[週刊花目付#27] 継がれ行くもの

2021/12/14(火)10:25
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週刊花目付

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■2021.12.07(火)

 

 錬成演習が山場を迎え、入伝生たちの息があがっている。そこへ「まだまだ[花]の盛りはこれからよ」と言わんばかりに、来週末に行う指南トレーニングキャンプのガイドが配信された。さほど動じた風を見せない入伝生たちは、頼もしいのかおっとりなのか。

 


■2021.12.09(木)

 

 錬成演習渦中の指導陣を招集してzoomで作戦会議。キャンプでのワークプランを練る。
 今期は指導陣で緩く雑感を交わす場を多く設けたいという田中所長の発案だったのだが、何せ前ノメリな花目付が燃料を投下するものだから、ついつい皆の議論に熱がこもる。夜カフェという態で21時から始まったミーティングは、日付を跨ぐ頃の散会となった。

 

 そんな最中に池澤祐子師範の訃報が届いた。
 お祐さん、とお呼びさせてもらえる仲になる前に闘病生活に入られていた。2年前の冬、師範IS&IS講の折に恐る恐るご挨拶さしあげたのが初対面だった。聞けば、青山学院大学文学部史学科毛賀ゼミの同窓だった。お祐さんは、イシスでもアオガクでも、私の二歩も三歩も先を走っていた。豪徳寺でご一緒する度ごとに盛り盛りのネイルを自慢しあったのは、同じ匂いを確かめ合うための儀式だったように思う。そのお祐さんが今や永遠のレジェンドになってしまった。せめて私なりに、グラマラスな師範モデルを継承させていただくことを誓います。

 


■2021.12.10(金)

 

 「継承」ということを考えようと本棚を手繰っていたら、『分かちあう心の進化』(松沢哲郎/岩波科学ライブラリー)に「社会的知性の発達の4段階」ということが書かれていた。「模倣」の効能についての仮説だ。

 

*社会的知性の発達の4段階

第1段階:親子のあいだで相互作用が始まる。(赤ん坊の自発的微笑に微笑みを返す、など)
第2段階:親子の行動が同期する。(母親がマザリーズで子どもの声のトーンや抑揚にあわせて語りかける、など)
第3段階:模倣が起こる。(真似ることで他者が経験するのと同じ質の経験をもつ)
第4段階:相手の心を理解する。(模倣の経験をすることで、他者の行動を見たとき、他者に生じているはずの心を理解することができる)

『分かちあう心の進化』(松沢哲郎/岩波科学ライブラリー)より

 

 今更ながらハッとしたのは、模倣の前提に「自他の分離」があるということだ。

 「まねる」という行為は、自分は他者と違うという認識があるからこそ生まれる。つまり、情報の転写は、異なる個体あるいは集合同士に差異があるからこそ生じるのだ。このとき、差異とは「ないものフィルター」によって発見された未知である、という定義が可能だろう。そうだとすると、模倣とコピペは明確に峻別されなくてはならない。模倣は別様の可能性へ開かれているが、コピペは情報の均質化へ閉じている

 

 さて「継承」についてであるが、継承の前提には「文化」がある。前掲書には「文化とは、世代を超えて集団に引き継がれる知識や技術や価値のこと」と定義されている。文化は模倣によって体系づけられたシステムであるということなのだが、肝心な点は、個体レベルの個人知は一旦「文化」を経由することによって形を変えながら継承されるということだろう。

 われわれが「継承」について語るなら、想定すべきはいちいちの情報単位ではなく、型やスタイルやシステムを捉えることが求められる。

 


■2021.12.12(日)

 

 22時をもって7週間の式目演習が終了。36[花]は、途中離脱や遅延申告が目につくことが特徴だ。潔さと粘り強さの間で志が軋む。

 

「ぎゃ~、ちょっと待った!!!!!」
「編集学校は、学ぼうとする人、やり切ろうと粘る人には寛容です。諦めずに、図々しく学ぶべき場所です」

 

 やまぶき道場で錬成師範の美濃越香織と阿久津健が入伝生を諭す声が響いた。諦めずに編集を尽くす文化が、こうして継承されて行く。

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  • 深谷もと佳

    編集的先達:五十嵐郁雄。自作物語で語り部ライブ、ブラonブラウスの魅せブラ・ブラ。レディー・モトカは破天荒な無頼派にみえて情に厚い。編集工学を体現する世界唯一の美容師。クリパルのヨギーニ。