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【田中優子の学長通信】No.10 指南を終えて
- 2025/09/01(月)08:00
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[守][破][離][花伝所]を終え、その間に[風韻講座]や[多読ジム]や[物語講座]を経験しながら、この春夏はついに、師範代になりました。
指南とは何か、指導や教育や添削とどこが違うかは、[花伝所]で身に染みましたが、指南をする中で一層、その違いを感じました。
気がついたのは、学衆がそれぞれ「異なる人間である」ということです。当たり前なのですが、学校教育ではそれぞれ違うという前提がありながら、極端に言うと「できるだけ同じような人に育て上げる」ことを目標にします。社会に出てから困らないように、ということなのです。そこで「問題」は「正解」と組み合わせ、その正解に辿り着くように導きます。読書は、その内容の要約ができるようにする。文章は主語をはっきりさせながら、誰にでもわかりやすく論理的に書けるようにする。そうすると、読書も文章も、そのテーマの範囲をできるだけ出ないように集中する習慣が出来上がります。つまらなくとも、脱線してはならないし、他の本に目移りしてはならないのです。もちろん、問題に回答する前に他の人の回答を見るなど、とんでもありません。それは「カンニング」つまり「ずるをすること」とされます。
しかしイシス編集学校では、回答の前でも後でも、他の学衆の回答をどんどん見てください、と勧めます。それは、正確が無いからです。しかし不思議なことに、絶対に同じ回答になりません。学衆は他の回答を参考にしながらも「違う回答にしよう」と思っているとは思います。でも、そう思わなくても、同じことは書けないものなのです。しかも、どういう回答が面白いか、その感じ方もさまざまでした。
人は個々、別々の身体を持っています。身体は感覚器官の集まりです。そうすると、インプットの段階でまず感じ方が違う。感じ方が違うので、応じ方が異なる。そして文章になると身体のリズムや、記憶にある語彙が異なるので、書き方が違ってきます。その結果、アウトプットも異なるのです。
論文などでは剽窃が問題になることがあります。それは、事実関係や調査・実験結果など、自分が調べてもいないのに、自分で調査したり実験したことにして発表することです。しかしその場合でも、文章は同じにはなりません。従って、引用元を明らかにした上での「引用」は、良いことになっています。イシス編集学校では、引用はもちろん、松岡校長が使っている言葉や、千夜千冊の一節等々、どんどん使うことを勧めています。本はよそ見しながら複数の本を同時に読むことも、勧めています。閉じこもらない。開いていく。繋がっていく。いくらそれをしたとしても、あなたは、あなただからです。そのあなたを、広く豊かにして欲しいからです。
[守]を卒門したら、ぜひ[破]に進んで欲しい。[破]を突破したらぜひ、 [花伝所] に進んで欲しい。なぜなら、見える景色が違うからです。借りものの範囲が広がり、読むことと書くことが面白くなるからです。
皆さん、次の扉を開けて、他の世界に入ってみてください!!
イシス編集学校
学長 田中優子
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アイキャッチデザイン:穂積晴明
写真:後藤由加里