イシス館書棚見回り「書庫邏隊」いよいよ始動―「2025春の陣」その1

2025/06/07(土)08:00
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2024年8月以来止まっていた松岡正剛「千夜千冊」が突然動き出し、「絶筆篇」が始まりました。機を合わせて、ゴートクジ・イシス館住人たちが一念発起し結成した書棚見回り隊、その名も「書庫邏隊」(ショコラ隊)の活動成果が、このたびイシス館にお目見えしました。

 

書庫邏隊のミッションは、松岡正剛の愛書精神を継承する弟子一同として、イシス館書棚の整理整頓はもちろんのこと、ときに応じて大胆な再編集も行うということ。そして、本の目利き力を研鑽してイシス館の書棚をさらに充実させるということです。

 

さっそくイシス館のそちこちで書棚再編集を繰り広げるとともに、安藤昭子代表の一声で決まった年間予算にもとづき、各書棚担当が選書の腕を競いあう「春の陣」を実施しました。ようやくその第一弾が入荷し、このたび、イシス館井寸房の一角に専用棚を設けてディスプレイを開始。本とともに、選者によるレコメンドカードも添えてあります。

 

ショコラ隊の選書方針はただひとつ、「20年後もイシス館の本棚で輝く本を選び抜く」。ただし、新書や文庫は極力入れない、巷のブームにはなびかない、入門書にも手を出さない、刊行時期が新しい本を重視する、といったいくつかの自主ルールも設けています。

 

井寸房のディスプレイ棚は、2~3週間ごとに入れ替え予定。今後、当「遊刊エディスト」で、そのラインナップを逐一紹介していきます。イシス館においでの際は、ぜひ実際に本を手に取り、御覧ください。

 


ショコラ隊「2025春の陣」その1

 *本の順番はイシス館の書棚構成に沿っています


 

〇『十二支外伝―スーパーアニマルミステリーツアー』福井栄一 工作舎 2022年

 ・・・十二支の奇談妖談を集めたアンソロジー集(選:安藤昭子+渡辺敬子)

 

〇『将軍の世紀』(全2巻)山内昌之 文藝春秋 2023年

 ・・・中東研究家による骨太の徳川十五代史(選:太田香保)

 

〇『小村雪岱随筆集』小村雪岱 ‎ 幻戯書房 2018年

 ・・・「不在の在」を描く雪岱の秘密が垣間見える(選:根岸麻恵)

 

〇『芸者と遊郭』宮島新一 ‎ 青史出版 2019年

 ・・・膨大な資料をもとに芸と色の世界の実際を解き明かす(選:安藤昭子+渡辺敬子)

 

〇『本の江戸文化講義 蔦屋重三郎と本屋の時代』鈴木俊幸 KADOKAWA 2025年

 ・・・庶民の読書熱が紡ぐ江戸メディア文化(選:安藤昭子+渡辺敬子)

 

 

〇『夢野久作の日記』(新装版)夢野久作 復刊ドットコム 2025年

 ・・・杉山茂丸の昭和から『ドグラ・マグラ』誕生へ(選:太田香保)

 

〇『失われた色を求めて』 吉岡幸雄 岩波書店 2021年

 ・・・植物染の色世界が自然への畏怖を呼び覚ます(選:根岸麻恵)

 

〇『ハイブリッド・ヒューマンたち―人と機械の接合の前線から』 ハリー・パーカー みすず書房 2024年

 ・・・最新テクノロジーと融合した身体によるルポルタージュ(選:橋本英人)

 

〇『WAYS OF BEING 人間以外の知性』ジェームズ・ブライドル 早川書房 2024年

 ・・・生命の知性を環境との相互作用で捉える(選:山本春奈)


〇『動物意識の誕生 生体システム理論と学習理論から解き明かす心の進化』(全2巻)シモーナ・ギンズバーグ他 勁草書房 2021年

 ・・・生物意識の起源を「学習」によって解き明かす(選:橋本英人)

 

〇『女性なるものをめぐって:深層心理学と女性のこころ』豊田園子 創元社 2022年

 ・・・ユング派セラピストが「女性性=生命の源光」の意味を再考(選:橋本英人)

 

〇『メディア論集成:電子メディア論 増補決定版』大澤真幸 人文書院 2024年

 ・・・メディア変容の核心を突く大澤メディア論決定版(選:橋本英人)

 

〇『中世の身体 生活・宗教・死』ジャック・ハートネル 青土社 2022年

 ・・・身体部位をとりまくアレゴリーを通して探る中世の身体観(選:太田香保)

 

〇『絵画と写真で見る 世界海戦史』ヘレン・ドウ 原書房 2024年

 ・・・13~20世紀の50以上の有名な海戦を図版満載で詳述(選:太田香保)


〇『ケストナーの戦争日記 1941-1945』エーリヒ・ケストナー 岩波書店 2024年

 ・・・作家がナチスドイツの戦争を内側から活写した稀有な日記(選:太田香保)

 

〇『物語要素事典』神山重彦 国書刊行会 2024年

 ・・・ネット検索では絶対出てこないアナロジカルな項目選定(選:太田香保)

 

〇『男爵と魚』ペーター・マーギンター 国書刊行会 2024年

・・・ハプスブルク帝国の幻影を宿す綺想小説シリーズ第一弾(選:太田香保)

 

〇『廃墟建築家』ヘルベルト・ローゼンドルファー 国書刊行会 2025年

 ・・・風変わりなバロック廃墟の案内人が語る物語(選:太田香保)

 

〇『画家たちの「肖像」』全2巻ジョン・バージャー 草思社 2024年

 ・・・批評はしないという志操のもとで綴られた画家たちの肖像(選:太田香保)


 

  • 書庫邏隊(ショコラ隊)

    松岡正剛の愛書精神を継承し、イシス館の本棚の再編集と新陳代謝を担う。イシス館の全住人が所属し、それぞれ1階~3階のいずれかの書棚を担当している。リーダーは、吉村堅樹・小森康仁・太田香保・寺平賢司。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg