自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
春の嵐が吹き荒れた日、本楼の一角に一夜限りのバーが出現した。名前をEDITBARという。
本楼カウンターが表舞台になったのも、マダムと化した[守][破]学匠の胸にスパンコールが光るのも、学衆の隣に師範代がいないのも、初めて見る光景だった。
招かれたのは5人の学衆。教室の仲間にも師範代にも知らせぬとの約束を守り、ある者は教室ごとの卒門式を不自然に抜けて、豪徳寺にやってきた。
迎えたのは3人のマダムと客人の選んだ数寄本。ブルーライトに浮かび上がった共読模様と5人の「わたし」を紹介しよう。

マダム康代と対話する46[守]学衆(右から、今野さん、羽山さん、浦野さん)
ぎりぎりを狙う男の礼節
浦野裕さん(46[守]かりぐらジョジョ教室)
やんちゃな回答を繰り出す自称「鉄砲玉」は、師範代の度量を試しているかのようであった。一方で、かなりの時間を指南に費やす師範代をブラックな中間管理職に準えて気遣ってもいた。なのに師範代は、楽しそうである。観察の末、常に学びの最中だからモチベーションが続くのだと思い至った。守の稽古は常に予想のナナメ上だったという。[破]ではきっちりかつ縦横無尽に落とし前をつけてくれるに違いない。
◆数寄本にひとこと◆
『白川静 漢字の世界観』松岡正剛
寝る前のウイスキーのようにちびりちびりと読むのが好き。
●マダム’Sポチ袋●
{編集学校は「表したい」が叶う場所。衝動に駆られてね!}
冴える星空の野望
羽山暁子さん(46[守]弓心一射教室)
はじめて学衆が参加した46[守]第2回伝習座。羽山は史上初学衆の一人だった。ZOOM越しであったが熱量と丁々発止に触れ、編集愛とイシス愛に感動した。仕事を持ちながら細やかな指南を届け続ける師範代の振舞いを見て、弱音は吐けないと稽古に励んだ。今は見えていないが、奥にはもっと熱いものがあるのだろう、それを知りたい気持ちになっている。星と弓とをつないだ物語に、羽山は何を一種合成するのだろうか。
◆数寄本にひとこと◆
『二十世紀の忘れ物』佐治晴夫+松岡正剛
深すぎて広すぎて何もわかっていなかった。
●マダム’Sポチ袋●
{メタファーで科学を語る佐治先生に肖って♪}
ハイパーファーストペンギンの純情
今野知さん(46[守]角道ジャイアン教室)
全員でうねる稽古を続けた教室で、今野はトップ回答の常連だった。0時にお題が出たら朝には回答、早い時は40分後に返した。家族割を活用して夫婦で受講している。もともと多かった会話がさらに増し、この5カ月はイシス一色となった。[破]にも一緒行くことを決めた。つらい時には補いあった同志とともに、「考えるな!お題が来たらとにかくやる」で突き進む。
◆数寄本にひとこと◆
『ドミトリーともきんす』高野文子
高野文子は目標の一人。セリフが詩的です。
●マダム’Sポチ袋●
{編集学校の「四天王」は無数。「地」によって変わるのよ。
今野さんは何天王?}

45[破]藤島さん(左)と小椋さん
諦めない歩みで共読を召喚
藤島あつこさん(45[破]ガンダム蓮結教室)
ハイパープランINFORMで教室代表に選ばれた。教室内で意見を出し合い、イメージをふくらませた。「これでいいか」と提出しようとした時、更なる提案が出され、最後には自分の手を離れて、思いもよらぬプランに成長した。これがイシスなのかと思った瞬間だった。本選に進めなかった時、藤島が悔しさを露わにしたのは、教室みんなで練り上げたプランが最高だと確信していたからだ。
◆数寄本にひとこと◆
『弓と竪琴』オクタヴィオ・パス
「異質」は稽古のキーワード
●マダム’Sポチ袋●
{インフォームが自分のものか人のものかわからなくなる。
まぜこぜ状態が共読の醍醐味よ}
知らない私への出遊
小椋加奈子さん(45[破]播州ざこば教室)
小椋はダンドリ上手である。割り切れない状況は苦手なはずだったが、[破]の期間は常に宙ぶらりんの感覚を持ち続けていた。汁講で教室の仲間に「クロニクルで変わったね」と声をかけられた。振り返ってみると、開講当初の「場違いなところに来てしまった」という卑屈な気持ちがなくなっていたのがクロニクルの頃だった。宙ぶらりんのようでも変化していた自分を、他人に見つけてもらった気がした。自分が知らない「わたし」と出会うべく、次のステージに向かう。
◆数寄本にひとこと◆
『24人のビリー・ミリガン』ダニエル・キイス
どうにも受け止め切れないものに惹かれる。
●マダム’Sポチ袋●
{もやもやを抱え続けることが編集}
★★★
動物は食物という「異質」を摂取することで命をつないでいる。突然変異による「変化」は生き残るための道具になる。それなのに、皆が自分を限定しすぎている。「たくさんのわたし」に気づかず、自ら自由を削っているのだ。教室も感門之盟もわたしも「新奇」を組み入れて成長する。時は春分、マダムからのポチ袋を手にした5人の「わたし」は、強さを増していく陽の光とともに多方向に伸びていくだろう。
石井梨香
編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。
松岡正剛校長と歩んだ二十年、編集の志を継いで―玄氣玄影のつどい【九天玄氣組】
松岡校長への思いがひとつになった夜、九天玄氣組は二十周年を迎えた。 11月2日(日)、田中優子学長と福元満治氏をお迎えしての九天玄氣組20周年イベント「千夜千冊から九州を読み解く」が無事終了。午後7時からは福岡市天神・テ […]
イシス編集学校九州支所「九天玄氣組」は今年20年め。周年事業の軸として「九州の千夜千冊」を冠したQten Genki Book『九』を発行した。松岡正剛の千夜千冊から選んだキーブック1冊ごとに33冊のグループをつくる「三 […]
ゲストは田中優子学長!!「九州の千夜千冊」刊行記念イベント必聴です
イシス編集学校九州支所「九天玄氣組」は今年20年め。周年事業の軸となるのは「九州の千夜千冊」を冠したQten Genki Book『九』の発行だ。松岡正剛の千夜千冊から選んだキーブック1冊ごとに33冊のグループをつくる「 […]
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【販売開始】11月2日(日)Qten Genki Book『九』刊行イベント-九州の千夜千冊vol.7-
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コメント
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2025-11-18
自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
2025-11-13
夜行列車に乗り込んだ一人のハードボイルド風の男。この男は、今しがた買い込んだ400円の幕の内弁当をどのような順序で食べるべきかで悩んでいる。失敗は許されない!これは持てる知力の全てをかけた総力戦なのだ!!
泉昌之のデビュー短篇「夜行」(初出1981年「ガロ」)は、ふだん私たちが経験している些末なこだわりを拡大して見せて笑いを取った。のちにこれが「グルメマンガ」の一変種である「食通マンガ」という巨大ジャンルを形成することになるとは誰も知らない。
(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)
2025-11-11
木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。