『本から本へ』から共感した言葉を抜き出したパネルを手づくりし、大阪で先陣を切って千夜千冊エディション「知祭り」フェアを開催したジュンク堂書店難波店の福嶋聡(あきら)店長。2時間近い取材に答えてくださったが、その思いは編集工学と重なる部分も多い。福嶋店長の言葉を中心に、ジュンク堂書店難波店第2弾を番外編としてお届けする。
『本から本へ』を手に、セイゴオポスターと向き合う福嶋聡店長
「本はライフライン。不要不急の商品ではない」。コロナ禍で繰り返される緊急事態宣言。多くの店が休業や短縮営業を余儀なくされるなか、時短とはいえ休むことなく営業を続けた店舗が大阪にあった。ミナミの真ん中に位置するジュンク堂書店難波店だ。福嶋店長は笑顔で話す。「もともと本屋に来て、大声で話す人はいませんからね」。たしかに客は静かに本と対面し、話してもぼそぼそ小声。書店それぞれに事情はあるが、感染対策に向いた場所といえるのかもしれない。
「お客さんも来てくださったんですよ」。話を聞くと来てくれたどころではない。本を求める列は、レジから書棚に沿って蛇行するように続き、ディスタンスを取りながら200メートルを超えたという。子供のためのドリルを、ふだん読めない本を、好きな作家をたっぷりと。緊急事態宣言下でも、いや、緊急事態宣言下だから人は本を求めて静かに並んだという。
「本はライフライン」という言葉が実感を持って迫ってくる。
フェアコーナーを見下ろすようなセイゴオ「知祭り」ポスター
福嶋店長は、書店に「異次元の時空間を創発」(『パンデミック下の書店と教室』より)する活動を続けている。店内で開くトークイベントもその一つ。即席ステージに椅子を並べ、書き手と読み手の接点をつくる。イベント目当てで集まる人もいれば、知らずにやってきたお客が突然、鋭い質問を投げかけることもあるという。そんな「事件」もライブの醍醐味。予定調和では終わらない。異質が混じり合って創発空間は生まれるのだ。
神戸大学の小笠原博毅教授との往復書簡で構成された著書『パンデミック下の書店と教室』
「お客さんに飽きないこと」―書店員を続けてきた一番の理由を、こう話す。それは、書店員にとって大切なことでもある。クレームを受けることもある。知らないことを尋ねられることもある。「それを面白がることができるようになると」楽しくなるそうだ。「教えてもらうつもりで話し、怒られ慣れたらいいんです。お客が怒るのはしょうがない。でも自分は決して怒らないことです」。
お互いが自分を正しいと主張し、話を聞かなくなると創発は起こらない。対話があってこそだ。
ヘイト本も同様だと言う。「ヘイト本に賛同はできない。が、自分が正しいと思いこむと対話が成立しなくなる。対話しているうちに可能なことが出てくるのではないかと思うんです」
気に入らないからといって店頭から排除しては、相手と同じ排除なのではないか。だから反ヘイト本フェアを開いたときも、あえてヘイト本を並べたという。まずは読み、相手の言い分を聞き、考えることが大事なのだ。
言葉と言葉、本と本がぶつかり合う書店を福嶋店長は「言論のアリーナ」と呼ぶ。文化の闘技場。異見がぶつかりあって、知は動き出し、創発する空間が生まれる。書店は本来そういう場であるべきなのだろう。
そんな福嶋店長だが、「若い頃に古典をもっと読んでいれば」と後悔する。「先端の現代思想を読んでも、古典を読んでいないと分からないことがある。時間がある学生時代にもっと読んでおけばよかった」。学生時代に教えを受けた先生にはこう言われたという。「高く伸びるためには土台を広げること」だと。
本から本へと続いてきたライフライン。古典を読みなさい。福嶋店長から若い読者へのメッセージだと受け取った。
『本から本へ』をめくる福嶋店長
福嶋店長と話すと、書店員としての矜持を感じ、書店がとても編集的で魅力的な場であることを実感できる。ジュンク堂書店難波店の「知祭り」フェアは延長して8月20日まで開催している。近くの方はぜひ、お出かけください。
(写真撮影は木藤良沢)
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景山和浩
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