた。UFO業界では「ユーフォー」と発音すると白眼視をされることをのちに井ノ上は知ることになる。 


  • 井ノ上シーザー

    編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。