『絵師ムネチカ』から目が離せない。天才は往々にして何かが欠けている。そしてそのこと自体がまた天才の天才性を引き立たせる。周囲の人々の鼻面を引き回し、人生を変えていく「天才少年」のデモーニッシュな魅力を容赦なく描いた怪作。
これまでにも「神童」もの(?)を数多く描いてきたさそうあきら先生だが、ご本人は極めて方法に自覚的な職人タイプ。長年、マンガ学科の教員として教鞭をとり、『マンガ脚本概論』などの技法書にも定評がある。
「情報の捉え方」がたった一人の判断で変えられてしまう。
「限られた基準」でしか評価がなされなくなる。
このような状況は誰しも避けたいだろう。
残念なことに、そのような状況が現在進行形で起こっている。2022年12月23日、イーロン・マスク氏はTwitterの「View Count」の開始を自らのアカウントでアナウンスした。「View Count」とはツイートの閲覧数がツイート上に表示されるというもの。閲覧数はこれまでアカウントの管理者だけが見られるものだった。
イーロン・マスク氏の「View Count」に関するツイートのスクリーンショット。2023年1月21日のスクショ時点で5652.6万人がこのツイートを閲覧していることがわかる。イーロン・マスク氏は導入の理由として「動画では当たり前のことだ」と述べたという。
もちろん、歓迎する声もあるだろう。閲覧者からすれば人気のツイートが一目でわかるし、投稿方針を見直すきっかけになった管理者も少なくない。
しかし、閲覧数が多いこと=人気であるといえるのだろうか。View数の多さは必ずしもその内容の価値を担保しない。むしろ、ただでさえSNSで話題にあがりやすい「閲覧数」という評価基準がますます加速する可能性が高い。
つまりここで懸念されるのは、「多様な評価軸」や「見方の可能性」の静かな排除ではないだろうか。日本国内でLINEとYouTubeにつぐアクティブユーザー数をもつSNSのTwitterで、このような方向づけがほぼ一人の人間による判断で決まってしまう。この現状を、今を生きる私たちはどのように捉えればいいのだろうか。
38期[花伝所]の最終プログラムである敢談儀のおよそ一週間前、法政大学前総長で江戸文化研究者の田中優子氏が、守講座の受講者に向けて特別講義をした。そのなかで「イシス編集学校こそ、社会にあらがうための教育を実現している」と言い切った。
ここでいう「社会」とは、「既に一つの正解だけが求められる硬直的な場」を意味している。数値があたかも絶対の正解のような状態にあるSNSサービスもこの社会の一部であり、このSNSサービスを享受している私たちとは無関係ではない。
そこで田中優子氏が持ち出したのが「編集力」と「イシス編集学校」だった。
特別講義の田中優子氏。「正解型の社会に”あらがう””ためらわない”ための方法が編集にある」と、自らイシス編集学校の稽古体験もまじえながら、これからの編集力の必要性を説いた。
ところで松岡正剛校長は、「日本という方法」を重視している。中でも『見立て日本』(角川ソフィア文庫)で、「面影」について「日本で一番大事な言葉です」と明言している。
編集工学において「面影」がなぜ大事なのだろうか。2023年1月21の敢談儀では、花伝所プログラムを修了した放伝生全員が、「面影」と「日本という方法」に迫る千夜千冊エディション『面影日本』の図解発表を行ったほか、吉村堅樹林頭が『面影日本』をイシス編集学校や師範代ロールと重ねながらレクチャーをした。以下、『面影日本』の「追伸」で松岡校長が提示していた「5つのキーコンセプト」とともに花伝所の指導陣らのメッセージをお届けする。
常世とは「根の国」。イザナギはイザナミのいる根の国から黄泉がえり、新たな再生力を得た。エジプト神話の再生の女神イシスに肖ったイシス編集学校とは、現代社会で枯渇している編集力を再生する場。師範代とは学衆の編集力を再生する女神イシスなのである。
「千夜千冊エディション『編集力』に、(編集は)誰もみたことがない未生の模様をつくっていく、とある。敢談儀でも、他者とのあいだで新規性をもたらすつもりでインタースコアを起こしてほしい」(田中晶子花伝所長)
鳥居とは外との境界にあたるゲートであり、外からきたものを予兆する。イシス講座も「入門」「卒門」「感門之盟」などいくつもの鳥居(門)がシステムとして組み込まれている。
「みなさんは「英雄伝説のプロセス」を花伝所の学びで体験してきた。今日は、花伝所を通じてどのような自己変容があったかを考えながら臨んでほしい」(深谷もと佳花目付)
正月の若水は、現実から見えないところでどこかと繋がっているはずの脈絡を確認する行事のこと。イシス編集学校では講座の節目ごとにロールを水に流してつど改まるが、編集工学の学びの若水は脈々とつながっている。
「ここの対話がよかったですね」と問感応答返のプロセスをリアルタイムで次々に言語化していく中村麻人花伝師範。[守]師範時代には「圏論」で編集工学を紐解いた用法語りで注目を集め、最新の千夜千冊1814夜『数学的思考』にも「アサト」として登場した。「『数学的思考』の千夜は印刷して神棚に飾っています(笑)。この千夜の方法もリバースして花伝所でもシェアしていきたい」(中村師範)
翁(おきな)は再生の力をもたらすマレビト。次世代リーダー創発プラットフォーム「Hyper-Editing Platform[AIDA]」のボードメンバーは、現代の私たちにとっての「翁」であろう。
放伝生の『面影日本』の図像を踏まえてレクチャーをする吉村堅樹林頭。「面影ってズバリ何?」「エディションを読むってどういうこと?」とクリティカルな問い放伝生に連発する。そのさまは問感応答返によって編集力を再生する翁然としていた。
稜威(イツ)とは、限りの余勢を残すこと。和歌や造仏、作庭といった日本の技芸にはこの稜威が通底している。師範代と学衆との距離感も「触れるなかれ、なお近寄れ」というギリギリの関係をつくることで編集力はますます高まっていく。師範代は稜威なのである。
今日の敢談儀では、指導陣だけでなく放伝生も豪徳寺の本楼に集った。「初めて本楼に来られました」「芸能の本棚に目がどうしても向かってしまいます」など興奮を抑えきれない放伝生の姿も。
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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2026-03-19
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目玉入道、参上。
体を膨らませ、偽りの目玉(眼状紋)を誇張して懸命に身を守ろうとしているのは、カイコの原種とされるクワコの幼虫。クワコの繭から取れるシルクは、小石丸のそれに似て細く、肌触りがよいらしい。
2026-03-10
平和に飛び交うモンシロチョウも、地球史スケールでは、ほんの少し前に日本にやって来たばかりのパイオニアらしい。押さえきれない衝動に駆り立てられて彼方に旅立つ人たちの原型は、海をわたる蝶なのかもしれない。