師範も師範代も粋に向かう【50[守]伝習座】

2022/12/18(日)12:03
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 メモリアルな50[守]に新たな記録が刻まれた。師範の加藤めぐみが用法4の解説を担当したことで、伝習座初となるグランドスラムが達成されたのだ。これまで加藤は49[守]で用法1と用法3を、50[守]第1回伝習座で用法2を真摯な眼差しを向ける師範代達に手渡してきた。


 用法4は「きめる/つたえる」。用法3までに育てたイメージを 伝えていく。そこには相手や目的、ルール、メディアといった与件がある。では「きめる」とはなにか?加藤は語る。

 

「決める」とは、編集中であったモノの無限の可能性を中断し、ひとつのカタチを選び取る、決断することです。「仮」にでも自分の編集を中断して世に問うことで、物事は前に進んでいきます。

 

 つたなくても思いを形にしなければ相互編集は生まれない。完璧主義や、伝わらないことに対する過度の恐れは、編集力の成長を阻む。「きめる/つたえる」には方法と共に勇気が必要なのである。加藤はこの「勇気」と九鬼周造の「いき」を対角線で繋いで見せた。

 

「いき」は「媚態」「意気地」「諦め」の三位一体によって成り立っています。

 

 加藤の「きめる/つたえる」が、鋭くも穏やかに本楼とZoomに広がっていく。

 「媚態」は伝えたいわかり合いたいという意志であり、モードを相手のために寄せること。「意気地」はやすやすと相手の虜になってしまうことを自分にゆるさない誇りであり、モードがコードを押しつぶしてしまうことを許さないこと。「諦め」は未練、執着をきっぱり断ち切る心構えであり、伝わらないかもしれないことを受け入れ、放した編集の行く先を世界に託すこと。この3つを兼ね備えた指南がカッコイイのである。

 

記念すべき50[守]のこの20 教室から、後世に受けつがれる新たな指南モードや教室運営のスタイルが生まれることを願ってやみません。

 

 加藤のグランドスラムと共に、後々まで語られる50[守]となるべく、師範代達は「いき」な指南に向かっていく。

 

 

 

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コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg