「生命に学ぶ・歴史を展く・文化と遊ぶ」。編集の有り様を「生命」に学び、「歴史」が展開してきた事象を検証し、「文化」の中にある遊びを重んじる。イシス編集学校を運営する編集工学研究所のフィロソフィーだ。編集工学のベースであり、イシス編集学校の創設当初からつづくミームでもある。
イシスの校長 松岡正剛は、これまでにこのフィロソフィーをメディア化することで次々に形にしてきた。12月に電子版が発売予定の『情報の歴史21』はその筆頭である。生命・歴史・文化をつなぎ、ウイルスから宇宙まで、ギリシア哲学からポップカルチャーまで、現在から過去へダイナミックかつ高速に往来する。このような「歴史的現在」を体感できるメディアづくりは、校長松岡の真骨頂の一つである。
編集とは単に知識をインプットするだけではない。現在と過去とをつなぐアウトプットあっての編集なのである。
校長松岡による「歴史的現在の編集」を体現する『情報の歴史21』の電子版。イシス編集学校では「メッセージ・メソッド・メディア」の三位一体を「3M」と呼ぶ。編集工学において欠かせない重要なコンセプトの一つである。
2022年10月1日、毎週のように日本列島を台風が通過した9月を経て、守破合同の伝習座が開催の運びとなった。
伝習座は指導陣の学習の場であり、春期から秋期へダイナミックにギアチェンジをする節目である。その冒頭メッセージで、守の鈴木康代・破の原田淳子の両学匠は、これから教室を担う師範代が目指すべき「歴史的現在」への編集について述べた。
* * *
康代[守]学匠は、9月下旬のオンラインガイダンスで、師範代へ「伝習座までにZoom背景の編集をする」というお題を課した(今回の伝習座で師範代はZoomで参加する)。
Zoomは今やテレビや冷蔵庫などにならぶ、生活の必須ツールとなった。人によってはリビングでテレビを観たり、食事の作り置きを冷蔵庫から取り出すのと同じくらい、Zoomが当たり前になっている。
ということは、ともすると日常モード、仕事モードで伝習座に参加することになりかねない。それではまずい。だからこそのZoom背景編集お題だった。つまり、Zoom背景を編集することは、「日常のわたし」「仕事モードのわたし」から「師範代のわたし」へ着替え、ロールチェンジする一環でもあったのである。
康代学匠は、Zoom背景編集お題のねらいを、松岡校長の過去のメッセージと重ねて語る。
せっかくの「守」なんだから、一挙に何かを掴みなさい。それには「型」をしっかり身に纏うこと。纏ったら、纏いを縫い上げること。印半纏のように、だね。
ー松岡校長が守講座の受講生へ向けたメッセージより
「伝習座では、松岡校長や師範のレクチャーなど、動的に方法の見方が入ってきます。これまで準備してきたものを与件に、編集をかけていってほしい。異質や混乱や揺らぎも丸ごと編集材料として、一気に縫い上げる1日にしましょう」と師範代へのメッセージを結んだ。
50[守]で学匠として11期目を迎える康代学匠。感門での鮮やかな石楠花色のドレスから落ち着いた金木犀色に着替えて指導陣を出迎えた。
* * *
原田[破]学匠が冒頭に持ち出したのは、感門之盟での「P-1グランプリ」である。P-1グランプリでは、破の編集稽古の集大成ともいえる「プランニング編集術」の成果を、師範・師範代・学衆が協働しながら「プレゼン」としてアウトプットする。
半年近い編集稽古を寿ぐ「感門之盟」というハレの場でお披露目される「P-1」。だが、松岡校長は先月の「P-1」について次のように講評した。
よくやっているけど、ちょっと出来はよくない。もっと突っ込んだ方がよい。分かりやすくしようとしてはダメ、人に理解されないところまで徹底して欲しい。タブーぎりぎりを目指すこと。
「あのP-1が、破の現状の全てが凝縮されていると思います」と原田学匠は切り出した。
「スーパーよりも、超部分が全体を凌駕するような「ハイパー」でありたい」
「編集的世界観を感じられるものでありたい」
「よく練られた逸脱を目指したい」etc.
