編集かあさんvol.2 七草粥の遊びと学び

2020/01/19(日)11:16
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「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。


 

 植物のことをいつも考えている長男(12)は、毎年、七草粥を食べる1月7日を心待ちにしている。

 準備は前日から始まる。家庭菜園で種から育てていたカブ(スズナ)とダイコン(スズシロ)を収穫する。ハコベとゴギョウが生えているのも見つけたが、小さすぎるので今年は収穫せずに、温存することにする。
 スーパーに七草セットを買いに行く。帰ってきてすぐ、ざるに広げて写真を撮っていると、妹である長女(6)が「何してるの」と寄ってきた。説明書きを見ながら「ミズナ?」と言う。
 長男、笑いながら、「ちがう、これはナズナ」と実物を見せながら説明する。長女にとってミズナはお鍋に入っているおなじみの野菜だが、ナズナが食べられるのは初めて知ることなのだった。
「これはスズシロって書いてるけど、ダイコンのこと」と七草レクチャーが始まった。一通り教わった長女は、長男に「これはなんでしょう?」と逆にクイズを出し始めた。兄はもちろん全問正解で、盛り上がる。

 7日の朝、たっぷりの水で七草を洗う。お湯を沸かして、一種類ずつゆでる。
 アクの少ないものからゆでたい。「カブとダイコンからかな。ホトケノザはキク科だから後のほうがいいと思う。ハコベとかゴギョウって何科だろう?」長男、植物図鑑を本棚から出して調べ始める。
「意外! ハコベはナデシコ科だって。ハハコグサはキク科らしい。知らんかったわ」
 見た感じや香りも加味して判断し、スズナ、スズシロ、ハコベ、ナズナ、ゴギョウ、ホトケノザ、セリの順番でゆでる。絞ったものを長男が細かく刻んだ。先に炊いておいたお粥と混ぜ、一煮立ちさせたら出来上がりだ。

 おもちゃで遊んでいた長女に「七草粥、いただくよ」と声をかけて、食卓につく。
 長女は「えっ、今日のご飯、なんでこれなん?」と今さら驚く。
 今日は七草の日で、お正月にごちそうをたくさん食べた体を休ませるっていう意味があるんだよと話す。こういう時は、私が教えてるのではなく、受け継いできた言葉を手渡す感覚がある。
 長女は「そうなんだ」と、普通の顔で食べ始めた。

 七草粥の風習は、古代からある若菜摘みの行事に源流がある。芽吹き始めた大地の霊力を身体に取り入れるという祈りが込められている。
 私が七草粥を食べて思い出すのは、林芙美子の小説や武田百合子のエッセイである。貧乏や戦争で食べるものが無い時、摘み草をして食べたというシーン。
 どんなに大変な時でも、何かを腹に入れることで気力が出てくる。たくましく生きる執念を忘れてはいかんよと鼓舞されている気持ちになるのである。
 毎年同じ行事をしていても、子ども達が大きくなるにつれて、仕事の分担や食卓の話題は変わってくる。いつかこんな話をすることもあるかもしれない。

 




〇〇
編集かあさん振り返り

 おもしろかったのは、突如、長男から長女に、七草レクチャーが始まったことです。長女が6歳になり、兄の植物談義にのっていけるようになったからだと思います。教えると教わるが賑やかに交差する模様を台所から眺めていました。
 長男は、来年はハコベなどを種から育ててみると言っています。同じことの繰り返しだからこそ変化が見える。年中行事ならではの「遊び×学び」です。

〇〇
遊んだ本

『小学館の図鑑NEO 花』監修・執筆・写真/多田多恵子 写真撮影/大作晃一 写真撮影/亀田龍吉

日本で初めての、分類順に紹介されている植物図鑑です。

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。