遊刊エディストは創刊以来3度目の新年を迎えました。2022年も「新春エディスト編集部放談」をお届けしてまいります。
2021年は皆さんにとってどんな1年でしたか? 大活躍のエディスト・ライターやニューカマーズをゲストに招き、過剰に過激に放談します。2022年が格別な編集イヤーになりますよう、放談連載を読んで幸先のよい編集スタートを切っていただきたく。全5回の連載最終回、編集部が抱負をお届けし、吉村林頭が編集学校の“ゆく道”を語ります。どうぞ存分にお楽しみください。
◎遊刊エディスト編集部◎
吉村堅樹 林頭, 金宗代 代将, 川野貴志 師範, 後藤由加里 師範, 松原朋子 師範代, 上杉公志 師範代, 梅澤奈央 師範,穂積晴明 デザイナー
吉村 ここからは編集部メンバーで2022年を予測していこうか。急成長中のデザイナーとして穂積はどんな2022年にしていきたい?
穂積 自分の中では、どうしたらイシスっぽいデザインになるかがテーマです。昨年はようやく編集工学をデザインすることとは何かが、見えてきた。方向性がつかめた感覚があります。今年はそれを言語化して、他の人にも伝えられるようにして、デザイン・ムーブメントをイシスで起こしたいです。吉村林頭からも、何人かとチームを組んで一緒にやっていけばどうかとアドバイスいただいているので、イシス・デザイン部を今年こそはやっていきたいです。
上杉 2021年の秋からは阿久津健師範が輪読座エディストのアイキャッチデザインを手がけてくださっています。ぜひイシス・デザイン部に加わっていただきたいお一人です。
吉村 2022年は風呂敷や水筒だけじゃなくて、もっとノベルティを形にしていきたい。
イシス編集学校20周年記念の感門之盟で制作した「64技法風呂敷」
欲しい方はこちらからどうぞ!!
吉村 ひとつは読書手帳。もうひとつはブックウェア、そのほかにも、今年はいろいろ実現していけたらとひそかに野望をもっています。“本という文化”をどう考えるか。クリスマスに『生まれながらのサイボーグ』(アンディ・クラーク)が千夜されました。編集サイボーグをつくっていくために、どう本を活かすかということを穂積やみんなとも考えていきたいし、エディストでも交わしたいですね。
穂積 それと、今年はオツ千!本腰入れていきたいのでお願いします!
吉村 オツ千以外にもエディストでユニークな音声メディアが登場してほしいね。
後藤 深谷もと佳さんが、いち早く2020年の12月から「ラジオ・エディスト」を始めてくださったんですよね。
深谷もと佳の「ラジオ・エディスト」
[ISIS for NEXT20]#1 局長佐々木千佳の膝枕力
[ISIS for NEXT20]#2 林頭吉村堅樹の志向力
穂積 音声は時間の過ごし方を決めることができる。音声なら“ながら”ができる。どういう態度・姿勢で情報に向き合うかまでも、文章だとできないことを音声はコントロールできると考えています。来年は音声もデザインも実験していきたいです。
吉村 音声の方が文字での記事よりも雑な情報を入れられるし、理解が多面的に進むこともある。まだまだやれることがあるんじゃないかな。
後藤 林さんも言っていましたが、DOMMUNEの方法からもヒントを得て、伝習座、エディットツアーに波及できるんじゃないかと思いました。
吉村 そうだね、これは大変でも、もうやっていくしかないな。そういえば、川野さんはいっとき、音声企画があがりましたよね。
金 Goro’s Barみたいなね。
吉村 イシスのお姉さま方と川野さんのトークが見てみたいですね。川野さんがお姉さまに可愛がられつつも、ややタジタジにされながらやっていくというような(笑)
梅澤 めちゃめちゃいいじゃないですか。至宝川野のファンが増えそう。
穂積 めっちゃ聞きたいです!絶対人気出ますよ。
川野 うーん、できるんですかね。お相手を僕が選んじゃいけないような気がしますね(笑)まあ、まずは関西圏からですか。考えてみます。
吉村 だとすると、穂積の音声編集の仕方をみんなと共有しないとね。
上杉 穂積さんに編集方法を学んで、音声コンテンツを充実させていきたいですね。
吉村 じゃあ、そろそろ2022年の抱負にいきましょう。今日は用意してきましたよ。こちらです。
金 すごいですね、花火が上がってますよ。
