イシス編集学校にひとつのウワサがある。最近、“松岡正剛校長Love”な若手メンズが編集学校に急増しているらしい。エディスト編集部では、それらしき3人の若手メンバーにひとまず話を聞いてみることにした。すると、水を得た魚とはこのことか!息つく暇なく口をついて出てくるのは、松岡校長や編集工学へのあくなき思慕、秘めた思考や連想だった。
そこで場を改め、2022年8月某日、若きメンズの熱量と独自のアナロジーの源泉はどこにあり、どこへ向かうのか。その生態を紐解くべく、オンライン鼎談の場を用意した。
連載の最終回は、松岡オシ若手3人衆「チームYADOKARI」が松岡正剛を理解するためにいそしむ推し活、そしてズバリどこが数寄?に迫る。
(聞き手:エディスト編集部 上杉公志、マツコ)
バックナンバー
推し活の始まりはいつ? ──松岡正剛オシな若きメンズの生態(1)
自分のなかの“松岡性”をクロニクルに見出す ──松岡正剛オシな若きメンズの生態(2)
松岡正剛校長のイメージ:「たくさんの校長」とは? ──松岡正剛オシな若きメンズの生態(3)
マツコ なんかね、私、フワーッとした気分になってきましたよ。松岡正剛校長の面影が、若きメンズのクロニクル(自分史)から浮き立ってきたり。みなさんが著作や千夜千冊やその他の接点から描く校長のイメージを、さらにモワーっと広げてみたり。3人で広げる仮説に “???” となったり。これはやっぱり“正剛愛”というのかなぁ。
網口 以前に[守]の鈴木康代学匠が、学匠を引き受けることで変わったことがなにかといえば、自身の内側が広がったとおっしゃっていたんですよ。一人の人間の中に荒事的なこともあれば、和事的なものもある。両方あって、その葛藤を超えていくと、むしろ内側が広がっていくと。松岡校長もずっと葛藤を超えてきたから、その過程でかわるがわる認識も変わってきて、こんな風にたくさんの松岡正剛のイメージができてきたんだろうなと思いました。普通なら、どこかでやめてしまってもおかしくないのに、20代のころからずっとトップで走り続けている人って、なかなかいないと思います。
マツコ そういえば、網口さんは、校長を学ぶために何かやっているといううわさを聞いたのですが。
網口 松岡校長が工作舎時代に推していたバタイユとか、カイヨワとか、フロイトの原著を、興味があるので好きで読んでいます。これはカイヨワとか、フロイトの原著を書きとったものなんですが、自分の気に入ったフレーズや気になるところを書きとることをしています。やっぱり僕も、山内さんと加藤さんと同じで、放っておくと仮説が広がるタイプなのでしっかり一字一句たがわず書き取ります。
上杉 それは、しっかり原文を書き取ると、仮説がより広がりやすいということなんですか?
網口 いろんな分野を読んでいると、異なるものを関係づけたくなるんです。日本・東洋・古代・現代といろいろ読んでいると、松岡さんと同じようにやりたくなってきて、こことここをつなげたくなる。自分が読んでいると似ていると思うんですが、それを読んでいない人からすると、とんでもないところから球が飛んできたと思われてしまうのが悩みです。たくさん読めば読むほどそうなりますが、でも、松岡正剛がいるんで、僕は大丈夫です(笑)
マツコ 千夜千冊についても、網口さんは好きなものを写経のようにノートに写しているということでしたよね。加藤さんには、そういうものがありますか?
加藤 僕はないですかね。
網口 でも詩とか音楽とかつくっていらっしゃるでしょう?発表したくない?(笑)
加藤 そういわれると、今はまだ手を付けられていないんですが、この先、音楽や言葉を形作りたいかなと思います。
マツコ 「たくさんの校長」をイメージするときに、音楽から言葉をイメージしてフレーズ化されましたよね。それもきっとひとつの表現ですね。
加藤 そうですね、この曲を聴きながら、「松岡正剛校長は東欧の不良たちが眠る夜行列車である。」というイメージをつくりました。
山内 あのぅ、ひとつ見ていただいてもいいですか。僕はこんな風に、仮説やイメージを図解してみています。これは、「遊」と「道」という漢字の成り立ちに関連性があるということを自分なりに図解したものです。
網口 山内さん、これは好みにまっすぐに向かっていますね。デザインも好きですよ、稲垣足穂っぽさもありますね。
山内 「道」「遊」の語源を調べて、関連する象形文字を配置しました。たとえば、「道」というのは、「鬼」の領域に旗を掲げて首をもたげて入っていく。虎・龍・兎・蛇など魑魅魍魎がばっこする中を進んでいく。その先に「遊」があるような構図です。月も出ていて、ここにたばこも置けば、「たくさんの校長」で出した“深夜3時の菫色反応”のイメージにも近いかな。
上杉 他にも、これからもこんな試みをやってみたということが出てきたら、Edistで発表できたらいいですね。
マツコ では、今までもさんざん松岡Loveを語っていただいたんですけれども、最後に、ズバリ、ここが数寄!注目しているポイントは?
網口 じゃあ、僕から(笑) 僕が編集工学を楽しく続けられているのは、イシス編集学校では、「複雑なものを複雑なまま取り扱うこと」を大事にしているという点からなんです。これから、編集や方法がもっと流行っていくなかで、イシス編集学校が決定的に世の中と違うキー・ポイントだと思っています。これは、編集工学研究所の安藤昭子さんが書かれた『才能をひらく編集工学 世界の見方を変える10 の思考法』にも記されていて、あ、やっぱりね、となりました。クロニクルで触れた『インナーゲーム』を読んでいたときに考えていたことでもあって。山内さんと加藤さんのクロニクルにも親和性があるなと思ったので、複雑なものを複雑なまま扱うってことを皆がわかってくれるようにどうしたらいいかなど、このチームYADOKARIメンバーなら一緒に考えられそうだなと今日は思えました。
マツコ 次にみんなで考えたいテーマをいただきました! 加藤さんはいかがですか? 松岡正剛のここが好き、というのはありますか?
加藤 ……好き、じゃないっすよ…。
一同 えー。さんざん今日話してきたのに?!
マツコ じゃあ、どんな気持ちに近いですか? それとも、もう放っておいてくれって感じ?(笑)
網口 一緒に隣でドーナツ食べたのにw
加藤 なんか…… さっき数寄の話をしていたじゃないですか。数寄、フェチっていうぐらいだから、それは偏愛ですよね。偏愛までいくと同化するんじゃないかと思っているんです。同化すると、だからこそ固まっていってしまうし、深化しない。理解も、自分の中の相似も広がっていかないと思っていて。だから、好きすぎるのもよくねぇな、みたいに思っていたんですけど、そんなこともないっすかね?(笑)
一同 あはは(笑)
網口 恋と愛を松岡校長は切り離されていますが、それを言っているのかもしれないですね、もしかしたら。
マツコ 好きなら好きって言ったらいいんじゃないかと(笑)
加藤 あははは、スミマセン、じゃあ、数寄です(笑)
一同 爆笑
山内 僕は同化できるならしたいです。校長のようなものすごい人に出会うと、1日だけその人の肉体・精神を借りてみたいと思っちゃうんです。
マツコ え?!肉体を借りるんですか!!!
山内 はい。なんでかっていうと、先ほど千夜千冊『棟梁』のことをあげたんですが、「ここらへんでいいや」と思うことが世の中に多すぎで、それではダメだということじゃないですか。そうすると多分、松岡校長と僕では、「ここらでもういいか」と思う感覚がべらぼうに違っているはずなんです。自分の中のここまでというリミットはきっと断然に違うスケールです。そういうのを、感覚で知りたい。ということで、同化できるならしたい。
マツコ マニアックだなぁ、それ(笑)。松岡正剛の感覚知を体感したいということですね。
山内 松岡正剛の1日肉体体験をしてみたいです、職場体験じゃないですけど(笑)
網口 それはぜひ守破離の[離]に入ってみてほしいですよね。
マツコ さっき加藤さんは、同化しちゃうと深まらなくなっちゃうんじゃないかと。山内さんは、同化しちゃってその感覚を知りたいと。お二人から、同じ「同化」という単語が出てきたけど、逆の発想でおもしろいですね。
山内 僕はとうてい松岡正剛のレベルにはなれないと思うんですが、“松岡正剛もどき”になれたらそれでもいいと思っていて(笑)、その焦がれを“松岡愛”と呼ぶなら、そうなのかな。
マツコ これはもう認定ですね!
