”オンラインで失われつつあるプロフィール”
リモートワークにオンラインミーティング。
不織布マスクにソーシャルティスタンス。
このような言葉がここまで生活に溶け込み、当たり前となると果たしてどれだけの人が想像できただろうか。
「Zoomなどのオンライン状態が広まると、今後プロフィールが失われるのではないか。」
2020年5月、緊急事態宣言下での初のリモートによる伝習座で鈴木康代[守]学匠はそう語った。
プロフィールとは、編集工学の型の一つである「BPT」の「P」にあたる。編集工学では、私たちが何かを考えたり想起したりするときに、発想の起点となるベース(B)があり、着点を「ターゲット」(T)をめざして探っていて、その「B」と「T」の途中で思い浮かぶ様々な「すがた」や「様子」を「プロフィール」(P)ととらえる。編集稽古ではこの「B」と「T」のあいだの「P」をとりわけ意識的に動かすことで、学衆は次々に新しい見方や可能性を発見していく。
こうしたプロフィールを――たとえば仕事のあいまの何気ない雑談も、自宅と職場のあいだの道行も、「旅行にいきたい」と思い立った瞬間に次々とあふれる連想の数々も――オンライン生活がつづくうちに忘れてしまっていはいないだろうか。
一年半を経た2021年9月25日の48[守]の伝習座で、康代学匠は改めて問い直した。
「コロナ禍で変化したパブリックとプライベートの違いを語ることもできずに、フレームに囲まれたオンラインの中でただ言葉を発しているだけになっていませんか。」(康代)
モニター越しの48[守]師範代。学匠・番匠・師範の語りを逃すまいととノートをとる
プロフィールが飛び交うイシスの「教室」
それではオンラインではプロフィールは失われていくばかりなのだろうか。もちろん、そのようなことはない。オンライン上でありながら多様な情報にあふれ、生き生きとしたプロフィールが躍動する場は、実は2000年から存在していた。それはイシス編集学校の「教室」である。
以前、松岡正剛校長の掲げた「突出するための五箇条」の一つに、「ヴァーチャルでのもてなし・ふるまい・しつらいを今一度熟慮すべし。」とある。既存のオンラインプラットフォームにただ受け身に乗るのではなく、編集対象とみなして編集を加えていく。「もてなし・ふるまい・しつらい」はどれも編集工学で重視する日本の方法の一つであるが、松岡校長はまず「しつらい」を決める。それも徹底的にやる。
こうしたオンラインとリアルのしつらえ編集によって、道場に入れば背筋が伸び、横道に入れば草木に目が向かうように、多様なプロフィールが教室に立ち現れてくる。
「イシスの教室は決してありきたりの場ではありません。豊かなプロフィールが花ひらくようにしつらえられた、松岡校長が編集された格別の場です。」(康代学匠)
編集もじっとしていない。動かない編集は編集ではないし、じっとしているエディターにはエディターシップはない。編集は変化なのである。編集は常に変化しつづける「そこ」にさしかかって仕事をする。
松岡正剛&ISIS編集学校『インタースコア』より
そもそもイシス編集学校の「イシス」とは、Interactive System of Inter Scoresのこと。2000年のスタート以来、「教室」も「伝習座」も、常に変化しつづける「そこ」に向かうインタラクティブシステムの一部なのである。
今日の伝習座では、師範・番匠による「用法語り」「指南語り」「エディション語り」、師範代によるフライヤー発表、松岡校長による校長校話が予定されている。
白川雅敏番匠(写真右上)による用法語りの様子。手元にスケッチボードを用意し、用法1の10のお題それぞれの特徴を漢字一字に重ねながら、お題の狙いや意義をあますことなく師範代へ口伝する。
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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