吉村 たいそうなことを書いているんですが、「イシス編集学校は革命前夜にいる」と思っています。千夜千冊エディションでも昨年『資本主義問題』がでましたが、資本主義問題というQに対して、イシス編集学校はすでに可能解としてのEをもっています。
吉村 そのために考えていきたいテーマが4つ。その1つ目は、年賀状の“虎色旬然”でも触れましたが「世界は同時にいくつもある」ということです。世界が一つしかないと思うので人はしんどくなっていく。資本主義という世界しかないと思いこんでいたら、そこで評価されなければいけない、排除されたくないと考えて、必ず行き詰る。鬱病の原因はこれですよ。この幻想から離れて、同時にいくつもの世界を生きていることを当然だと考えられることが重要です。
実際に私たちは、鬼ごっこという世界、家族という世界、イシスという世界という、いくつもの世界を同時に生きているわけです。「資本主義」という世界は、その一つに過ぎない。それぞれの世界に異なるルル三条があって、異なる価値を交換している。その中でも気に入ったルル三条を持った世界を、考えて編集していくのが大事です。その一つがイシス編集学校でしょう。
2つ目は、「21世紀の常民をどうつくるのか」。
柳田國男がいうように、会社や国家や組織に依存しない、自立できる人間つまり常民を作るにはどうしたらいいのか。編集というのはそのためにもあるわけです。
3つ目が「Digital Exit」。
AIDAボードの武邑光裕さんが最近特に関心を持たれているテーマです。校長は2000年に「編集の国ISIS」を立ち上げられたときに、すでに「どうぞ移民してきてください」と書かれています。その当時からイシスは「Digital Exit」を標榜していた。一方で、今世界中のネットでExitした人たちの倫理は生まれないわけです。これをどう考えていくか。資本主義社会は消費的人間をつくるのが目的ですから、そこからどう脱却できるかも考えないといけない。自分たちがそこにあるものを自ら編集する力をもつこと、日常から鍛錬することが重要になってくるでしょう。
4つ目は、「道の思想」。
先日、[AIDA]で文化人類学者の小川さやかさんや松村圭一郎さんから、アフリカはストリートで学ぶというケースをお聞きしました。ストリートで学べるのは国家が弱いからで、国家が強いところでは、監視も隅々まで行き届き、なかなかストリートで学ぶことは難しい。そこで、経済的成長ではなく人間的成長としての「道の思想」的なものが必要になる。芸道、武道、編集道。学び続けられる、歩き続けられる「道」、人間が人格的に成長しつづけられる道をすでに編集学校は持っています。
これら4つは資本主義問題へのEになりうるもので、イシス編集学校が内在している可能性です。今年はあらためてイシスのみんなとも深めつつ言語化していきたいですね。
それを外に示していくには、制作力を上げていく必要があります。2022年は『情報の歴史』の電子化、イシス書籍、ノベルティ制作、エディストの番組化、エディスト速報性をあげて、もっと編集工学の全体性をカバーするメディアへと進化させたいと考えています。
上杉 2021年は松岡正剛事務所との関わりが増えました。その視点でイシス編集学校に注意のカーソルを向けると、特に松岡校長の新著やメディア出演など、編集工学に関係する情報が編集学校の方々に意外と伝わっていないこと気づきました。こうしたあいだをつなぐ取り組みをエディストだけでなくTwitterなどのSNSも含めて充実させたいなと。音声コンテンツもその一つとしてものにできればと思っています。
後藤 私は、ライターとしての腕をもっとあげていきたいと思っています。自分の作った記事のフォーマットを更新できるように頑張りたい。注意のカーソルが固まってきているような気がするので物事をもっと多様な視点で切り取っていきたいです。やっぱり、一人でやるより、いろんな人とやっていきたいですね。長きに渡り松岡校長を撮影されている川本聖哉さんの撮影現場をご一緒させていただいていて、プロの構図の作り方はとても勉強になるなと思いました。あとは動画ですね。校長のインタビューも林さんと一緒に撮影させていただきました。動画撮影ももっとやってみたいです。
吉村 川野さんはいかがですか?
