[週刊花目付#41] 一途なカオナシ

2022/11/15(火)11:17
img
週刊花目付#41

<<前号

 

■2022.11.07(月)

 

 38[花]の「M3:メトリックには、地味ながら大きな改編を仕掛けた。演習の内容自体に一切の変更はないのだが、回答フォーマットを改訂した。回答者の回答形式が変更されれば、自ずと演習の質には何らかの変容が起こるだろう。その様子を、興味深く観察している。

 

 回答フォーマットにどう手を加えたかと言えば、回答を指南する際の測度感覚を掴むために「クロスフォーマット」を積極的に援用するようにした。[破]のプランニング編集術で学ぶ編集技法である。

 クロスフォーマットは、与件を多角的な視点から捉えるために有効なだけでなく、そこから動的なイメージメントを発動させるツールとしての威力も絶大だ。この編集術を、今更ながらではあるが、花伝式目に導入した。

 

ちなみに、我が編集的先達である五十嵐郁雄さん(主著『美意識の芽』は現在絶版)は、クロスフォーマットの手法で森羅万象をモデリングし、それによって人の「美意識」を編集する達人だった。

 

 クロスフォーマットの妙は、直交する2本の座標軸の設定と組み合わせに依る。

 編集対象となる事象について、どこに着眼し、どう捉えるのか、自身の視座をフォーマット上に仮置きして行く作業は、自ずと様々な連想を誘い仮説を導き出すだろう。そのときに動く編集感覚が「3A」であり、3Aに動き回るためのスペースを与えている構造感覚が「測度感覚(メトリック)」である。

 そして3Aとメトリックが不可分の両輪となって編集を押し進めて行く訳なのだが、クロスフォーマットはそうした編集感覚を外部化し可視化する。

 

 

■2022.11.08(火)

 

 花Q林ではカリントウの次鋒に平野しのぶ錬成師範が登場して、「日本の風貌」についてのコンパイルを呼びかけている。平野はリンの字に「燐」を当てて「花燐頭」と名乗り、ヴィジョナリーなイメージへの導線を用意した。

 

 やまぶき道場のイチクラが、現代日本のサラリーマンの風姿をカットアップしながら「カオナシ」と応じた説破が目に留まった。
 なるほど、日本の風貌はズームインすれば多様だが、ズームアウトすると一様に見えるかも知れない。平野がすかさず「アノニムとカオナシはなにが違うのだろう」と問い返している。


 この問答はおそらく、型を巡る測度感覚がテーマとして浮上している。逸脱を好まず型を守ろうとする日本的心性を、私たちはどう評価すべきなのか?

 

日本は一途で多様な文化をつくってきました。しかし、何が一途なのか、どこが多様なのかを見究める必要があります。

日本文化の核心』(講談社現代新書)より

 

 もしも型が「一様」を生むとしたら、その者は未だ「守」に留まっている。一途な学習者は、やがて「破」を迎え「離」に至り、型のムコウで「多様」に出会うだろう。多様性とは、型の錬磨を経た者たちの群像にこそ捧げるべき称号なのだと思う。

 

 

■2022.11.11(金)

 

 指導陣がzoomに集って講座後半戦へ向けての作戦会議。
 38[花]は入伝生も指導陣も一様に一途で誠実だ。だが(だからこそ、と言うべきか)、指導陣には入伝生のスマートさが歯痒く見える。演習体験をより深めるには、どんな仕掛けが有効だろう…。そんな話だった。

 

 花伝所の指導に携わっていると、入伝生たちの〈学ぶモデル〉がよく見える。指導者が学習者に無条件の積極的関心を抱くことは当然なのだが、一方で、どうやら多くの入伝生は自身の〈学ぶモデル〉についての関心が低いように感じる。

 何であれ、物事を学ぶ体験には世界観の更新が伴う。もしも世界が昨日までと違って見えるようになるとすれば、それは必ずしも見晴らしの良い爽快さばかりではなく、困難や混乱に遭遇する場面も少なくないだろう。そのときに「困難や混乱の主題」にフォーカスして解決策を講じるアプローチは有益だが、花伝式目はむしろ「自己変容の体験」を丸ごと受容してモデリングすることを教えている。

 すなわち、一人の人間の体験は「型」が媒介となって継承されるのであり、その「型」こそが個々の体験の多様と自由を担保してもいるのである。

 

 そんなわけで、入伝生が自身の変容について開かれた関心を抱いていない状態にいることは、指導陣にとっては何とももどかしい状況なのである。

 

 

■2022.11.13(日)

 

 各道場に「M4:マネージメント」の課題が配信された。
 入伝生には「編集とは何か」という問いがあらためて投げ掛けられ、裏舞台では指導陣が道場チームごとに指導BPTを練っている。

 

 ところで、「マネージメント」の指導は花伝所指導陣にとって積年の課題である。

 理論をインストールするだけなら指導は不要だが、編集が「」のなかで動くことをどうすれば体験として手渡すことが出来るのか。しかも、「場」と言っても編集学校の教室はEditCafeのなかでテキストとしてのみ存在するヴァーチャルな空間である。

 そこで、35[花]以降はチーム指導体制を組んで臨み、言語密度を高めることで場のリアリティを喚起する指導を試みている。

 

 はたしてスマートな入伝生たちは言語密度に絆されて「守」から「破」へ向かうことができるだろうか。

 

アイキャッチ:阿久津健

>>次号


  • 深谷もと佳

    編集的先達:五十嵐郁雄。自作物語で語り部ライブ、ブラonブラウスの魅せブラ・ブラ。レディー・モトカは破天荒な無頼派にみえて情に厚い。編集工学を体現する世界唯一の美容師。クリパルのヨギーニ。