週刊キンダイ vol.005 ~ ハンシがゆく ~

2025/06/11(水)12:00
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 乱世には理想に燃える漢が現れる。

 

 55[守]近大番に強い味方が加わった。その名もハンシ。「伴志」と書く。江戸時代の藩を支えた武士のようであり、志高く新時代を切り開いた幕末の志士のようでもある。近大番が、主にペースメークやお題解説、稽古の仕方を近大生に伝えれば、伴志はよりメタな視点で編集を語る。

 

 その新しいロールを担ったのは蒔田俊介。44[守]間架結構教室、44[破]ミドル永字教室の師範代を経て、花伝師範を務めた。また黒膜衆としてイシス編集学校のイベントを支えている。感門之盟で司会を務めるなどトークにも定評がある。仕事は「資本主義のど真ん中」と言うが、編集工学に軸足を置き、近大生と編集工学、近大生と世界をつなぐ。侍の目をしている。

 

黒膜衆としても活躍。青眼の構えでカメラを持つ蒔田

 

 蒔田は言う。「『はんし』という音はいろいろな連想を呼び込めそうで膨らませていきたい。そのとき真ん中に置くのは、字義からも何かやろうとしていることへの伴走。本人も気づかぬ志にカーソルを向けられるようにできたらいいと思っています」

 

 稽古に伴走し、近大生のカーソルを刺激すべく、「志便(しび)」と名付けた編集語りを数日おきに届けている。

 

 初回は55〔守]開講翌日の5月13日。編集稽古ではなぜ振り返りが必要なのかを、AI資格を必修化した企業とつなげて語った。情報をインプット・アウトプットする際、ヒトとAIにはどんな違いがあるのか-正解を示すわけではなく、学生にも考えさせた。

 

 以降、『情報通信白書』とフィルターを重ね、池上彰・入山章栄の対談本『宗教を学べば経営がわかる』で地と図を、アートとサイエンスをカブキっぽいことに、2歳の愛娘も登場させ(寝起きは機嫌がよくないらしい)レッテルとラベルを、たくさんのわたしをキャリアにつなげて語った。稽古の進捗に合わせて届ける話題が変幻自在なのだ。

 

 蒔田は伴志として近大生に何を伝えたいのか、最後に聞いてみた。

 

 「リカレント教育なんて言われていますが、そんなこと言われる前から、場はどうあれ、仕事と学びは循環(リカレント)していたと思います。仕事柄、新卒社員やその直前の内定者/候補者と面談や面接をします。そうした接点から感じること、こうしておくと良かったと思うことを取っ掛かりに、どんなことを伝えるか考えています。考えているのは結局のところ、これからも続けていく学びにきっと必要になってくるであろう編集工学の考え方、その一端だけでも伝えたい」

 

 最新の「志便」では、ロジカル・シンキングに触れ「論理ではなく物語、物語という方法が求められつつある」と書いた。蒔田の編集工学ど真ん中の言葉が、近大生の志を動かす。

 

 人を見つめる眼差しはやさしい
 

写真提供/蒔田俊介・衣笠純子

アイキャッチ/稲森久純

文/景山和浩

 

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コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg