「学校教育ができないことばかり実現している学校ですね」田中優子先生のエール!【78感門】

2022/03/26(土)09:00
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 皆さん、まことにおめでとうございます。今日は、法政大学総長時代に卒業式で着ていた着物でまいりました。

 

 2日目の冒頭は、田中優子先生の挨拶で始まった。優子先生は守・破・離をコンプリートし、今回は物語講座14綴を受講したイシス編集学校の心強い理解者だ。松岡校長とは共著『江戸問答』『日本問答』(岩波新書)で対談しており、Hyper-Editing Platform[AIDA]ではAIDAボードメンバーを務めていただいている。2020年新春には、遊刊エディストで優子先生にロングインタビューを行ったので、ぜひ併せて読んでほしい。

 

 

 

佐々木千佳局長の「今回の感門之盟のテーマはREMIX編集草子ですが、『草子』とは何でしょうか?」という問いに、優子先生はこう答えた。

 

 御伽草子、仮名草子、もっと遡れば枕草子もありますが、草子とは耳で聞いた短い話を集めて書いたものです。誰かの身に起きた事件や経験が、家のなかや町の辻などで語られますよね。そういううわさ話や辻噺をもとにした短い物語を何本かまとめて冊子にしたのが草子です。

 

 江戸時代、仮名草子から浮世草子をつくりだしたのが井原西鶴でした。『好色一代男』は源氏物語の枠にうわさ話を詰めこんで大ヒットしました。さらに、浮世草子の一種として気質物(かたぎもの)も生まれました。気質物というのは、身分・立場・職業などの「らしさ」を誇張して描いた笑い話です。「大学生気質」なら、いかにも大学生っぽい生き方やもの言いを集めるわけです。これも草子です。つまり、草子とは世間を編集することです。

 

 松岡校長は、千夜千冊0618夜(井原西鶴『好色一代男』)にこう書いている。

 

 第1作が『好色一代男』なのである。処女作である。しかし、それは世間が知っている仮名草子ではなかった。それまでの仮名草子とは全くちがったスタイルとモダリティとセンス(趣向)をもっていた。俳諧文脈があって、そこに和歌文脈が交じり、さらに漢詩・謡曲のフレーズや「かかり」が組み込んである。それだけなら雅俗の「雅」だけであるが、そこへもってきてニュース記事風、書簡っぽさ、談話ふう、インタビュー収録調などの「俗」がたっぷり入っている。この文体感覚の発明が抜群だった。加えて見立てを駆使した物語のおもしろさ。これこそが、やがて「浮世草子」と呼ばれることになったニューウェイブ・ノベルの第1弾だったのだ。もはや阿蘭陀流ですらなかった。

 

 西鶴は江戸世間の新たな編集をやってのけたのだ。ならば、「REMIX編集草子」を掲げたわれわれは、西鶴に倣って現代世間の編集に取りかかるときではないか。

 

 

 続いて佐々木局長は、「優子先生はいまイシスをどのように見ていますか?」と投げかけた。優子先生の返答はこうだった。

 

 イシス編集学校は画期的です。学校教育ができないことばかり実現している学校ですね。まず「逸脱してもよい」というのがいいです。それから、学衆を変えるだけでなく、編集学校そのものがカリキュラムなどをどんどん変えていますよね。それも世の中の学校が真似できないところです。自分に根ざした思考力を鍛える場、自分で何をつくりたいかを考えてつくる「創造のための学びの場」としてすばらしいと思います。今後もぜひワクワクする場をつくってもらいたいです。

 

 松岡校長は千夜千冊1540夜(キエラン・イーガン『想像力を触発する教育』)にこう書いている。

 

 ぼくなら、表現者はまずもってイマジナティブ・アプローチのほうを身につけたほうがいいと断言したい。そのほうがクリエイティビティも伸びやすい。ところが残念なことに、想像力と学習を結び付けた研究は意外に少ない。子供たちはもともとが「夢見る夢子ちゃん」たちなので、想像や空想に溺れすぎている、そこから脱出させたほうがいいと思われてきたからだ。それがまちがいなのだ。

 

 いろいろ学んだことは多かったが、結局、ぼくは準備のすべてに編集的な作業を通すことにした。そしてその後は、想像力解発の編集仕事のうちの、そのまた半分を「イシス編集学校」に注ぐことにした。想像力の多くのプロセスは編集的であることにはっきり気がついたからだ。かくして「守」コースには三八番におよぶお題をつくり(最初は五〇番以上だった)、「破」コースには文章術や物語編集術や企画術を仕込み、これらをネット上の教室で師範代たちから指南を受けられるようにした。

 

 創造に欠かせないのは想像で、イシス編集学校は想像力を解発させる場所だ。ならば、われわれは優子先生のエールを受けて、各々がいまここで次の社会を夢見るときではないか

 

★想像力を解発させたいあなたが[破]を受けていないなら、[守]を経て[破]へ向かおう。[破]について知りたい方は、こちらの楽しい記事群をぜひ読んでみてほしい。

 

プロフィール

田中優子 たなかゆうこ

法政大学名誉教授、江戸文化研究者

1952年、横浜市生まれ。法政大学大学院博士課程(日本文学専攻)修了。法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。専門は日本近世文化・アジア比較文化。『江戸の想像力』(ちくま文庫)で芸術選奨文部大臣新人賞、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)で芸術選奨文部科学大臣賞、サントリー学芸賞受賞。2005年、紫綬褒章受賞。朝日新聞書評委員、毎日新聞書評委員などを歴任。「サンデーモーニング」(TBS)のコメンテーターなども務める。江戸時代の価値観、視点、持続可能社会のシステムから、現代の問題に言及することも多い。
 
 

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 イシス編集学校

基本コース [守] 申し込み受付中

 

 

 

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  • 米川青馬

    編集的先達:フランツ・カフカ。ふだんはライター。号は云亭(うんてい)。趣味は観劇。最近は劇場だけでなく 区民農園にも通う。好物は納豆とスイーツ。道産子なので雪の日に傘はささない。