【このエディションフェアがすごい!41】MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店②

2021/09/21(火)14:00
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 「このエディションフェアがすごい!」シリーズ、第41弾は大阪からMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店。フォトレポートを届けてくれるのはEdist編集部のエース梅澤奈央さんです。

 

◇◇◇

 

■タピオカ、LOFT、松岡セイゴオ

ウルフルズは歌った。「梅田行きのキップ買って(アベックだらけ)」「三番街から茶屋町(あ、ええ感じですよね そやねー)」 

22歳のトータス松本は、梅田のインド喫茶・カンテグランデでバイト中、のちのメンバーに出会う。大阪梅田の茶屋町といえば、ZARAやユニクロの大型店が並び、いまだ貢茶(ゴンチャ)に列ができる若者の街だ。この中心地、LOFTとゲームセンターの真向かいにそびえ立つMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店で、一揆が起きた。知の一揆である

 

 

▲9月5日のフェア開始日にはMARUZEN&ジュンク堂梅田店より生中継が決行された。入口では松岡が睨みをきかせる。

 

■ついに旗揚げ 知祭り一揆

日本全国でこの夏、同時多発的に開催された「松岡正剛千夜千冊エディションフェア」も最終章。舞台は売り場面積2000坪超、国内最大の売り場面積を誇るMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店。いちびりな大阪人が西日本でのしんがりを務めるとなれば、熱情もひとしお。文庫・新書担当の大下朗氏も「ここまでやるとは」と呆気にとられた前代未聞のフェアだ。

 

ひと月前、2階文庫コーナーでのささやかな宵山から始まり、満を持して9月5日から26日まで、5階芸術書イベントコーナーにて賑々しいセイゴオ巡行が始まった。

5階へのエスカレーターを昇ると、本のザワメキが聴こえてくる。

 

■「“本から本へ”を感じる展示」

追加書籍としてダンボールひと箱ぶんを抱えて現れた担当大下氏は、展示に太鼓判を押した。「ふだんはあまり意識されないのですが、1冊の本が出来上がる背景には、無数の本があるんですよね。この展示はその流れを体感いただけるはずです」と太鼓判。京都生まれの大下氏は、気づけば松岡正剛は身近にあったという。

松岡本が過去の名著を束ねる展示を見て、「『この本の次は、あの本』と次々に手が出てしまう仕掛けが魅力的」と語る。イシス編集学校チーム大阪(通称ピラニア軍団)による棚づくりは、”本から本へ”を感じさせるものとなった。

▲MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店での売れ筋は、エディションでは『本から本へ』。関連本では、以前よりベストセラーだった『生命とは何か』。若者に薦めたい本を尋ねると、大下氏はレヴィ・ストロースと迷いながら「誰しも通るバロウズを」とコメント。

 

■字紋が広げた波紋とは

このフェアの特徴は、知の源流をたどれること。そんな展示が可能になったのは、本が本を呼ぶように、千夜千冊エディションにあしらわれる「字紋」が波紋を広げたからだ。当フェアを買って出たイシス編集学校・チーム大阪の面々は、松岡のポスターや、千夜千冊エディションおよびキーブックのポップでは飽き足らず、オリジナルの展示ツールを制作した。

 

14の字紋を、パネルに仕立てて壁面にあしらう。字紋に似た編集64技法風呂敷をのぼり旗に仕立てる。サイコロになった字紋は、ブックエンドに生まれ変わった。

 

  

▲のぼり旗が目を引く、幅10mのフェア全景。

 

フェア開催2週間前の8月半ば、会場イメージを版元KADOKAWAを含む関係者に確認したところ、「このフェアは実際に見に行きたい」と声があがるほどの好評を博した。この設えは、おもに千夜千冊研究家の冊匠大音が旗を振り、グラフィックデザイナーの野嶋がデザインを起こし、構造設計士の山田がつくりあげる。「壊す・肖る・創る」というイシスの編集三間連結を地でいく、浪速の三女傑による連携プレーだった。

▲フェア開始前、山田は売り場を採寸。即座に設計図に起こした。そこへ野嶋が縮尺にあわせツールのレイアウトを行う。ふたりの手によって、赤字で青字で設営上の詳細が書き込まれる(撮影:山田細香)

 

緻密に設計された舞台でスポットライトを浴びる千夜千冊エディションを見て、カメラマン木藤良沢は「あの21冊は、本の発する気配が違う」とつぶやいた。前評判を上回るディスプレイの様子を、木藤による写真で紹介しよう。

 

 

