かつて「大人マンガ」というジャンルがあった(詳しくは「マンガのスコア 園山俊二」参照)。この周辺には、ファインアートと踵を接する作家たちが数多く存在する。タイガー立石もその一人。1982年、工作舎から刊行された『虎の巻』は、まさしくオトナのためのマンガの最極北。いいお酒といっしょにちびちび味わいたい。
[花伝所]のクライマックスは、2日間におよぶエディットカフェ上のキャンプです。今期44[花]では、ハイパー茶会をテーマにプランが練られましたが、この時、客人に選ばれたのが美学者・伊藤亜紗。彼ら花伝生の思いも引き受けつつ、編集工学とも重なる『手の倫理』(講談社選書メチエ)を紹介します。
第90回感門之盟「読奏エディストリート」の特別連載8回目。「マーキング」と「ヨミトキ」で奏でる師範の声の重なりをお届けします。
裏を返せば、「目の前にいるこの人には、必ず自分には見えていない側面がある」という前提で人と接する必要があるということでしょう。それは配慮というよりむしろ敬意の問題です。(50ページ)
占いや自己分析が今も昔も人気なのは、みな「わたし」について知りたがっているからだ。「わたし」の取説はどこにも落ちていない。
けれど、占いや自己分析からわかる「わたし」は、パターン化されていて、ちょっとよそよそしい。それなら自分の中に隠れたわたしを発見しに行く方が断然面白い。
編集はそれを可能にする。
師範代は自分にもあなたにも「たくさんのわたし」があることを知っている。いつもの私でないあなたに会いに師範代は今日も教室であなたを待っている。(上原悦子)
安心とは、「相手のせいで自分がひどい目にあう」可能性を意識しないこと、信頼は、「相手のせいで自分がひどい目のあう」可能性を自覚したうえでひどい目にあわない方に賭ける、ということです。(93ページ)
安心と信頼とを分けるのは、不確実性の有無。GPSの見守り機能で子どもの行先を常に把握するか、迷子になるかもしれなくとも玄関で背中を押すか。制御し支配するか、不確実性を越えた先に生まれでるものを信じるか。言いかえると、相手を自分の地に引き込むのか、あるいは、相手とともに新たな地を生みだすのか。自覚せぬままに日々迎えているたくさんの分岐点、私は、どちらを選んでいるのだろう? 編集は冒険からはじまる。リスクをとらずに可能性が拓くはずはない。会社帰り、旅先で出会った人のおススメ本を手に入れた。(阿曽祐子)
「ロープが神経線維」というのは面白い表現です。感情という、本来であれば表情や声、あるいは言葉を介してでないと分からないはずのものが、ロープを介することでダイレクトに伝わってくる。(160ページ)
目の見えないランナーと伴走者のためのコミュニティ「バンバンクラブ」は、目の見える人にも人気だという。その理由は、ランナーふたりをつなぐ「ロープ」を通じた感覚の共鳴(シンクロ)にある。何の変哲もない一本の紐が、間身体的な「神経線維」と化す。なにかを意図して伝えずとも、連想や息遣いまで勝手に伝わってしまう。生きたメディアとしてのロープ。
相手の顔も素性もよく知らぬまま、テキストを介して交し合っているだけで、ときにリアル以上にリアルに、互いの人柄がありありと浮かびあがってくる。そんなイシスの教室もまた、本書にあやかっていえば、「お題が神経線維」になるエディトリアルな場かもしれない。(新井陽大)
講談社選書メチエ/2020年10月刊/1980円(税込)
■目次
序
第1章 倫理
第2章 触覚
第3章 信頼
第4章 コミュニケーション
第5章 共鳴
第6章 不埒な手
アイキャッチ、レイアウト/阿久津健(56[守]師範)
編集/新井陽大(55[破]評匠)、大濱朋子(44[花]花伝師範)、角山祥道(44[花]錬成師範)
【感門90】読奏エディストリート――師範が読む [バックナンバー]
#02『うたげと孤心』(原田淳子、山下雅弘、牛山惠子)
#03『ことばと身体』(古谷奈々、大濱朋子、得原藍)
#04『ゲーテはすべてを言った』(阿久津健、一倉広美、相部礼子)
#05『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』(奥本英宏、石井梨香、北原ひでお、山崎智章)
#08『手の倫理』(上原悦子、阿曽祐子、新井陽大)
ISIS core project
イシス編集学校[当期師範&学林]チーム
「Pauca sed Matura」の言葉を背負い、守破離花遊の全指導陣が一挙集結する[ISIScore]。感門プランニング、エディットツアー運営、編集知のリバース・エンジニアリング、全てがここで交差する。知を組み立て、知を裏返し、知を書きなおしていく編集分子たちの風姿を垣間見よ。
【感門90】読奏エディストリート――師範が読む#11『守破離の思想』
44[花]の演習が佳境のさなか、花伝生の背を押すような本が刊行されました。「型」や「離見の見」、「稽古」などを語る西平直の『守破離の思想』(岩波書店)です。 師範の「マーキング」と「ヨミトキ」で奏でる、第9 […]
【感門90】読奏エディストリート――師範が読む#10『赤光』
55[破]破天講(師範代の勉強会)で、歌人でもある天野陽子師範が物語編集術のレクチャーとして用いたのが、大正2年に刊行された斎藤茂吉の歌集『赤光』(新潮文庫)でした。改めて3人の師範が、茂吉の短歌に物語を与えます。 &n […]
【感門90】読奏エディストリート――師範が読む#09『地球星人』
[遊・物語講座]には、「文叢」という名の教室があります。今期[18綴]は、産霊山ランデヴー文叢、地球星人服従文叢、沼地の果ての温室文叢の3文叢。いずれも「2つの物語の一種合成」によりネーミングされ、担当師範代の「らしさ」 […]
【感門90】読奏エディストリート――師範が読む#07『百書繚乱』
全ページオールカラーのビジュアルブックガイド『百書繚乱』(アルテスパブリッシング)。松岡正剛が自身を形作る500冊超の本とのインタースコアを試みた同書は、イシス人必読の書といえるでしょう。 第90回感門之盟 […]
【感門90】読奏エディストリート――師範が読む#06『異界を旅する能』
イシス編集学校の奥の院・花伝所といえば世阿弥。花伝所は、世阿弥の方法で貫かれています。その世阿弥に近づかんとするのが本書『異界を旅する能 ワキという存在』(安田登/ちくま文庫)。師範が、本書を通して世阿弥の方法を語り直し […]
コメント
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2026-03-05
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2026-02-24
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