発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

だんにゃんさん(50代・男性)のご相談:
野良猫の名前で少し困っています。お隣さんは野良猫に優しく、ご飯など与えています。不妊去勢手術なしにご飯だけ与えるという接し方は、自治体によっては好ましくないと明記されているでしょう。隣の野良猫たちは我が家の小さな庭をトイレ代わりにすることもありますが、ネコたちに説明してもなかなか理解を得ることは難しいので、こちらで処理しています。よく見かける野良猫ですので、親しみも湧きます。あるネコはバーベキューコンロの上でよく寝ているので、「焼きネコ」と読んでいます。子猫の時からときどき我が家の窓のところに来ていたふてぶてしいネコは「安井さん」と名付けました。
ある日、家の近くを歩いていたとき、「焼きネコ」がいたのでうちの子供が名前を呼びました。すると隣の奥さんが語気を荒げて「シーラちゃん!おいで!!」と私たちは少し睨まれてしまいました。子供と今後どんな風に呼びかけようかちょっと考えているところです。私たちは「焼きネコ」を否定されることはないだろうと思っているのですが…。
サッショー・ミヤコがお応えします
マンション猫ばかりが増える昨今、なかなかよそ様の猫は触らせてもらえませんが、気楽に往来しながら暮らしている様子、うれしく拝見しました。あちこち気ままに出入りしては好きな場所で餌にありつき、その見返りに好きな名前を人に呼ばせている猫の姿をお手本に、江戸の通人たちは複数の自分をつくりあげ、内なるダイバーシティを発揮する方法を見出したようです(池上英子、田中優子『江戸とアバター』朝日新書参照)。
猫の複数性、時にワープしているとしか思えない同時存在性はほとほと興味深く、サッショーん家の猫なんかも、よくとんでもない彼方にてドッペルゲンガーしています。「焼きネコ」さんも、またすぐバーベキューコンロへ戻ってくるでしょう。「安井さん」が隣の奥さんの旧姓でないことを祈るばかりです。
千悩千冊0022夜
ペロー、朝倉朗子訳
『完訳ペロー童話集』(岩波文庫)
「眠れる森の美女」「赤ずきんちゃん」「青ひげ」「長靴をはいた猫」「サンドリヨン(シンデレラ)」「親指小僧」など、わたしたちが絵本や童話で、子供さんたちの世代はアニメやディズニーでおなじみの有名な物語のプロトタイプが収められています。一つずつ読んでいくと、「あれ、オーロラは姫ではなく娘の名前なの?」「赤ずきんちゃんはオオカミにあっさり食われてしまうの?」と、いろいろな疑問が湧いてくるはずです。
そう。それが物語の遺伝でしばしば起きる「別様」の可能性であり、物語の自由そのものです。もうお判りでしょうが、毎日違う名前を呼ぶ自由だって、わたしたちにはあるのです。万が一にも隣の奥さんに叱られたら、「シイラってハワイではマヒマヒっていうんですよね。強い強いって意味らしいですよ。〈無理強い〉の〈シイ〉なんでしょうか?」とかなんとか、だんにゃんさんが談義する人であることを示してやりましょう。あ、あと気になったのですが、奥さんが気にされてるのは、自分チの飼い猫が「野良猫」扱いされていることじゃないですか、もしかして?
◉井ノ上シーザー DUST EYE
隣家の奥さんの独善的な性格が気になります。次の新顔の猫に「このやろう」という名前をつけましょう。そして、最高級のキャットフードをこっそりとあげて歓心を買う。隣家の奥さんは「この野郎!」と言われながら、あなたにすり寄っていく猫に価値観がひっくり返り、出家するかもしれません。
「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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コメント
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2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。