サプライズは突然に【79感門】

2022/09/12(月)08:00
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名作の物語には、サプライズがつきものである。

 

第79回感門之盟「イシス題バシティ」の二日目も佳境にさしかかろうという夕暮れ時、“あの人”にサプライズが起きた。

 

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感門二日前のリハーサル。

「当日は、赤い口紅で決めてね」ーー松岡校長から直々に「お題」が届く。

 

「赤のリップありますか?」翌日、資生堂の化粧品コーナーに足を運んだ。

「どんな服がいいかしら?」装い編集の名手、佐々木千佳にすかさずメールを入れた。

青のトップに黒のボトムも考えたけれど、最終的にリップに合わせたマゼンタのワンピースに決めた。

 

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感門当日。卒門式での役割を終え、あとは松岡校長による「校長校話」を残すのみ。ISISバーカウンター前の椅子に腰掛け、ようやく緊張がほぐれてきたその時。

 

「この方を壇上にお呼びしましょう」

 

突然、声がかかる。呼ばれるがままに壇上へ上がると、司会の美濃越香織花伝師範が、大きな花束を抱えて待ち構えていた。

 

「[守]学匠を10期つとめてくださりありがとうございます!」

 

 

“あの人”こと、鈴木康代は、感門を寿ぐ[守]学匠から、寿がれる主役へロールチェンジした。

 

鳴り止まぬ拍手の中、突然のサプライズに思わず両手を口で覆う鈴木康代[守]学匠

 

伝習座でも感門之盟でも、康代学匠が登場するとその場が一気に明るくなるーー「人や場を生き生きさせる」編集を、存在そのもので体現してきた康代学匠も、今回ばかりは思わず涙、また涙。

 

冨澤陽一郎道匠が病に倒れられて以来、康代学匠は学匠代を経て、40[守]から今まで10期もの間、学衆にとっての原点である[守]を支えつづけてきた。

 

メッセージを求められた康代学匠は、「校長がどのようなおもいを込めて編集学校やお題をつくってきたのかを、もう一度読み解きたい。そのおもいで40期から学匠をつとめてまいりました。何より、学林局のみなさん、番匠、師範、師範代、そして学衆のみなさんが、毎期その場にいあわせてくださいました。だからこそ、私はこの今この場に立たせていただいています」と、花束を胸に心境を言葉にした。

 

「あと10期、よろしく頼むよ」ーー松岡校長から、すかさず次の「お題」が届く。

 

お互いに礼をする松岡校長(左)と康代学匠(右)

 

学匠はですね、教室をもたないために、誰も止まらずにみんなが過ぎ去っていくんです」(康代)

「孤独だよね」(松岡)

「はい。私でもちょっぴり孤独になるんですよ」(康代)

 

思わずこぼれた学匠のつぶやきに、会場は笑いに包まれる。突然のサプライズの場であっても、人や場を生き生きさせる“康代節”は健在だった。

 

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サプライズで幕を閉じた10期のフィナーレは、「あと10期」というお題からはじまる、新たな物語のプロローグとなった。

  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。