■感門之盟の由来とは?
イシス館の階段をゆっくり下りてくる松岡校長を、井寸房が迎える。青白橡色の羽織を纏った校長は、今日開かれる感門之盟の由来について語りだした。4世紀半ばの魏晋南北朝の中国は、六朝とも呼ばれるダイバーシティに富んだ時代で、変わり続ける王朝に庶民も貴族もうんざりしていた。そうしたなか、有能な文人たちが、爛れた中央の治世へ勝手に好きなことを言おうと集まった。これが清談と言われる談話で、のちに竹林の七賢と言われる人々も登場した。その中心にいた書聖の王羲之は、国の仕事をすべて断り、会稽の蘭亭というトポスで流觴曲水の宴を催す。42人の同志が集まって開いたこの蘭亭の会盟に肖ったのが、イシスの感門之盟だ。王羲之には子どもや孫が数多くいた。校長にとって、感門之盟に集う人たちが我が子のような存在だという。
■王羲之の感門之盟を擬いて
王羲之が考えた蘭亭の会は、それはすばらしいものだった。27篇の詩をつくり、書体も詩文のスタイルも変え、それぞれに題がつけられた。イシス編集学校でも、いくつもの教室があって、お題があり、そこにタイトルをつけている。そして感門表でお互いを称え合うなかに校長も加わり、感謝や労いの気持ちを直筆の色紙に込め、先達文庫に託しているのだという。そうやって生まれたのが、この学校なのだ。
■イシス編集学校でのお題とは?
79感門のタイトルをよく見ると、ダイバーシティの綴りが違っている。ダイバーシティのdiは複合的という意味で、verseは世界を表わす。このdiversityに「お題」を掛けているのが、今回のタイトルになっている。イシスでデザインを担当する穂積晴明が編み出した別様のダイバーシティを、校長は丁寧に紹介した。
お題は、問題、課題、議題、例題などいろいろあるが、例えば幾何学やリベラルアーツではお題を出して応じる。そのためにプログラムやカリキュラムが練られている。
お題はtitle、issue、subjectなどと言い換えられるが、アカデミーでは、お題とその答えがQ&Aのように一対一対応になっている。しかし校長は西洋と東洋の知的な活動を見ていて、必ずしもそれだけが大事なのではないと考えた。QとAの間にはコミュニケーションが起こっているはずで、逸れていくものもある。もっと面白いものも生まれている。いわばAがQを食べるということもあると、ずっと感じていたのだという。問感応答返のプロセスではたくさんのエディティング(E)が起こっているのだ。ここからQ&Eが誕生した。Q→Eとすれば、EがたくさんのQをまたつくり得る。そうやって編集学校のお題をつくったのだという。
■ダイバーシティの本来とは?
ダイバーシティというのは、最近では、差別せずに変化や差異を活かそうという意味で使われている。だが本来、多様性とは、あることを知覚したときに頭の中に浮かんだり、身体で感じたりする束ね難い広がりを言うのだと、校長は語る。例えば蝶が一匹飛んでいると、その飛び方に対してハッと思い、私たちは頭の中にあるものに的確には反応できない。そういうものがずっと残っていく。これが編集的ダイバーシティ、エディティング・キャパシティというものだという。
今日と明日のイシスのダイバーシティを巡って、大いに言祝いでほしいと、校長は「我が子」たちに向かってほほ笑んだ。今日の感門の盟からも、いくつもの新しいQ&Eが生まれ、蝶のように羽ばたいていくのだろう。
丸洋子
編集的先達:ゲオルク・ジンメル。鳥たちの水浴びの音で目覚める。午後にはお庭で英国紅茶と手焼きのクッキー。その品の良さから、誰もが丸さんの子どもになりたいという憧れの存在。主婦のかたわら、翻訳も手がける。
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