イスラエルで起こっていることから目をそらすな、ガザの惨劇に目を向けよ、…と言いたいのは山々なのだが、そう、ことは簡単にはいかない。SNS時代の自意識というのか、冷笑系のセルフつっこみとの戦いが待っている。令和の社会派は、なかなか大変なのだ。
夕暮宇宙船『未題』は、pixivサイトでも無料で読めるが、書籍版(『小さき者たちへ』)もアリ。売り上げはパレスチナ支援に充てるとのこと。
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
石川英昭さんは、名古屋市の病院に勤務する内科医だ。本屋で見つけた『知の編集工学』をきっかけにイシス編集学校の門を叩き、忙しい仕事の合間を縫って基本コース[守]と応用コース[破]を高速で駆け抜けた。2021年秋に[破]を終えて1年半。教室の仲間からは「戦隊モノでいうなら、間違いなくレッド」と慕われる頼もしき兄貴分に、イシスでの学びはどのような変化をもたらしたのか。
イシス受講生がその先の編集的日常を語る、新しいエッセイシリーズ。
第一回は石川英昭さんのエッセイをお届けします。
コロナ禍は、感染対策の錦の御旗の元に、病院業務を完全に塗り替えた。
なかでも患者家族面会の禁止は、もっとも残酷な結果をもたらした。ただでさえ、不安で孤独な生活を強いられながら、家族面会という、心安らぐほんのひと時を奪われた入院患者さんの心身の状態は、急速に悪化したからだ。スタッフも常に緊張を強いられ、病人を思いやるという余裕が失われた結果、病棟は重苦しい空気に包まれた。
なんとかせねば。
当院は以前から「認知症カフェ」と称して、通院患者さんや地域住民を招待し、合唱をしたり、笑いヨガを体験頂いたりする憩いの場を提供してきた。そのノウハウがあった。幸い、音楽療法士の常勤職員もいる。音楽に合わせて一緒に歌ったり、笑ったり。こうしたコミュニケーションは、コロナ禍の入院患者さんこそ間違いなく必要だ。
ところが会議で提案するも、感染対策の絶対的ルールが立ちはだかる。また現場スタッフの業務負担を懸念する声もあがった。しかし諦めるのはまだ早い。逆境はむしろ病棟を「再編集」するチャンスだ! イシス門下生としての血が騒いだ。
ルールといえば、イシスで学んだ《ルール・ロール・ツール》の《ルル3条》。まずはルール作りだ。音楽療法士らに、病棟師長が満足するレベルの消毒や換気を含む感染予防策を徹底指導し、習得させた。また患者さんがリラックスして過ごせれば、夜もよく寝てくれて、見守り仕事はむしろ減るであろうと、スタッフらを説得した。これでルールはOKだ。
足りないのはツールだ。音楽提供を、医者が率先する医療行為に昇格させれば良いのでは? これを詰めることで、「音楽療法指示書」という院内公的文書、つまりツールが完成した。
リハビリやその他ケアの時間を避けて、介入する。患者さんの急な状態悪化への対応は、看護師さんがフォローする。よし! ロールも明確化された。
こうした紆余曲折を経て、2020年末に産声をあげた病棟音楽療法は、漂白された病棟を優しい音色で彩った。予想どおり患者さんの笑顔も増えたが、むしろ癒されたのは、意外にもコロナ対応に疲弊し切った我々医療スタッフの方だった。
さあ、次はなにをどういじってみようか、どんな型を使おうか。ある勤務医の編集的挑戦はまだまだ続く。
▲腎臓内科一筋20余年。頼れるレッドの「病院編集」は続く。
■後日談■
石川さんが勤める病院の音楽療法は評判を呼び、ドキュメンタリー映画『認知症と生きる希望の処方箋』(野澤和之監督、2023年5月公開)で取り上げられることになったそうです。石川さんご本人も、数分出演しているとか。
文・写真提供/石川英昭(46[守]いいちこ水滸伝教室、46[破]ジャイアン対角線教室)
編集/角山祥道、羽根田月香
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2026-01-08
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──「これは美味しいから」といただいた農家さんからのオマケ。切れば甘味成分ソルビトールが沁みていた。覗いてみたくなる世界は尽きない。