網口 いやあ、自分が出会ってきた方の中では、だいぶ好きなほうだと思いましたよ。ポンポン出てきますからね(笑)
マツコ 加藤さんはちなみに、1日肉体体験はしなくても大丈夫ですか?
加藤 しなくて大丈夫です(笑) いやぁ、ぜひさせてください。どっちなのかわかんないっすね(笑)。
マツコ 3人のお話を伺っていると、ご自分の中に松岡正剛性を感じて、相似するところを見ているし、かと思うと全然違うところもあったり。でも、そうやってご自身と校長を重ねたり、離したりしながら存在を楽しんでいるような。でもそれって、数寄じゃないとできないのかなって。
上杉 うん、おもしろくなければやってないですよね。皆さんの、その「ゆらぎ」のような感覚がいいですね。これまで生きてきた中で、松岡校長や著作とのであいで生まれた「ゆらぎ」が、「未知へのワクワク」である一方で、なにか「恐ろしいこと」でもあるという感覚、わかる気がします。だからこそ、どう向き合っていくかをいろいろと試していって、変わったり、迷ったりしていただけたら。他にも葛藤やもやもやを抱えながら稽古している人もいると思うんです。だからまたこれからの変化を、このメンバーで一緒に見ていけたらと思います。
マツコ 上杉さんを含めこのメンバーは「チームYadokari」というんですよね。
上杉 そうですね、いま生まれようとしている新チームなんですよ。
網口 ヤドカリって、なんでですか? 僕の中では “♪やどかりかり こだわりやさん〜”、というCMを思い出しました。引っ越しか家のCMで、関西ローカルかな。
山内 そのCM知ってます、僕は名古屋ですが。このメンバーは皆さんがこだわりやさんでもありますね。
網口 後は少し調べましたけど意図がわからなかったです。また吉村林頭に遊ばれているのかなとも思ったのですが(笑)
加藤 やどをかりてるから、宿を借りながら旅を続けるという、松尾芭蕉みたいなイメージかと思いました。
マツコ YADOKARIの事の発端は、上杉さんなんですよね?
網口 加藤さんの“宿を借りる”が近いんじゃないかな。
山内 今日の話にこじつけるならば、ヤドカリって自分のサイズに合わせて宿を変えていくじゃないですか。だから、「殻に閉じこもらないで、これから自分の宿を、自分の方法をどんどんと着せ替えながら、若い僕らが大きくなっていく。新たな非自己を取りいれて進んでいく」、という感じでしょうか、今日のまとめっぽくもあって。
網口 おー、じゃあ、それで!
加藤 それで!
上杉 それで!
マツコ 上杉さん、みなさんが「チームYADOKARI」のイメージを作ってくださいましたね。前向き、前向き♪ これからも松岡正剛Loveな「チームYADOKARI」が、新しい仲間、新しいチームとして、エディストでも活躍していただけたらいいですね。
“少年はこの世で一番わかりにくい哲学だ。
ピュアな存在のようでいて、遊べば孤独になるし、
一人になれば、妄想に耽って悪だくみばかりを考える。
いつも友を求め、オトナの魂胆を見抜いて、
誰と「ぐる」になればいいのか、こっそり決めている。
そんな少年の憂鬱な浪漫がたまらない。”
(松岡正剛校長著『少年の憂鬱 千夜千冊エディション』 前口上より)
(4)ズバリ松岡正剛のどこが好き? (現在の記事)
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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