こうなりたいという「憧れ」と、なかなか至れない「もどかしさ」。破の編集稽古の中ではこのようなアンビバレンツが必ずといっていいほど起こる。それは、破の稽古自体が「歴史的現在」に向かうプロセスであることの裏返しでもある。となると、学衆の抱く憧れともどかしさの間を編集し、現在と過去とを編集するために、師範代は何ができるのか。
「遠くのターゲットを目指しながら、目前の小さなターゲットを楽しみながら超えていく。学衆にはその両方が必要です。師範代も遠いターゲットやハイパーを学衆に求めながら、最初のお題である5W1Hの達成感・充実感も味わってもらう。難しいけれど、そのデュアルを師範代にはお願いしたい」(原田学匠)。
破伝習座の会場は2階の学林堂。原田学匠は「お題の意図や稽古のポイントは、テキストで理解できる。むしろさまざまな回答に対して、どのような道具や視点を持ち、いかに踏み込んでいくか。それが学衆の生きた編集に直結します。方法を信じて進みましょう」と師範代へエールを贈った。
伝習座と同日、Yohji Yamamotoのパリコレ(2023レディース春夏)において、校長松岡の言葉がデザインされた新作が公開された。これも校長のメディア化の最前線である。(上記画像はセイゴオちゃんねる(松岡正剛事務所)の公式Twitterアカウントより)
【第50期[守]基本コース 指導陣】
◆校 長:松岡正剛
◆学 匠:鈴木康代
◆番 匠:若林牧子、石井梨香、景山和浩
◆師 範:阿曽祐子、新井和奈、尾島可奈子、加藤めぐみ、森本康裕、相部礼子、佐藤健太郎、堀田幸義、阿部幸織、渡辺恒久、鈴木亮太
◆師範代:紀平尚子、三浦一郎、山下雅弘、大塚剛史、小野泰秀、川上有鹿、中村裕美、恩田偉志、田中志歩、川崎路織、川村眞由美、得原藍、稲森久純、森川絢子、黒田領太、西村洋己、原田祥子、仁禮洋子、遠藤健史、高本沙耶、林愛、新坂彩子
【第49期[破]応用コース 指導陣】
◆校 長:松岡正剛
◆学 匠:原田淳子
◆番 匠:野嶋真帆、福田容子
◆評 匠:中村正敏、北原ひでお
◆師 範:天野陽子、白川雅敏、竹川智子、戸田由香、華岡晃生
◆師範代:齋藤彬人、大塚信子、西村慧、古谷奈々、石黒好美、古澤正三、安田晶子、福井千裕、宮坂由香、田中香
【講座情報】
◆第50期[守]基本コースの詳細・申込はこちら
※[守]コースにご関心のある方向けに編集ワークショップを開催します。
・2022/10/5(水) 20:00-21:30 ジョギングからフルマラソンまで ランナーズのための編集ワールド・ツアー
・2022/10/7(金) 19:00-20:30 組織のカゼに編集術! 新しいアイディアを見つける編集ツアー
・2022/10/9(日) 14:00-15:30 人材開発と編集力 ニューノーマルの羅針盤、編集学校に学ぶ発想力とコミュニケーション力
・2022/10/11(火) 20:00-21:30 自分と世界がつながる! 社会・公益・地域活動のためのコミュニケーション編集1・2・3
◆第49期[破]応用コースの詳細・申込はこちら
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
片山杜秀が明かす『情報の歴史21』に遊ぶ方法とは【ISIS FESTA SP】
編集の面白さは、「ありえない」と思っていたけれど、いざ実現してみると「あぁ、欲しかったのはこれ」と思えるようなハイパーな組み合わせや未知な重ね合わせにある。その編集を自ら体現する校長・松岡正剛は、「ぼくは大論文とコラムと […]
【速報】林頭吉村が明かす「3つのネオバロック」とは?【52[守]・53[破]伝習座】
桜ほころぶ季節は、新たな節目の季節である。かつての感門之盟で校長・松岡正剛が発した言葉であらわすならば、「断点から断然」の編集へ向かう契機でもある。 こうした節目はイシス編集学校も例外ではない。2024年、 […]
【第83回感門之盟】「エディット・タイド」Day2 公開記事総覧
第83回感門之盟「エディット・タイド(EDIT TIDE)」の2日目(2024年3月17日)が終了した。これまでに公開された関連記事の総覧をお送りする。 【83感門】「潮流」は先達の方法から(八田律師・新井 […]
【83感門】「潮流」は先達の方法から(八田律師・新井師範メッセージ)
先生・先輩・親戚のおじさんetc…。誰にだって先達がいる。先達からの贈り物は、それがほんの一言や一冊であっても、その人の人生に一瞬にして新たな潮流を起こす。そのような体験をしたことがある方は少なくないのではな […]
【第83回感門之盟】「エディット・タイド」Day1 公開記事総覧
第83回感門之盟「エディット・タイド(EDIT TIDE)」の1日目(2024年3月16日)が終了した。これまでに公開された関連記事の総覧をお送りする。 【83感門之盟】初の3Days開催!タイトルは「エデ […]