空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。

賑やかだった道場が静まり返った。
言葉が交わされていないのではない。錬成演習を前にした気負い、緊張が道場内の言葉から夾雑物を奪う。
5月16日から開始した式目演習、道場生はすでに4つの式目をくぐり抜けた。師範からの指導、道場生同士の共読、火花を散らすような応答も重なり、道場生は自らの指南を磨き続ける。
「ハラハラドキドキがとまりませぬ」、だからこそ歩みを止めないやまぶき道場のK。動かし続けることが編集の要訣と心を決め、自らの指南を塗り替えつつ、発見的に道場生と交し合う。「お題研究フソクを感じて手に汗握る」からたち道場のEも稽古に余念がない。錬成師範の牛山惠子はその姿に「道着を洗濯して帯を締め直す」様を見てにんまりした。
錬成演習は花伝所における守破離の離。式目演習で叩き込まれてきた「型」をフル回転させ、編集的自己を確立する2週間が始まる。
実は擬装は「日本」をつくりだすための、「日本」というのがおおげさならば「くにぶり」(国風)をつくりだすための、必要不可欠とはいわないが、きわめて有効な世界像装置だったのである。
M5で学ぶのはゲームメイキング。それぞれが式目演習でイメージした教室像を形にしていく。名づけ、シツラエから始まる世界定め。30人の「歌合せ」が道場を彩る。先達を真似び、肖る、この虚に没入するプロセスが自己進化を加速させる。錬成演習では、道場生は師範代に着がえ、自らお題を出題する。最初に応じる錬成師範に知った顔はいない。これもシツラエの一つ。実際に師範代登板したら、会ったことのない学衆に相対する。細部にまでわたる仕掛けで道場生は自らの編集的自己を立ち上げるはずだ。指導にも忖度はない。出題のダンドリの微々たる揺らぎにも檄が飛ぶ。指南文の不足に容赦なく突きつけられる指導の切っ先に道場生は真っ向から応じ、即時でフィードバックを重ねていく。
30人の道場生に対し、師範陣は15人、総勢45人による乱取り稽古。否が応でも熱量が上がる。錬成演習は異界へのとば口。道場生は未知の師範代ロールに向かい、擬いて模してその際に差し掛かる。
指導陣もまた静かに道場でその時を待っている。
文 佐藤健太郎(錬成師範)
アイキャッチデザイン 阿久津健(錬成師範)
【第37期[ISIS花伝所]関連記事】
37[花] 花林頭・阿久津がゆく、アートとデザインのAIDA
37[花]乱世に道場開幕!
37[花]入伝式 松岡校長メッセージ 「稽古」によって混迷する現代の再編集を
37[花]ガイダンス 却来のループで師範代に「成っていく」
37[花]プレワーク 編集棟梁は 千夜を多読し ノミを振る[10の千夜]
37[花]プレワーク記憶の森の散歩スタート
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
五色の衣から二十の世界に着替え、56[守]へ走りだした。 今期の花伝所は勢いがあった。第88回感門之盟・放伝式冒頭で所長・田中晶子に「なつく」と評されたように、放伝生たちは、師範から技を盗もうと、何度も応答を繰り返し、ど […]
機があれば、欲張りに貪欲に、くらいつく。 第88回感門之盟に参加できなかった43[花]錬成師範・新垣香子は、インターブッキングに参加することで、残念を果たしたはずだった。しかし、参加したいという念は、それだけでは消化でき […]
その男は、うどんを配り歩いていた。その男とは、香川県在住の54[破]讃岐兄弟社教室・竹内哲也師範代である。彼は学衆の頃からイシスのイベントで会う人にうどんを渡し、P1グランプリではお遍路を題材にする、香川を愛する男である […]
沖縄では新暦の暦のずれを調整するため、約3年に1度、旧暦で同じ月が2回現れる特別な月がある。「ユンヂチ(閏月)」だ。ユンヂチの旧盆はことさら特別なのだが、今年はあろうことか第88回感門之盟と重なった。 叫びとも呻きともつ […]
教室名発表は告白だ。告げられる側なのに、なぜか告げる側のような気持ちになる。「イーディ、入れておいたよ」、松岡校長が言葉をそえる。その瞬間、告白した後の胸が掴まれるような感覚を、私はいまでも忘れない。 ” […]
コメント
1~3件/3件
2025-09-09
空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。
2025-09-04
「どろろ」や「リボンの騎士」など、ジェンダーを越境するテーマを好んで描いてきた手塚治虫が、ド直球で挑んだのが「MW(ムウ)」という作品。妖艶な美青年が悪逆の限りを尽くすピカレスクロマン。このときの手塚先生は完全にどうかしていて、リミッターの外れたどす黒い展開に、こちらの頭もクラクラしてきます。
2025-09-02
百合の葉にぬらぬらした不審物がくっついていたら見過ごすべからず。
ヒトが繋げた植物のその先を、人知れずこっそり繋げ足している小さな命。その正体は、自らの排泄物を背負って育つユリクビナガハムシの幼虫です。