未知の体験について、あらかじめ形を与えてくれるのが物語の力だ。
2013年にCINRA.NETに取材されたときの、[遊]物語講座を率いる赤羽卓美綴師の言葉である。記事掲載から7年が経ったが、コロナ禍やリモートワークという未体験の日常と繋がった現在、物語がもつ力は今こそ求められている。
物語という回路は、実は一人ひとりの頭や心の中に埋め込まれており、人が3歳くらいの頃、略図的原型を持ちはじめる。「ブーブー」「マンマ」「ワンワン」など、単語ばかり話していた子供が突如「このブーブー、知ってるよ」などと話し始める。それまでに繰り返し発話していた言葉や記憶が、物語回路によってつながったのだ。
成長に従って、原型だった物語は新たな物語回路として形成されていく。前述したように、これから起こる自分の周りの出来事もひとつの物語と捉えていく。野球部で必死に練習をしている高校球児がいたとしよう。彼は、『タッチ』『MAJOR』といった漫画のサクセス・ストーリーや、甲子園予選で敗退し涙する球児の物語を見て、野球部員の青春ドラマのプロセスを知り、先の見えない自分の物語を前に進めるのだ。
そもそも情報は一面からでは語ることができない。同様に自己という存在も多面的に捉えていく「たくさんのわたし」が出入りして、「こうにもなれる」「ああにもなれる」という、あらゆる可能性を秘めている。野球部の物語以外にも恋愛ストーリー、家族との葛藤、友人との対話、内省する思索。自分自身の未知の物語を動的な可能性に向かわせるために、物語を編集し、動かし続ければいい。物語の型と編集力を携えれば、未来に向けた物語を自在に編んでいくことができるのだ。
「物語編集力」の真髄を極める[遊]物語講座は2020年秋に開講する。受講者の多くがイシス編集学校でもっとも面白い講座だと口々に語るのが物語講座である。それは、全ての編集術、編集力を動員して、リプレゼンテーションに向かっていくことであること、そして物語を書くことで偏狭な自己から解放されていくことが大きいだろう。[遊]物語講座についてはこちらから。
物語がもつ力に関心をもたれた方は、創世記からイシス編集学校にかかわっている赤羽綴師の編集観を、まずはCINRA.NETの記事でご覧いただきたい。
衣笠純子
編集的先達:モーリス・ラヴェル。劇団四季元団員で何を歌ってもミュージカルになる特技の持ち主。折れない編集メンタルと無尽蔵の編集体力、編集工学への使命感の三位一体を備える。オリエンタルな魅力で、なぜかイタリア人に愛される、らしい。
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