6世紀、動乱の南北朝から倭国を観る【輪読座「『古事記』『日本書紀』両読み」第六輪】

2025/04/01(火)19:30
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桜咲きこぼれる3月30日。本楼では輪読座記紀両読み、最終回となる第6輪が開催された。

半年前の第1輪では西暦200年代だった図象解説も第6輪では500年代に至る。記紀に加えて『三国史記』も合わせ読みしている背景もあり本シリーズの図象では、千夜千冊で「それにしても日本人には、五胡十六国を含む魏晋南北朝にはそうとうに無縁であるらしい」と語られる半島や中華のクロニクルもフンダンに登場した。輪読師バジラ高橋による最終輪の図象解説を一部ご紹介したい。

 

 

■動乱の中華文化圏

西暦前後を挟んだ200年ずつにわたって前漢と後漢の君臨が続いた。これによって都合400年におよんだ漢帝国が、2世紀後半に入って「黄巾の乱」などがおこり、屋台骨がぐらぐらし、220年には名実ともに滅亡したわけである。
 これで中国は曹操の魏、孫権の呉、劉備の蜀の鼎立による、いわゆる「三国志」の時代となった。中原の中国が割れたのだ。日本ではだいたい卑弥呼の時代にあたる。それでも三国鼎立は265年にいったん司馬氏の西晋によって仮の統一をみるのだが、そこから遊牧民族や異民族の出入りが甚だ激しくなって「八王の乱」などがおこると、中国全体が大きく北朝型と南朝型に分かれ、ここから魏晋南北朝時代と総称される時代に突入していった。

千夜千冊#1426夜『融合する文明』羅宗真

 

6世紀、中華文化圏では大きな変動が続いていた。

534年、北魏の13代孝武帝は実権を握っていた高歓の排除に失敗、洛陽から逃れて関中へ入ると宇文泰に保護された。宇文泰は孝武帝の従兄・元宝炬を西魏の皇帝とし、高歓は鄴において孝武帝の従甥・元善見を東魏の皇帝として擁立。ここに北魏は東西に分裂することとなる。

▶輪読座『記紀両読み』第六輪図象解説資料より

 

北魏の孝文帝が中原の洛陽に遷都して「漢化政策」をとるようになり、国家力学の中心が南に移るようになると、六鎮は軽視されるようになった。五二三年に「六鎮の乱」がおこった。この反乱は北魏を東魏と西魏に分裂させた。東魏は山東の貴族と手を結び、西魏のほうは武川鎮の連中が関中盆地で郷兵集団を統率していた在地豪族と手を組んだ。力は西魏のほうが勝った。

 

千夜千冊#1431夜『シルクロードと唐帝国』森安孝夫

 

<東魏→北斉へ>550年、高歓の子・高洋が東魏の帝位につき北斉を建国すると、農業・塩鉄業・窯業を中心にした経済を背景に、契丹や高句麗など北方の異民族に対して軍事的圧力をかけた。

 

<西魏→北周→華北統一へ>西魏では556年、宇文泰の子・宇文覚が北周を建国。周礼に基づく官制と府兵制を敷き、南朝梁と対抗しつつ中華統一を志向する体制整備を進め発展していく。北周の武帝は儒教的な秩序を重視し、574年に道教と仏教を廃止して寺院や財産も没収した。武帝は577年に北斉を滅ぼし、華北統一に至る。

▶輪読座『記紀両読み』第六輪図象解説資料より

 

時代が三国時代から五胡十六国をへて魏晋南北朝になっていくと、シルクロードからどっと仏典が入ってきて「格義仏教」がさかんになり、いったんは王法と仏法が大いに近づいた。それで、北魏の道武帝(太祖)の時代社会のような仏教興隆となるのだが、同時に道教も力をもつようになっていった。
 たとえば、道武帝・明元帝を継いだ北魏の太武帝は、寇謙之が唱えた「新天師道」にはまって道教を国教と認めたし、北周の武帝は仏教を排して儒教的な色彩の強い道教を国家宗教化しようとした。

千夜千冊#1435夜『東アジアの世界帝国』尾形勇

 

武帝、578年に没する。581年に北周の楊堅(のちの隋の文帝)が禅譲を受ける形で隋を建国すると589年に陳を滅ぼした。これにて漢の滅亡(220年)以降、三国時代、晋の短期統一、五胡十六国、南北朝時代と300年以上にわたった戦乱と分裂を経て隋が統一を果たしたのである。

