草むらで翅を響かせるマツムシ。東京都日野市にて。
「チン・チロリン」の虫の音は、「当日は私たちのことにも触れてくださいね」との呼びかけにも聴こえるし、「もうすぐ締め切り!」とのアラートにも聞こえてくる。

前回は、「問→感→応→答→返」について私が実際に学衆に伝えたことを、書きました。しかしそれだけでは、このことを伝えきれていません。松岡正剛校長は、さらに大事なことを言ったからです。それは次のことです。
イシス編集学校は「感」に溺れない。溺れさせない。なぜなら「感」はともすると、言葉を狭くするから。狭くなると、実に世間的なつまらない表現にとどまるか、あるいは、熱狂的信仰に向かってしまう。
おおまかに言えば、そういうことです。
そこで既存のものに当てはまらない、「学衆が感に応じる場」を、学校の中に作ったのです。それが約十人の学衆と一人の師範代で作る教室という「場」です。それが、それぞれどこにもない奇妙な名前をつけている理由なのです。
応じ方にも、いくつもの選択肢があります。その多様な選択肢から学衆は、自分の編集が向かいたい方向を定め、そこに向かい、さしかかることで「答」を作ってみます。
終わりのない「問」→「感」→「応」→「答」→「返」の過程にこそ、編集があります。問いに正解はないこと、「応」や「答」や「返」を通して相互編集していくことが人間関係そのものであること、その関係の中にしか「自分」は存在しないことを、ひとつひとつの稽古の中で実感する、まさに身体的にも理解することが、稽古なのです。
では学衆の「答」に師範代が「返」を返すと、それで終わりなのかといえば、そうではありません。松岡正剛校長は、そのあとを重要視していました。「世の中に返す、世界に返す」ということです。
「問答の間に感応が入った問感応答全体が、返を持ちながら変じていく」こと。それが「地球とか生命に対する返済」であり、「そこにコンティンジェンシー(偶発的な出来事)というものを最終的には込めたいと思っています」と語っていました。それこそが「理解の秘密を秘めている」とも、語っています。
「普遍的合理性、あるいはロジカル・シンキング」は、確かに「問」と「答」にある。しかし、そこに「感」と「応」をもう一度持ち込むと、「問」と「答」が変わります。「感」は、そこに形を与えることができれば、アートやロックや自由なポップスにもなる可能性を秘めてはいるけれど、外の何かに依存すれば、宗教的熱狂になったり自己発見になったりスピリチュアルになる、と、その危険性も指摘していました。
「世界に返す」には感を土台にしながら、そこを抜け出してそれを外から眺め、自己を超えることです。私はそこにこそ「編集的自由」がある、と考えています。
イシス編集学校
学長 田中優子
田中優子の学長通信
No.07 問→感→応→答→返・その2(2025/07/01)
No.06 問→感→応→答→返・その1(2025/06/01)
No.05 「編集」をもっと外へ(2025/05/01)
No.04 相互編集の必要性(2025/04/01)
No.03 イシス編集学校の活気(2025/03/01)
No.02 花伝敢談儀と新たな出発(2025/02/01)
No.01 新年のご挨拶(2025/01/01)
アイキャッチデザイン:穂積晴明
写真:後藤由加里
田中優子
イシス編集学校学長
法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。『江戸の想像力』(ちくま文庫)、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)、松岡正剛との共著『日本問答』『江戸問答』など著書多数。2024年秋『昭和問答』が刊行予定。松岡正剛と35年来の交流があり、自らイシス編集学校の[守][破][離][ISIS花伝所]を修了。 [AIDA]ボードメンバー。2024年からISIS co-missionに就任。
【田中優子の学長通信】No.06 問→感→応→答→返・その1
イシス編集学校では、「お題」と「回答」つまり「問」と「答」のあいだに、極めて重要なプロセスがあります。それが「問」→「感」→「応」→「答」→「返」というプロセス・メソッドです。 指南中の学衆からある問い […]
今年2025年3月30日(日)、私は日本女子大で「平和有志の会」主催の講演をおこないました。法政大学総長時代に面識のあった篠原聡子学長からのお声がけでした。ついでに言えば、篠原学長は建築家で、松岡校長と深い縁のあった隈 […]
イシス編集学校についての本の執筆を続けています。学衆、師範代、師範経験者の言葉に助けていただきながらの執筆ですが、その途中で、出版元になる予定の編集者から、熱意ある檄が飛ばされました。次のようなものです。 インターネッ […]
師範代開始が迫っている私に、「2日に1題、8-10名の学衆さんに指南!」という檄(げき=ふれぶみ)が入ってきました。決して脅しでも励ましでもなく、これは「守」の師範代の「現実」です。 イシス編集学校はこの極めて高い集 […]
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コメント
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2025-07-15
草むらで翅を響かせるマツムシ。東京都日野市にて。
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2025-07-13
『野望の王国』原作:雁屋哲、作画:由起賢二
セカイ系が猖獗を極める以前、世界征服とはこういうものだった!
目標は自らが世界最高の権力者となり、理想の王国を築くこと。ただそれだけ。あとはただひたすら死闘に次ぐ死闘!そして足掛け六年、全28巻費やして達成したのは、ようやく一地方都市の制圧だけだった。世界征服までの道のりはあまりにも長い!
2025-07-08
結婚飛行のために巣内から出てきたヤマトシロアリの羽アリたち。
配信の中で触れられているのはハチ目アリ科の一種と思われるが、こちらはゴキブリ目。
昆虫の複数の分類群で、祭りのアーキタイプが平行進化している。