■知祭り一揆の九つ道具


●1●祭りの開催を宣言する 風呂敷旗


旗は祭りの必需品。腰高の平台に、高さ160cmののぼり旗がひときわ目を引くのが当フェアだ。松岡による編集64技法が字紋のように略図化されたデザインは、イシス編集学校の創立20年を記念して編集工学研究所デザイナー穂積晴明が手掛けた。「これは一揆の筵旗になる」と目をつけた大音美弥子の意図を山田が察知。山田は知人に頼み込み、ズボンの裾上げテープで縫製。風呂敷をのぼり旗へと仕立て直した。



  

▲編集64技法の出典は『知の編集術』にあり。参考文献も抜かりなく紹介する正方形のミニポップは野嶋作成。裏面は、購入ページにリンクされたQRコード。

 


●2●主役には玉座を 千夜高座


千夜千冊エディションフェアは、21冊のエディションが主役。関連本とは別格の扱いを示し、手に取りやすくするために、主役用の高座を設けた。台座は、高さの違う8台を用意。すべて山田の私物だ。このままでは天板が小さかったため、取り外し可能な天板をMDFボードで作成。裏面の滑り止めには建築用模型に使うバルサ材を用いた。

構造設計士の山田は、1945年から65年ごろに日本で建てられた現存しない小住宅の模型を夜な夜な作っている。資金もなく資材もない時代に、建築家が何を考えていたのか知るための遊びだという。その資材と技量が活用された。

 

  

▲天板の裏面には、山田の手による鉛筆の下書きが見える。大下氏もしゃがみこんで「よく作ってある」と感嘆の声を漏らした。

 


●3●さらに念押しの襷を ちまつリボン


お好み焼きに白米を合わせ、神輿を舟に乗せるのが、過剰を是とする大阪人。玉座に座らせた松岡本を見て、「まだ目立ってへんのちゃう?」とフェア開始後さらなるツールを追加した。

当フェアでは、エディション21冊を「知・ま・つ・り」の4つに分類。それぞれのグループには「知をたどる ―世界とつながる私の行方―」などタイトルを冠した。これらの文言選定にはチーム大阪14名で大喜利を開催。「チカチカと歴史の奥底から私を脅す」「塵と熱から震天せしもの」などさまざまな案を制し、若者に千夜千冊という体験をさせたいと願う野嶋案が採用された。この言葉をベースに、松岡本をマーキングするための分類リボンも野嶋が腕を奮った。色の違う「知・ま・つ・り」の4色は、とくに「ま」と「つ」に鮮やかな色を配置し、視線を中央に集める仕掛け。

 

  

▲アクリルケース上に勢揃いしたエディション21冊にはもちろん、高座のエディションにも襷がかけられた。

 


●4●本を旗で分ける 旗ポップ


会場の目印がのぼり旗なら、本のトポスを示すのがこの旗ポップだ。当フェアでは、100タイトル近い関連本を、収録エディションに合わせて「知・ま・つ・り」の4グループに分類。その知の源流を告げるのが、卓上の旗だ。本のあいだに屹立してはためくポップは、「64技法風呂敷の子分に」と、輪郭線まで模倣しながら野嶋がデザイン。旗本体はA3用紙を縦に折ったもの。100均で購入した枠を結束バンドで固定、台座は家具用の棚板とバルサ材。毎度のごとく山田が工作。

 

  

▲「りかいする ―物質と生命と私のミナモト」には、『情報生命』や『理科の教室』『心とトラウマ』などが分類される。取材中、「り」ゾーンにある『24人にビリー・ミリガン』が購入されていった。

 


●5●二次元から三次元へ 字紋骰子


山田は、字紋があしらわれたクリアファイルを見てひらめいた。字紋は立体になる。A4にサイコロの展開図を印刷し、それを厚紙に貼り付けて切り取り。組み立ててれば立体字紋の完成。グリコのおまけのようなこのサイコロを書棚に並べて賑やかにするというアイデアは、本棚に小物を散りばめる近畿大学アカデミックシアター DONDENに山田が肖ったという。書店に持ち込んでみれば、ブックエンドにもなるというコンティンジェンシーの発露。つぎつぎに「こんなんできました」と次々にディスプレイ用品を生みだす山田を、野嶋は「山田工場」と評す。フェア開始後、追加されたツールのひとつ。

 

  

▲「このサイコロで出た字紋が、あなたの運命の千夜千冊エディション」 そんな偶然の出会いもできそうな字紋サイコロ。

 


●6●本棚劇場は三段構え 10個の30cm角のアクリルケース


当フェアで用意されたのは、棚ではなく平台。本を平置きするだけでは芸がない。そこで編み出されたのが、アクリルボックスで立体的に展示する方法だ。山田は大阪本町の什器問屋を訪ねるも、コロナ禍でのアクリル需要の増加のため門前払い。何度も訪れるうちに「そんなに欲しいんやったら」と店主は秘蔵の6つをついに手放した。さらに熱意にほだされ、非売品を4つ無償提供。