▶輪読座『記紀両読み』第六輪図象解説資料より

 

隋は統治の安定を図るとともに、北方の遊牧勢力に対しても積極的な外交と軍事行動を展開していく。582年には突厥の沙鉢略可汗を攻撃することで突厥内部の分裂を促した。突厥は東西に分かれ、西へ逃れた阿波可汗が西突厥を建国し、西域諸国を従えることになる。隋はこの分裂工作により北方の脅威を和らげるとともに、シルクロードの安定と交易拡大を図ったのだ。

 

輪読師バジラ高橋
輪読師バジラ高橋
隋の対外政策が進む中で独立を主張し隋に従わないといったのが高句麗であり、それから倭国なんです。この頃、聖徳太子が出現して隋の王に対して独立宣言書みたいなものを送ったわけですね。


当時の倭国はなぜ、隋に対して独立国であることを強く主張できたのか。中華が動乱で揺れていた300年の間、倭国では卑弥呼が登場し、倭の五王が大陸や半島へ朝貢しながらも四道将軍の伝承にも見られるように国内で支配力を拡大した。内乱もあったけれども中央集権体制も徐々に構築していたのだ。「日出ずる処の天子」と書かれた国書を遣隋使が隋に届けたのは607年と言われている。このクロニクルの重なりが、これまで魏晋南北朝と無縁だった私にもじわりじわりと染みてきている。

 

 

■4月からの輪読座は…?

 

「輪読座『古事記』『日本書紀』の記紀両読み」は最終回を終え、次シーズンの輪読座は「『古今和歌集』『新古今和歌集』の両読み」がテーマだ。バジラによれば『万葉集』には男女の言葉の区別がなかったところから、初めて女性の言葉を使って文学にしようとしたのが『古今和歌集』だという。男性が詠むにしても女性の言葉を使っていたわけだ。ところが『新古今和歌集』になると、男とか女ではなくなるらしい。

 

輪読師バジラ高橋
輪読師バジラ高橋
新古今和歌集になると「VR」になり、男とか女ではなくなり、どうやって仮想現実世界を哥で表現するかの世界になる。VRは言葉としてつまんない。VRは幽玄のことだったわけです。それが能にも転換していったわけで。おもしろいのはこの間。古今と新古今の間に何が起こっていたかというと言語が衰退するというね、衰退し続けて幽玄になるという。いま、VRが盛んだけど、衰退の一歩をたどっているというわけ。


「輪読座『古今和歌集』『新古今和歌集』両読み」では毎回100首ぐらいの和歌を輪読する予定だという。古今から新古今に向けて何が変化したのか。その変化の何が面白いのか。編集方針にはどんな違いがあるのか。VRが幽玄ってどういうことなのか???

ピンときたかたは是非こちらのカートへどうぞ。興味はあるけど縁遠い。火傷しそうだけどオソルオソル触ってみたい。そんな方々も大歓迎しています。

 

 


「輪読座『古今和歌集』『新古今和歌集』両読み」

 

●日時 全日程

 全日程 13:00〜18:00 

 ※終了時間は少し延びることもあります。

 2025年4月27日(日)

 2025年5月25日(日)

 2025年6月29日(日)

 2025年7月27日(日)

 2025年8月31日(日)

 2025年9月28日(日)

 

●受講資格 どなたでも、お申し込みいただけます。

 

●受講料

 ◎リアル参加◎6回分 55,000円(税込)

 ◎リモート参加◎6回分 33,000円(税込)

   ★リアル/リモートともに全6回の記録映像が共有されますので

  急な欠席でもキャッチアップいただけます

 

●詳細・お申込⇒こちらをご覧ください

★講座スタート後でもお申込みOK!見逃した回は記録映像でキャッチアップいただけます

 

輪読師バジラ高橋は4月からの『古今和歌集』『新古今和歌集』両読みについて「輪読師としてはちょっと荷が重いんだけどね」と語った

 

 

 

 

  • 宮原由紀

    編集的先達:持統天皇。クールなビジネスウーマン&ボーイッシュなシンデレラレディ&クールな熱情を秘める戦略デザイナー。13離で典離のあと、イベント裏方&輪読娘へと目まぐるしく転身。研ぎ澄まされた五感を武器に軽やかにコーチング道に邁進中。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg