【AIDA Season2 第5講速報!】池田純一と武邑光裕に「監視資本主義とメタヴァースのAIDA」を学ぶ

2022/02/17(木)16:00
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 2022年2月12日、参加する全員が「メディアと市場のAIDA」を学びあい、考えあう「Hyper-Editing Platform[AIDA]Season2」の第5講を開催した。今回のゲスト講師は、ウェブとアメリカに詳しい池田純一さんだ。テーマは「ポスト・トゥルースとビッグテック」である。内容の要所を紹介する。

 

★池田純一さん/コンサルタント、Design Thinker。コロンビア大学大学院公共政策・経営学修了(MPA)。早稲田大学大学院理工学研究科修了(情報数理工学)。電通総研、電通を経て、メディアコミュニケーション分野を専門とするFERMATを設立。著書に『ウェブ文明論』(新潮選書)、『〈ポスト・トゥルース〉アメリカの誕生:ウェブにハックされた大統領選』『デザインするテクノロジー』(ともに青土社)、『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』『〈未来〉のつくり方』(ともに講談社現代新書)などがある。

 

 

 第5講は、池田さんの「ゲストセッション」から始まった。池田さんには、アメリカのポスト・トゥルースとビッグテックについて語っていただいた。

 

★★★2016年まで、ビッグテック=GAFAはイノベーション時代のヒーローでした。しかし、2016年に大きな曲がり角を迎え、GAFAはヒーローからヴィラン(悪役)に反転しました。同様に、2008年のオバマの勝利と2016年のトランプの勝利は、コインの裏表に見えます。SNSを活用してスターになったという点では共通していますが、勝利の意味は反転しました。『〈ポスト・トゥルース〉アメリカの誕生』に書いたことです。

 

 

★★★『巨大企業の呪い』(朝日新聞出版)で、ティム・ウーはビッグテックの「ビッグネス」を問題にしました。巨大なビッグテックを裁くためには、かつてあったような構造規制中心の反トラスト政策に回帰する必要があると説いています。若手の法律研究者リナ・カーンの立場に近い新ブランダイス主義です。政治が経済を制御する仕組みにしよう、と提案しているわけです。反対の立場には、タイラー・コーエンのようなリバタリアンがいます。

 

 

★★★『監視資本主義』(東洋経済新報社)で、ショシャナ・ズボフは特にグーグルとフェイスブックの監視資本主義を批判しました。監視資本主義に対抗するヒーローとして、ハンナ・アレントとカール・ポランニーを取り上げています。アレントは、経済と技術の暴走に対して、政治が本来の役割を果たせ、と説きました。ポランニーは『大転換』(東洋経済新報社)で、「労働」「土地」「貨幣」といった擬制商品は、本来商品化すべきではなかったと批判しました。ズボフによれば、第4の擬制商品が「人間の経験」であり、だからこそ人間の経験を商品化するグーグルとフェイスブックは悪だと言うのです。

 

 

★★★アメリカは一つではありません。『11の国のアメリカ史』(岩波書店)によれば、アメリカは11のネイションに分けられます。特に大事なのが、ピューリタンのヤンキーダム、ドイツ系のミッドランド、スコッチアイリッシュのグレーター・アパラチア、黒人奴隷を連れてきたディープ・サウスです。この4つがバラバラに西方拡大をしたのがアメリカです。単一のアメリカンスピリットなど、もともと存在しないのです。だからこそ、アメリカは自国の物語を作ってきました。アメリカは本来、コーポレーションという種からなるエコシステムです。アメリカの会社もまちも州も、コーポレーションなのです。

 

 

 次は、ボードメンバー・武邑光裕さんの「ボードセッション」だ。つづいて、AIDAディレクターの吉村堅樹が武邑さんと「情報の歴史セッション」を行った。

 

★★★「現代の政治は、見返りのない贈与と蕩尽が、実際には富を回復する基本的な運動であることを、ことごとく不明瞭にしようと企むのだ」。バタイユの言葉です。ところが、コンドラチェフとシュンペーターを現代に継承するカルロタ・ペレスは、グローバル経済を通しての新技術の出現、その拡散とフラット化、金融資本の過剰な集中、それによるバブル崩壊が、次代の「創造資本」に変化する道のりを鮮明に分析しました。実は現代社会でも、贈与と蕩尽が富を回復していることを明らかにしたのです。カルロタ・ペレスによれば、「崩壊は、株式市場が経済の成長を駆り立てるときの終わりを皆に告げるために、十分に悲惨でなければなりません」。次にやってくるのは、データバブルの悲惨な崩壊でしょう。

 

 

★★★2035年には仕事の半分はメタヴァースで行われ、2050年にはメタヴァースのGDPが現実の国家経済を追い越すだろうと言われています。注意が必要なのは、実生活と「VR=実質的な現実」は、ともに現実であるということです。実世界のイノベーションは長らく停滞していましたが、いまAIが電気のように実世界と実生活にイノベーションを起こす瞬間を迎えています。さらに「サービスとしての国家」やインターネット上の国家創成が続出しています。ウィリアム・ダヴィドウ&マイケル・S・マローンは『自律革命』で、「人類史上初めて、仕事、遊び、買い物、社交、娯楽は、物理的な場所を必要としなくなった」と指摘しました。サイバー空間と実世界がつながったのです。私たちは歴史的転換点を迎えており、自由や個人の新しい定義が生まれつつあります。

 

 二人の講義を受けて、池田さんとボードメンバー、松岡座長が「ゲスト・ボード・座長セッション」を展開した。一端を紹介する。

 

★★★「中国はまとまり、ヨーロッパは分散しています。ところが池田さんの言うとおり、アメリカには多数のネイションがある一方で、まとまりもある。二重性があるわけです。不思議な点です。キリスト教がしっかり残っているにもかかわらず、世俗性が強いところも二重です。二重性のある法人を最大限に活用して、ビッグテックを生み出したのもアメリカでした(大澤)」「ズボフが指摘した道具主義が最も強いのは、実は日本ではないでしょうか。ズボフは、道具主義が全体主義になるのは簡単だと言っていますが、中国だけでなく、日本もすでにそうなっています。ズボフは個人が自分の考えを作る時間と場所がなくなること、自分を示せなくなることを懸念していますが、私は日本がそうなりつつあることが心配です(田中)」「私は、VRもAIもたいした話ではないと思っています。それよりも、中世の『見えないもののリアリズム』に返ったほうがよいのです(佐藤)」「佐藤さんや武邑さんは中世に注目していますが、中世では神話が崩壊しました。そこでペトラルカやラブレーや道元や西行や紫式部は、世界を再生しようとして物語ったのです。ダンテは『神曲』を書いてイタリア語を生み出し、『アーサー王伝説』が英語を形成し、『平家物語』が日本語をつくりました。それに比べると、現代のメディアや物語は実に貧弱です(松岡)」

 

 

 休憩を挟んで、座衆が何組かに分かれて話し合う「AIDA組間議」に入った。そして、ゲスト・ボードメンバー・座衆・松岡座長が全員で交わし合う「AIDAセッション」に突入した。こちらも内容を抜粋する。

 

★★★「メタヴァース時代の消尽の方法の1つは嘘をつくことです。中世には公共空間に嘘ばかりつく大道芸人がいました。いまも積極的に嘘をついて偽データを投げ込もうとする市民運動があります(武邑)」「私たちはテクノロジーを通して世界を認識します。インターネット時代の世界の認識の仕方とは何でしょうか?(中村正敏)」「言語は意味を持っていますが、データは意味を持ちません。意識や心には、あやの詞が必要です(松岡)」「江戸の再生力とは切断の力でした。様式を切断することで記憶に残るものを生みだし、相手に受け渡すことができました。また、江戸には家=戸籍と切断された別世がありました。別世の連・座・組などでは、戸籍に結びつかない別の自分を持てたのです。私たちも同じことができるのではないでしょうか(田中)」

 

 

★★★「道具主義と原初主義を対で考えるとよいです。道具主義は、民族とは作られたものだとする立場です。エリートが書き言葉や教育を通じて、支配のためにナショナリズムを使ったと考えます。対する原初主義は、血筋や地理的単位から民族ができたとする立場です。日本のような大きな民族は道具主義的ですが、沖縄のような小さな民族は原初主義的です(佐藤)」「メタヴァースでは、この本楼のような空間はどうなるのでしょうか? 私は本好きですから、ここに来るだけでワクワクします。この感覚がメタヴァースで残るのでしょうか。もしメタヴァースでAIDAが消えていくのだとしたら、紙の本のワクワクを残す手立てが必要ではないでしょうか(池田)」

 

★★★「ネルソン・グッドマンが『世界制作の方法』で書いたように、世界はヴァージョンでしか作れません。監視資本主義も、フーコーや古くはスウィフトが書いてきた監視社会のヴァージョンの一つです。ただ現代監視社会で気になるのは、記録が細かく残ることで時間を遡る可能性が出てきたことです。締めつけは強くなるでしょう。私たちは空間に強くなりすぎていますが、時間と空間は切り離せません。ですから、私も佐藤さんと同じ意見で、空間ばかりのメタヴァースはたいしたものではないと思います。皆さんは一人ひとりが時空間を伴ったメディア化をしてください。そして、メタヴァースや監視資本主義に負けることなく、自分を示してください(松岡)」

 


「AIDA・Season2」は、3月の第6講が最終回だ。座衆の皆さんはそれまでに「間論」を書き上げる。果たしてどんな間論と最終回になるのだろうか。

 

 

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写真:後藤由加里

  • 米川青馬

    編集的先達:フランツ・カフカ。ふだんはライター。号は云亭(うんてい)。趣味は観劇。最近は劇場だけでなく 区民農園にも通う。好物は納豆とスイーツ。道産子なので雪の日に傘はささない。