鋸鍬形、犀兜、鰹象虫、乳母玉虫、碁石蜆、姫蛇の目、漣雀、星枯葉、舞妓虎蛾、雛鯱、韋駄天茶立、鶏冠軍配、鶉亀虫。見立ては、得体の知れないものたちを、手近に引き寄せたり、風雅に遊ばせることの糸口にもなる。
川邊透
2026-02-03 17:57:52
昨年12月には鈴木健さんと対談しました。1月のこの通信でも報告しましたね。
年明けて1月は21日に、順天堂大学病院病理医の小倉加奈子さんと、池袋ジュンク堂で対談しました。「W刊行記念トークイベント」と銘打って、会場にもリモートにも、集まっていただきました。
何がダブルかというと、小倉さんは『細胞を間近で見たらすごかった』(ちくま新書)を刊行なさったのです。私は同じようなタイミングで『不確かな時代の「編集稽古」入門』(朝日新書)をそれぞれ刊行した、というわけです。
小倉さんは(年齢どこにも書いてないのですが)、明らかに私の娘世代の年齢です(まさか孫世代ではないと思う・・)。でも、私の「離」学衆時代の師範代なのです。年長者が年少者を教える、という世界ではないのがイシス編集学校の面白さです。イシスが伝えるのは「いわゆる知識」ではありません。もちろん、師範代になる過程で、学衆としても師範代候補としても「方法」は教わります。知ったそれらの方法をどのように使うか、はそれぞれです。
私より先に離を終え、花伝所も了えた小倉さんが、いかに深く多様に編集工学の方法を仕事に活かしておられるか、ご著書を拝読すれば明らかです。本書の前に『おしゃべりながんの図鑑』『おしゃべり病理医のカラダと病気の図鑑』(両方ともCCCメディアハウス)を出しています。どちらも「図鑑」です。どの本もイラストが豊富なのですが、全てご自身で書いておられます。そのイラストが、わかりやすくて面白い!
私が対談の冒頭で語ったのは、映画『ミクロの決死圏』もNHKの『シリーズ人体』も見たけれど、それらより小倉さんの本の方が、自分の体内に入っていくことができた、ということでした。その理由は、第一に言葉とイラストの組み合わせの面白さ。第二に、そこにある「生きている私たちの日常」によるアナロジーです。
例えば人の体内を構成する約37兆個の細胞は一粒一粒が細胞膜に包まれ、その膜を通してエネルギーを入れたり出したりしながら、毎日死んだり生まれたりしていますね。その細胞の中にも、それぞれ膜を持った小器官がいくつもあり・・というところで、その小器官の一つが「今日のお昼何食べよう?」とつぶやくのです。それら小器官には、それぞれ名前がついていて、役割に適した形をしている。個性の強い人たちが毎日、私たちの体内で働いている。すごいことです。
小倉さんは、松岡さんの方法、とりわけ「見立て」を自らの方法にしていました。だから日常によって細胞を書くことができるのです。知識ではなく方法を受け取り、それを自分のものにしていく。それこそ松岡さんが築いてきた世界であり、望んでいたありようです。そしてイシス編集学校の目標です。私の『不確かな時代の「編集稽古」入門』にも、多くの学衆経験者や師範代経験者に登場していただきましたが、まだまだたくさん、イシスの方法を身につけて、仕事や日常を豊かにしている人たちがおられるに違いありません。
イシス対談を、またそういう方々と続けていきたいです。
田中優子の学長通信
No.15 にぎやかイシス対談(2026/02/01)
No.14 新年明けまして・・・(2026/01/01)
No.13 『九』の出現(2025/12/01)
No.12 『不確かな時代の「編集稽古」入門』予告(2025/11/01)
No.11 読むことと書くこと(2025/10/01)
No.10 指南を終えて(2025/09/01)
No.09 松岡正剛校長の一周忌に寄せて(2025/08/12)
No.08 稽古とは(2025/08/01)
No.07 問→感→応→答→返・その2(2025/07/01)
No.06 問→感→応→答→返・その1(2025/06/01)
No.05 「編集」をもっと外へ(2025/05/01)
No.04 相互編集の必要性(2025/04/01)
No.03 イシス編集学校の活気(2025/03/01)
No.02 花伝敢談儀と新たな出発(2025/02/01)
No.01 新年のご挨拶(2025/01/01)
アイキャッチデザイン:穂積晴明
写真:後藤由加里
コメント
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2026-02-03 17:57:52
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鋸鍬形、犀兜、鰹象虫、乳母玉虫、碁石蜆、姫蛇の目、漣雀、星枯葉、舞妓虎蛾、雛鯱、韋駄天茶立、鶏冠軍配、鶉亀虫。見立ては、得体の知れないものたちを、手近に引き寄せたり、風雅に遊ばせることの糸口にもなる。
田中優子
イシス編集学校学長
法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。『江戸の想像力』(ちくま文庫)、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)、松岡正剛との共著『日本問答』『江戸問答』など著書多数。2024年秋『昭和問答』が刊行予定。松岡正剛と35年来の交流があり、自らイシス編集学校の[守][破][離][ISIS花伝所]を修了。 [AIDA]ボードメンバー。2024年からISIS co-missionに就任。
2026年が明けました。そして、学長通信が2年目に入りました。この新年はおめでたいのか、どうなのか、という微妙に戦雲が垂れ込める新年です。 12月に鈴木健さんと対談して、本当に良かった、と思います。この、エディテ […]
先月は『不確かな時代の「編集稽古」入門』の刊行予告をしました。無事刊行されました。刊行後にもっと詳しく書く、と約束したのですが、その前にぜひ書いておきたい出来事が起こってしまったので、今月はそちらです。 […]
【田中優子の学長通信】No.12 『不確かな時代の「編集稽古」入門』予告
この表題は、もうじき刊行される本の題名です。この本には、25名もの「もと学衆さん」や師範代経験者たちが登場します。それだけの人たちに協力していただいてできた本です。もちろん、イシス編集学校のスタッフたちにも読んでもらい […]
今年の8月2日、調布の桐朋小学校の校舎で「全国作文教育研究大会」のための講演をおこないました。イシス編集学校のパンフレットも配布し、当日はスタッフも来てくれました。 演題は「書くこと読むことの自由を妨げ […]
[守][破][離][花伝所]を終え、その間に[風韻講座]や[多読ジム]や[物語講座]を経験しながら、この春夏はついに、師範代になりました。 指南とは何か、指導や教育や添削とどこが違うかは、[花伝所]で身 […]
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2026-02-10
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2026-02-05
誰にでも必ず訪れる最期の日。
それが、どのような形で訪れるかはわからないが、一番ありえそうなパターンの一つが終末介護病棟での最期じゃないだろうか。沖田×華先生と言えば、自虐ネタのエッセイマンガでよく知られるが、物語作家としても超一流だった。深く死に向き合いたい方は、是非ご一読を。
(沖田×華『お別れホスピタル』)
2026-02-03
鋸鍬形、犀兜、鰹象虫、乳母玉虫、碁石蜆、姫蛇の目、漣雀、星枯葉、舞妓虎蛾、雛鯱、韋駄天茶立、鶏冠軍配、鶉亀虫。見立ては、得体の知れないものたちを、手近に引き寄せたり、風雅に遊ばせることの糸口にもなる。