{[(ゴミムシぽいけどゴミムシではない分類群に属している)黒い星をもつテントウムシに似た種]のように見えるけど実はその偽物}ことニセクロホシテントウゴミムシダマシ。たくさんの虫且つ何者でもない虫です。
多読ジム出版社コラボ企画第一弾は太田出版! お題本は「それチン」こと、阿部洋一のマンガ『それはただの先輩のチンコ』! エディストチャレンジのエントリーメンバーは、石黒好美、植村真也、大沼友紀、佐藤裕子、鹿間朋子、高宮光江、畑本浩伸、原田淳子、細田陽子、米川青馬の総勢10名。「それチン」をキーブックに、マンガ・新書・文庫の三冊の本をつないでエッセイを書く「DONDEN読み」に挑戦しました。
愚息を二人育ててきた。保育園や学童、野球の応援等子ども達と触れあう場も多い。が、当時の私は、なぜか少女達の名を覚えることができなかった。少年達は見分けられるのに、彼女達はみんな少女Aになってしまう。今なら分かる。○○ちゃんの母という仮面の下の素顔を覗き込もうと容赦なく突き刺さる視線が怖かったのだ。そんな私だが、仮想世界の住人は安心して見つめられる。たとえ、どんなに刺激的なタイトルでも。
奪う快感、失う哀感
それは本体から切り離されたチンコを愛でる少女達の物語。奪う性と奪われる性が逆転した世界で、少女達は、本体の分身のチンコへ所有欲と偏愛を注ぎ込む。
本体のハートを奪えば殺人だが、チンコは再生するから安心だ。故に彼女達は気兼ねなく奪い続けるのだ。
本体からギロチンで切り離されたチンコは、あまり長くは生きられない。だからあるものは帰巣本能に任せて本体を求めて事故に遭って絶命したり、目の前にあった少女の股間に寄生して延命したりする。
しかし、実はチンコの再生回数は無限ではなく、本体の命も断たれる存在だという現実を、少女達が悟る日がある日唐突にきてしまう。
本体が無ければ、それは名も無きただのチンコにすぎなかったのだ。では、その逆は?
「チンコのない本体」だけを選ぶ子ってなかなかいないもんです…。」と呟くギロチン屋の須田のチンコももう
生えてこない。そこは、チンコを奪われる者と、チンコを失った者と元々チンコを持たない者が棲む世界だったのだ。
それでも、チンコはチンコと呼ばれることができる。 では、なぜ現代日本では女陰語を口にすることさえ憚られるのか。
疑う常識、名乗る勇気
『全国マン・チン分布考』は、元朝日放送プロデューサーの著者が、テレビ番組「探偵!ナイトスクープ」で携わった「全国アホ・バカ分布図の完成」編の企画で全国市町村にアンケート調査した方言分布を基に、放送禁止用語のため当時はテレビメディアで発表できなかった女陰語と男根語の分布をまとめた研究書である。
調査結果から京都を中心に、同心円的に日本列島で言葉が広がる「周圏分布」の傾向が、女陰語と男根語でも見られることを図式化するとともに、既存の文書での言葉の由来の定説を鵜呑みにせず、徹底的に検証していく迫力が、この研究成果の真骨頂だ。そのルーツは、共にいとけなきものを慈しむ上品な京ことばと見定めた。
表現豊かだった日本語の歴史を過去の文献から偏見や色眼鏡なく如何に繙いていくか。この一冊を読めば、現代日本社会の「常識」に潜む見えない圧力の恥ずかしさに思い至るに違いない。
それにしても、日本人は、一体いつ頃から言語統制や自主規制を疑わなくなったのか…。
オモテの愛着、ウラの執着
明治初期に日本を訪れたお雇い外国人たちは、一様に日本の子供達が大人に可愛がられ、児童虐待も皆無であり、他のいずれの国の子供達よりも多くの自由を持っていると絶賛していた。しかし、と著者の氏家は反問する。
「本当にそうだったのか。」
そして、市井の奇異な事件や顛末を記録した役人の日記や覚書を中心とした史料を駆使して当時の少年少女の姿を炙り出す。そこで露わになってくるのは、齢8歳で出産した幼女、養育金目当てに三つ子の誕生を必死に言上する父親、少年を拉致し生き肝を喰らう誘拐犯、養育金目当てに貰い子を受け次々に殺す夫婦…。環境は寧ろ残酷だったのだ。
そんな理不尽への反抗心は、若者達の胸のうちに積み重なり、逸脱行為へとつながった。同性愛の恋に駆られた少年達の人情沙汰、村社会で<悪少年>が繰り広げる放埒と暴動は、身分社会に対する不満と不安の裏返しだ。
一方、町娘たちは趣味芸事という武器を身につけ、身分を問わず交流する都市文化を着々と育み、時代を半歩先へと導いていく。
少年達の逸脱は、やがて江戸から東京へひっくり返すエネルギー源となり、少女達の意図なき強かな交流は、社会の常識を心の奥底から塗り替える礎となっていく。
こうしてみると、江戸の頃にはまだ確かに市井のなか に熱情がたぎっていたはずなのだ。
ウラがえし給え、名乗り給え
さて、日本の現実社会は未だにマスクで顔を覆い続け、それ以前の自由な思考を忘却しつつあるように見える。
大切なのは、表舞台を照らす光の歴史と無視された闇とのあわいで、途切れることなく紡がれてきた変化する力を引き出す言葉達を、次世代に語り継ぐ勇気だ。
『それチン』では、まさに所謂「常識」をウラがえす逸脱の遺伝子が発動し、自由に物申すことを無意識に選び貫いた少女達の革命の顛末が顕になったのである。
Info
⊕アイキャッチ画像⊕
∈『それはただの先輩のチンコ』阿部洋一/太田出版
∈『全国マン・チン分布考』松本修/インターナショナル新書
∈『江戸の少年』氏家幹人/平凡社ライブラリー
⊕ 多読ジムSeason10・春 ⊕
∈選本テーマ:版元コラボエディストチャレンジ
∈スタジオ彡ふらここ( 福澤美穂子冊師)
細田陽子
編集的先達:上橋菜穂子。綿密なプランニングで[守]師範代として学衆を全員卒門に導いた元地方公務員。[離]学衆、[破]師範代と歩み続け、今は物語講座&多読アレゴリアと絵本の自主製作に遊ぶ。ならぬ鐘のその先へ編集道の旅はまだまだ続く。
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コメント
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2025-12-02
{[(ゴミムシぽいけどゴミムシではない分類群に属している)黒い星をもつテントウムシに似た種]のように見えるけど実はその偽物}ことニセクロホシテントウゴミムシダマシ。たくさんの虫且つ何者でもない虫です。
2025-11-27
マンガに限った話ではないが、「バカ」をめでる文化というものがある。
猪突猛進型の「バカ」が暴走するマンガといえば、この作品。市川マサ「バカビリーバー」。とにかく、あまりにもバカすぎて爽快。
https://yanmaga.jp/comics/
2025-11-25
道ばた咲く小さな花に歩み寄り、顔を近づけてじっくり観察すると、そこにはたいてい、もっと小さな命がきらめいている。この真っ赤な小粒ちゃんたちは、カベアナタカラダニ。花粉を食べて暮らす平和なヴィランです。