「面影」ごと編集工学を継承する【35[花]入伝式】

2021/05/08(土)22:00
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この二着を面影に入伝式をむかえたい。(田中晶子所長)

 

本棚劇場にライトでショーアップされて鎮座するのは、軍服風コートとリネンショートジャケット。どちらも松岡校長の言葉をプリントした山本曜司さんの春夏2021コレクションである。それぞれの背中には「攻めるならパンクか数理哲学。寄せるならリベラルアーツ。」「遊ぶなら老荘俳諧。迷ったときの禅とバロック。」と刺繍されている。

 

 

2021年5月8日、一部都府県での緊急事態宣言延長が決定した翌日、校長不在の35[花]入伝式がはじまった。田中所長と三津田・深谷両花目付は、4道場24名の入伝生へメッセージをおくるにあたり、「守って破って離れる、のではない。守破離は、守って型に着き、破って型へ出て、離れて型を生む。」と、型に徹する校長の編集道の「面影」を、それぞれ「本」「世阿弥」「花伝所」に託した。

 

「本」が編集工学のブレイクを表象する(田中晶子所長)

 

「これから編集工学はブレイクしていく」という校長の言葉の先陣を切るように、いろいろな本が出てきた。

 

まずは6季[離]の典離で、校長をして「安藤さんにあずけておきさえすれば、どんな仕事もどんどん進む才能の持ち主」と言わしめた編集工学研究所の安藤昭子専務による『才能をひらく編集工学』。この一冊で編集工学の可能性に触れた方々が、続々と[守]講座の門をくぐっている。

 

『うたかたの国』は、自らが短歌を詠む米山拓矢師範が校長の「うた」に関する記述を徹底的にコンパイル・再編集した一冊。本日公開されたばかりの、梅澤奈央錬成師範によるエディスト独占インタビューでは、米山師範のクロニクルと編集の実践の一端が明かされる。

 

「今か今かと何度も問い合わせがきた」というのは『情報の歴史21』。1996年から2020年までのクロニクルが追加され、新たなタイアグラムや校長メッセージが寄せられた(こちらからその一端を見ることができる)。ここ2週間ほどのイシス編集学校のTwitterアカウントでは、北海道から九州まで、全国の書店に『情歴21』が並ぶ様子や、実際に本を手にされた方々の声が、エディスト新着記事と交互に湧き立っている。完成までには100名近い師範代・師範による編集と、3年を超える制作期間を要した。

 

そして、千夜千冊エディションは『仏教の源流』で20巻をむかえた。これを記念して、来月のジュンク堂池袋店を皮切りに、「千夜千冊エディションフェア」の展開が全国各地で予定されている。

 

2020年から2021年へ。編集工学にまつわる本によるブレイクが連打される中、35[花]はスタートする。「『日本問答』『江戸問答』にあるように、日本にはデュアル・スタンダードの方法があり、編集学校でもそこに肖っている。日本という方法を携えて、方法づくしで7週間を過ごして欲しい。」と田中所長は結んだ。

 

 

「世阿弥」も面影にあやかってきた(三津田知子花目付)

 

世の中がざわつく時は、原点に立ち返ることが大切。

 

三津田花目付は、33[花]入伝式での校長の言葉を差し出した。33[花]はちょうど1年前。新型コロナの感染が拡大し、全国で最初の緊急事態宣言が発令された渦中だった。

 

世阿弥が生きた14世紀は現在以上に世の中が揺らいでいた。世阿弥は自然の摂理に逆らえないけれども、それだからこそ何かが引き出せるのではないかと考えた。フィードバックループをまわしつづけ、身体の所作を要素・機能・属性にわけてリバースエンジニアリングを一つひとつ言葉にするうちに、どうやら編集学校における「型」が介在していると気づき、「二曲三体人形図」をあらわした。これを身につければいかようにも転用できるという「型」の発見だった。

 

こうした型は「世阿弥一人で生み出したものかというとそうではない」と三津田花目付はいう。先達となる雅楽や禅宗をモデルに、いろいろな分野のインタースコアあってこそだった。「まなぶとはまねぶこと。まねぶことで型を身につけ、型を身につけることで逸脱もしていける」と、先達にあやかる。

 

 

「花伝」のリバースエンジニアリングで時分の花を(深谷もと佳花目付)

 

花のプロフィールの壮大な物語をイメージしてもらいたい。

 

講座には始まりと終わりがある。深谷花目付はまず、入伝から放伝へのプロフィールを「花」に喩えた。プレワークで土を耕し、入伝式で種を蒔き、放伝で花を咲かせ、種を残していく。「生命に学び、歴史を展き、文化と遊ぶ」をスローガンに掲げるイシスの「花」には、それだけの壮大な生命の循環の物語の延長線上にある。

 

「伝」に託されているメッセージを感じて欲しい。

 

花伝所では、「入伝「放伝」というように「伝」にフィーチャーしている。深谷花目付は、おなじみの白川”字”書でその語源に迫る。

 

つくりの「云」はもともと「専」で、大きな袋にものを詰めて打ち固めた袋のこと。「伝」はその袋を人が背負って運んでいく様をあらわす。「伝」の一字にもこれだけの物語に表象されている。

事実、こうした「花伝」の原郷である「入伝式」のプログラムも、世阿弥に肖って物語仕立てとなっている。

 

『インタースコア』からキーワードを取り出し、抱負を重ねつつ自己紹介をする「年来稽古条々」。師範陣が「守破離」「3A」「略図的原型」を直伝する「問答条々」。花伝師範陣が選んだ千夜千冊10冊をもとに、道場ごとの「五箇条」を編集する「物学条々」。編集コーチを輩出する「花伝所の方法」をリバースエンジニアリングする安藤専務の「別紙口傳」では、両花目付との鼎談も用意されている。

 

 

私たちの記憶や脳の中ではすでにたくさんの「面影」が立ち上がっているが、それがなかなか動かせないでいる。世阿弥が面影を意図的に編集し「型」や「稽古」の実践としたように、松岡校長はこうした面影を編集し「編集工学」をつくりだした。「型」や「編集工学」を継承するとは、こうした面影ごと継承していくこと。インタースコアを興す方法を極める、高速で濃密な7週間のプログラムの先に、24名の入伝生はどのような花を咲かせるのだろうか。

 

 

【第35期[ISIS花伝所]編集コーチ養成コース 指導陣】

●花目付:三津田知子、深谷もと佳 
●花伝師範:林朝恵、小倉圭吾、白川雅敏、岩野範昭

●錬成師範:吉井優子、中村麻人、加藤めぐみ、山田細香、梅澤奈央、神尾美由紀、米田奈穂、蒔田俊介

●花伝所長:田中晶子

 


  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。