書くは永く、放つは刹那に。
師範代未満の入伝生は書き手であるが故に、しばし読み手を忘れて前のめり独りよがりな指南に陥る。回答に潜む可能性を欲するがため、想いが強く表出してしまうのだ。
どんなインパクトがあったのですか。
観客・師範代からどう見えたのかがよくわかりません。
(岡本悟師範)
想い込め放たれた指南に、情けも、容赦もなくバッサリと切る指導陣。回答に書かれている情報だけを読むのではなく、学衆が悩み考え抜き、どのような気持ちをのせて回答に至ったか、目に見えない情報も読み取る力も求められる。指南への指導は、方法の取り出しだけではない。
ちょっと大袈裟ですが「命がけ」で創文してください。
今回もまだ、詰めが甘い。
(牛山惠子師範)
師範代としてカマエはできていたのかと、心身ともに深く指導の言葉が突き刺さる。
「指南─指導─振り返り─再指南」を繰り返すことで、己の不足を避けず真っ向から勝負と言わんばかりに向き合い、磨き、方法に抱かれ、道場で身につけた花伝式目を遺憾なく発揮すべく錬成場で鍛錬が続く。そう、何かが熟するにはつねに「時熱」というものが必要である。
古池や 蛙飛ンだる 水の音
芭蕉が詠んだ句であるが、似ているけれど何かが違う。実は、「古池や蛙飛こむ水の音」という一句ができる前に、最初はできの悪い句から始まっていたことはご存じだろうか。芭蕉は、弟子たちに上五を考えさせると宝井其角は「山吹や」を提案。
「古池や」とするか迷いを芭蕉は隠さない。方角は、「西東」がいいか、「東にし」がいいか、いろいろ置き換えてみる。
(初)古池や 蛙飛ンだる 水の音
(後)山吹や 蛙飛込む 水の音
(成)古池や蛙飛こむ水のおと
世に放たれた句の形に成るまでに、情報を何度も「乗りかえ」「持ちかえ」「着がえ」と推敲を重ねる。師範代が書く指南も同じく、一時で仕上がるものではない。編集の技を駆使して鍛錬していくには、時間と熱意が不可欠である。今も錬成場ではカンカンと回答の鋼を叩き、切れ味に凄みと遊びも潜ませて指南の宝刀を磨くべく火花をまき散らしている。
書き重ねて変わりゆく指南は永遠ともいえるほど時間が過ぎ去っていく。
指南を待つ学衆のため、放つときは一瞬でしかない。
文 堀田幸義(錬成師範)
アイキャッチデザイン 阿久津健(錬成師範)
【第37期[ISIS花伝所]関連記事】
37[花] 花林頭・阿久津がゆく、アートとデザインのAIDA
37[花]乱世に道場開幕!
37[花]入伝式 松岡校長メッセージ 「稽古」によって混迷する現代の再編集を
37[花]ガイダンス 却来のループで師範代に「成っていく」
37[花]プレワーク 編集棟梁は 千夜を多読し ノミを振る[10の千夜]
37[花]プレワーク記憶の森の散歩スタート
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
京都祇園の黒七味といえば、元禄の頃より一子相伝で守り伝えられてきた秘伝のスパイスだ。ここのカレーライスがまた絶品で、シビレる辛さが病みつきになる。お店のウェブサイトによれば、原料の持つ油分を挽き出し、丁寧に揉みこむこと […]
2023年のG7広島サミットも2日目を迎えた。ロシアとウクライナの戦争の終結が見えず、核の脅威に対する危機感が広がり続けているなか、被爆地・広島での開催である。人類は二度と同じ過ちを繰り返してはならないと訴えることを止 […]
ステージングを駆け抜けろ!キワで交わる、律動の39[花]ガイダンス。
4月23日、主要7カ国(G7)の労働雇用大臣会合でリスキリング(Re-skilling)の重要性が宣言された。人材育成の位置づけは「経費」ではなく「投資」、との認識が共有された。DX時代や人口動態の変化に対応しうる人材の […]
「即応指南」スペシャル、オンライン稽古が行われた。巷はバレンタインの夜だが、先日行われたエディットツアーを丸ごとリバースしようと、先峰吉井優子花伝師範が乗り出した。花伝所を放伝したあとも新師範代は次期51[守]へ向けて研 […]
節分明けの2月5日、未入門者も含む17名がイシス編集学校のマザーシップ、花伝所のエディットツアーに参集した。38[花]を修了したばかりの放伝生も新師範代として駆けつけた。田中晶子所長以下、林朝恵花目付に花伝師範ら総勢8名 […]