終演後の拍手に応える田中泯さんの手には、マイクがあった。
「初日があけました。もう、うれしくって…」
顔がほころんでいる。踊りの「外は、良寛。」を世に送り出した喜びを打ち明ける。ダンサーはあまりしゃべらないものだが、泯さんは終演後に語る。この日の口調は、毬がはずんでそれるみたいに、うれしさが飛び出してしまったみたいだ。
『外は、良寛。』は、松岡校長の著作のなかでもファンの多い一冊。1993年に芸術新聞社から刊行され、現在は講談社文芸文庫に収められている。1995年の『フラジャイル』に先立って、松岡校長が、フラジリティの意味を問うた書といえる。良寛の書、歌、生活ぶり、人とのつきあい方、そのよって立つ景色といった諸相から「いま」が忘れてしまっている、でもかつて確かにあった意味を掘り起こして見せてくれる。
この公演では、田中泯さんが語り部ならぬ「踊り部」となり、良寛の身体になって歩み、遊び、語り、書き、祈る。松岡校長のつむいだ言葉、さらには言葉以前の音がひびき、杉本博司さんの海の景色が表情を変え、本條秀太郎さんの音楽が遠くからおとずれ、山口源兵衛さんの衣は畏れをつれてくる。言葉になるやならずの音の破裂とともに身体がうごく。雪景色にダイブし、歌を追いかけ、泯さんが良寛になってゆく。やがて踊りはしまいにいたり、「外は、良寛。良寛だらけです。」と言い放つ。
カーテンコールで舞台上によばれた校長は「最後、ナマ声でよかったね」と一言。録音の自分の声では気に入らなくって、と応じる泯さん。作品作りの裏側をチラリと見せる。泯さんからの最後のメッセージは、「みんなもっとナマの舞台を見て! いっぱい感じて、想像を広げて!」。そうなのだ。私たちには自分を突き飛ばし、遠くへ連れて行ってくれるものが不足している。どんなものなのか、予想しづらいものをこそ見てみたい。
「外は、良寛。」はあと、3回。本日12月17日(土)15:00、19:00、18日(日)15:00。
良寛に会って、良寛になる体験をぜひ。
公演の詳細はこちら。
踊り部 田中泯 「外は、良寛。」 東京芸術劇場 (geigeki.jp)
原田淳子
編集的先達:若桑みどり。姿勢が良すぎる、筋が通りすぎている破二代目学匠。優雅な音楽や舞台には恋慕を、高貴な文章や言葉に敬意を。かつて仕事で世にでる新刊すべてに目を通していた言語明晰な編集目利き。
ミニ千夜千冊で競う!50[破]アリスとテレス賞エントリー終了
「1時間でわかる○○」といったタイトルが珍しくもないほど、コスパ、タイパが叫ばれる昨今だ。ムダをはぶき、時間を大切にするのはいいが、節約のための節約になってしまっては、ミヒャエル・エンデの『モモ』が描く灰色の世界になっ […]
いったいどういう風が吹いてきたのか。AIが文章を書いてくれる時代に、編集的に書く講座[破]が盛況だ。48[破]61名、49[破]67名だった受講者が、今期はぐんぐん増え続け、予定を超えて2教室増設、96名での開講となっ […]
【ISIS BOOK REVIEW】直木賞『地図と拳』書評 〜“カタロガー”の場合
評者: 原田淳子 図書館流通センター勤務、カタロガー イシス編集学校 [破]学匠 私は図書の目録を作っている。目録という言い方は古めかしいか。本を検索するときに使われているデータベースのことである。今回は […]
49[破]は、2月12日に最終日を迎えた。この日が全番回答の〆切日。46名が4つの編集術の旅から、見事、帰還した。 イシス編集学校において、突破は大きな節目である。だれでも入門できるが、必ず[守][破] […]
物語編集術は、[破]の華である。校長の仕事術をアレンジした[破]のお題は、どれも日々の仕事術になる実用的なもの。かつ、濃厚に編集術を重ねていけば、ドリーミーな作品を創りだせるものでもある。ドリーミーにもっとも近づきやす […]