 

  

▲10のアクリルボックスは相当なカサが張る。山田家から店舗への搬入には、山田父の車が活躍。

 


●7●舞台の下の力持ち MDFボード


本は重い。9月5日の設営から数日後、天に掲げたエディション21冊で撓んだアクリルケースを見て山田は分析した。「集中荷重と等分布荷重では計算上たわみが8倍違います」 荷重を面で受けるべく、MDFボードを挟み問題解決。実際に展示が始まってからも、細かな試行錯誤が続いている。

 

 

▲ボードを指差す山田の手。毎日全身ヨージを纏う山田は、時計もモノクロ。この日はmockbergのもの。

 


●8●安定感をもたらす コンパネ


売り場の土台を固める、一見なんの変哲もないコンパネ。未処理だと木のささくれが目立つコンパネだが、この表面はなめらか。山田はお客様の手や書籍を傷つけないよう、丁寧に全面ヤスリがけを施したのだ。この下処理について担当大下氏は「誰も気づかない配慮でしょうから、僕が声を大にしてねぎらいます」と山田の苦労を思いやった。

また、山田はコンパネをホームセンターで裁断する際、アクリルケースの外寸300mmに合わせてしまい、中敷きが不可能になった痛恨のミス。4辺すべて1.5mmずつ縮める作業は、父和男と連れ合い萩原の手を借りた。

 

▲パネルをアクリルボックスに敷いたことで、知まつリボンも直貼りされ、見やすさも向上。山田の左手小指に光る指輪には「地震が起きませんように」という構造設計士の願いが込められている。

 


●9●字が踊る・文が舞う 字紋パネル


当フェアを彩るのが、この字紋パネルである。エスカレーターを昇ると見えてくるガラスの壁面が、絶好の広告スペース。そこに目をつけたチーム大阪は、字紋で飾りたいと提案。字紋デザイナーも公認のツールが誕生した。

約2mのガラス壁を2枚に渡って埋め尽くすパネルは、全28枚。各パネルは2枚一組、両面。それぞれ、字紋と各エディションからの引用文があしらわれている。引用文のセレクトは、竹島陽子・敷田信之・阿曽祐子・景山和浩・網口渓太らチーム大阪の面々。デザイン・制作は野嶋。野嶋は、A3両面糊3mm厚パネルを2つにカットし、貼り損じたものを手ピカジェルで剥がしながら、両面あわせ56面のハレパネ貼りを完遂。売り場を訪れる人が思わず足を止め、読みこむ姿がよく見られた。

 

  

 

  

▲本には文字がよく似合う。

 

 

■すべてはここから始まった 

 火種となったエディション21

 

風呂敷からサイコロまで、あらゆる意匠をあしらったMARUZEN&ジュンク堂梅田店のフェア。すべては、この21冊の千夜千冊エディションをマザープログラムに生み出されたものである。

 

 

 

 

 

■予告■1Fフェア 9月26日〜

 

5階イベントコーナーでの本展示は、9月25日まで。同時に5階エレベーター横での展示も開催中。その後、1階に場所を移して10月4日まで開催される予定だ。

1階での展示イメージを説明された大下氏は「夢に見そう」と顔をほころばせた。

1階での展示が当店最後の打ち上げ花火。気合の展示をお見逃しなく。

 

  

▲取材後、野嶋・山田・梅澤が仲良くカゴを抱えてレジにむかい、会計を終えてもまだ黙々と撮影していた木藤。「まだ撮りたいんで」と解散後2時間ひとりで粘り、全769枚を撮影。取材は、10年ほどまえ当店6F洋書フロアでバイトしていた梅澤。

 

写真:木藤良沢

(店舗外観・カメラマン写真のみ、野嶋真帆撮影)

 

※MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店関連記事

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◎シリーズ36:MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店(大阪市) /山田細香

 構造設計士山田による、大阪梅田の建築分析は必見。

 

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 なぜこのフェアは「一揆」なのか? 当フェアのプランニングの模様を「7chaの法則」で分節化。

 

◎感門特別篇:ピラニアたちの指 ホンゴジラ・後の祭り【77感門】/大音美弥子

 一揆に集ったイシス人7名を「指」という断点から見る。ホンゴジラの筆力に悶えよ。

 

◎ 番外編:エディションを「ち・ま・つ・り」で分ける MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店 分類篇/大音美弥子

 エディションを何で分ける? 師範による「豆腐で役者を分ける」実践編を目撃せよ。 

 

 

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  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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