ホオズキカメムシにとってのホオズキは美味しいジュースが吸える楽園であり、ホオズキにとってのホオズキカメムシは血を横取りする敵対者。生きものたちは自他の実体など与り知らず、意味の世界で共鳴し続けている。

瀬戸際に立つ入伝生に師範代認定を出すか否か。
2022年の年の瀬、キャンプを終えた38[花] 花伝所では指導陣が集い、熱く、けれども繊細な交し合いが行われた。効率性、コスパ、スキル、資格の有無といった一定の評価軸を持つ一般社会と隔する編集学校の評価は多様で多層だ。師範代認定の際に届けられる評価の言葉は、すべてオーダーメイドで、複数の師範の目からみた個々の強みも弱みも丸ごと記されている。入伝生がユニークネスを発揮して、この先歩み続けることを願い、同時に、その活躍が編集学校の厚みになると思えばこそ。指導陣は入伝生のどこに、どんなメトリックをおいて見ているのか。
「発言量はダントツ。文章を書く力はある」
「バランスが良い」
「やわらかい応接が持ち味」
「安定した指南が書ける」
「労力を惜しまない」
コミュニケーション力、式目の修得力、表現力、察知力、行動力、それぞれの特性を様々な視点から見ていく。発せられるのは肯定的な言葉だけでない。
「今のままじゃ場を任せられない」
「わからないことから逃げる癖がある」
「連想が広がりにくい」
「正解主義の傾向がある」
「フィードバックが浅いよね」
未知へ挑むカマエ、回答を面白がれる柔軟さ、そして不足や矛盾を受け止める受容力を厳しく見極める。編集学校の主軸を担う師範代には、正解を求めるのではなく、学衆と共に言葉にまみれ、違いの豊かさに興じて欲しい。師範たちの声にはそんな念(おも)いが込められ、ここから一気に指導陣の“不足からの編集”が始まった。
「伸びしろのある大学生をどう活かすか」
「どんな条件をつければ課題が乗り越えられるのか」
「錬守(師範代登板直前に行われる指南訓練)でクリアできるだろうか」
どの段階に可能性を託すのか、今とこの先を見据え、最後はどうやって引き上げるのかを考える。
たとえば海を渡るには“瀬戸”を越えたかどうかという一線があり、四十里五十里の道にも度を越せたかどうかということがある。これは長きも短きも同じことで、その「渡」を越したかどうかを体や心で分かるべきなのである。
花伝指導陣にとって、また入伝生にとって師範代というロールは一つのターゲットではあるが、ゴールではない。式目演習・錬成・キャンプを経て放伝、師範代認定、師範代エントリー、そしていよいよ師範代登板…
節目は、次のとば口となり、物語は続いていく。編集道の“瀬戸”となる師範代認定や課題クリアの条件を届ける方法も一律ではないのがおもしろい。一人ひとりに伝えたいことが伝わるためにツール選びにもこだわった。個別にメールを届け、文字でじっくり読んでもらったり、田中晶子所長が電話で丁寧に評価を伝えたり、Zoomで師範を交えて対話を重ねたり。相手のさしかかりに向かう力を慮り、様々な手立てでアフォードを試みる指導陣の編集は尽きることはない。
武蔵は人生にも「渡」があって、その「渡」が近いことを全力で知るべきだと言っている。それがまた短い試合の中にも外にもあって、その僅かな瞬間にやってくる「渡」にむかって全力の技が集まっていく。
新春に18名の入伝生に師範代認定が届けられた。いよいよ、師範代として瀬戸を渡る時がきている。
文 松永惠美子(錬成師範)
アイキャッチ 阿久津健(花伝師範)
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コメント
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(市川春子『宝石の国』講談社)