川野 教員という本業や、編集学校内でのコーチのロールと、このエディストでの役割って、もっと重ねたり合わせたりできるはずなんですよね。まだ別のことを並行してやっている感じがあるので、自分の持っている「たくさんのわたし」というスケールの中で、入れて学んで、出して伝えてという編集が有機的に繋がっていけばと思います。編集女傑とのトーク企画も、その一環になるのかな……
吉村 ウメちゃんは?2021年、頑張りましたよね。
梅澤 そうですねぇ、番記者からAIDAのメディアチームから、いろいろやりましたね。手ごたえは多少ありました。ジャーゴン(専門用語)に満ちている編集学校を、普通の日本語で書きなおして伝えたいというのが強い動機ですね。
吉村 それはすごく大きな課題ですね。言葉の詰めをどう考えるのか。表層的な常套句を避けるのもありますが、僕は「大澤真幸を読む」の最後の修了課題文を見たときには、みなさんすごく頑張ってはいるが、仮説を構築するときの概念と装置としての実践力の詰めが甘いなと感じました。
梅澤 編集学校のおもしろさは、実体がないことですよね。たとえばエディットカフェで行われている師範代と学衆によるコミュニケーションは、情報のやり取りなので実体がない。でもそれを、『チョンキンマンションのボスは知っている』(小川さやか)などある種のドキュメンタリーのように、書くのが面白いところです。概念的なことばかりになると、その人がどういう表情や仕草なのか、そういう細部の詰めが甘くなりますよね。つぎの目標は、言葉によるビジュアルでイシスを描くことをやっていきたいです。
松原 私は、先日、林愛さんや猪貝克浩さんが多読ジムのスペシャル・コースで受賞されたことがすごくうれしかったんです。お二人ともエディスト・ライターでもあります。参加当初から比べると林さんも猪貝さんも、本当に力を上げてきていらっしゃいます。これはエディストでライターをすることで編集力がどんどん上がるということの証ではないかと思ったんです。プロのように書けなくても、いろいろな方がエディストに参加してほしい。参加する可能性のある場としてのエディストでありたい。2022年は音声・映像・写真の可能性も広がっていきそうなので、常に新しく入ってくださる方にオープンでありたいし、仕掛けもつくっていけたら。
吉村 それぞれの輝きやスキルを磨く段階があるから、ライティング初心者でも、ちょっとずつ上がっていっていただけたらいいですね。そうそう、ひとつ大きなことを言い忘れていましたね!2022年はエディストサイトを1月にリニューアルします。リニューアルしたタイミングで、また新しく興味のある人たちも一緒に、みんなで集まるのはできますね。
金 例えば、多読SPで冊匠賞を受賞した林愛さんは、グラデーションを円だとしたらみちのくの周縁からスルスルと中心に入っていったような気がします。エディスト編集部で川野さんからまず極上指南があって、多読ジムで粛々とトレーニングを積み、三冊筋ライターへ。校長が読相術のレクチャーでも言っていましたよね。自分のレベルで本読むのではなくて本に合わせなさい、と。愛さんはこれをまっすぐに実践できたのだと思う。プロフェッショナルと交際(アソシエーション)する術を瞬く間に見極めてしまった稀有な例ですね。
それから2021年の重大なことの一つとして、AIDAのボードメンバーとの関わり方がありましたよね。
大澤さんの多読ジムスペシャルもそうですが、そういうプロたちとのマゼコゼ状態が起こせたことが画期的なのではないか。よりまぜこぜ状態がおこっているんじゃないかと。
と同時に、松岡校長もよくおっしゃっていることですが、アマチュアリズムも大事で、それは「一瞬でこの演技うまい」とか、「この芸人はここがすごい」とわかってしまうギャラリストの目で、この編集的センスとプロとのまぜこぜ状態とが共にもっとぐるぐるエディティング・スパイラルを起こしていけるといいですよね。
今のこの感じをさらに加速して、吉村さんのプランペーパーにもあるように“情報の歴史を読む”という新企画でも色々な外部ゲストを読んで何かを起こしたり。ウメちゃんとか僕もAIDAボードにインタビューをさせてもらって接触していることが、力を引き上げてもらっている感じがします。2022年、堀江さん本も無事に出版されれば、本を出すことで堀江さんが著者となりアマからプロの階段を上るということも起こる。いま、編集学校自体が差し掛かっているんだと思いますね。
吉村 そうだね、編集学校として、使えるロール・ルール・ツールがそろってきた。
金 2021年は結構いろいろ生まれましたからね、ジョーレキ、多読スペシャル、AIDA…。そこからさらに何ができるか、ですね。
吉村 これをどう生かしていくか。これをどう同時多発で作っていくのか。どう連続・連動させるのか。これは難題ではありますが、イケそうだと確信する人が増えれば、編集革命の炎はさらに燃え上がるでしょう。ぜひご一緒くださいませ!
おわり
2022年の「遊刊エディスト」もどうぞよろしくお願いいたします。今年が皆様にとって素晴らしい1年でありますように。
遊刊エディスト 編集部一同
2021新春放談企画「エディスト、装い新たに大ブレイクだ!」
其の壱 – 常時編集状態のイシス(1月1日公開)
其の弐 – マンガのスコア、書籍化間近か?!(1月2日 公開)
其の参 – 全国の子どもたちに編集術を手渡す(1月3日 公開)
其の肆 – 四人四様、新コーナー企画会議(1月4日 公開)
其の伍 – 同時多発・連続・連動で火をつけろ!!! (1月5日 公開)
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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