編集かあさんvol.41 稲を育てる

2023/02/10(金)12:30
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「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。

 

 苗をもらう

 昨年、中3の長男が庭で栽培したいろいろな植物の中で「久しぶりに育ててみておもしろかった」のが稲だった。

 4月の終わり、所属している中学校から、「学級でバケツ稲を育てますが、家庭で栽培されますか」と連絡があった。
 6年前に一度育てたことがある長男の気がかりは、土だった。
 「稲は他の野菜とちがって、お店で売ってる培養土を使えないから。育てるなら、田んぼの土が一番いいんだけど」。
 小3の長女はまだ稲が育つところをしっかり見たことがない。なので、編集かあさんとしてはぜひともやってみたかった。
 土は実家の元田んぼの畑に行ってもらってくるというと「じゃあ、やってみよう」。バケツだと1、2株しか植えられないので、プランターを使って育てることになった。
 育て方は、知り合いから譲ってもらった冊子『小さな田んぼを作ろう』(新学社)を参考にすることにした。

総合学習のための小冊子
『小さな田んぼを作ろう』(新学社)

 

 田植えする

 まず、実家から分けてもらった土をプランターに入れて、水を注ぐ。
 ここで長男、土の様子を見て「このまま一晩おいて、なじませてからのほうがいいと思う。土が水を吸うのにはけっこう時間がかかるから」という。
 学校などだと作業時間が決まっていることが多いが、こういった「こだわり」を発揮できるのがホームエデュケーションのいいところだと思う。共同作業できることはもちろん大事だけれど、長男の場合、その前に学校とは「別」の「好き」にできる場が必要なのだった。
 置き場所は、日当たりの良さそうなフェンス脇に決める。
 翌日、「いい感じに泥になった」土に肥料を混ぜる。長女も誘って、3人で6本の苗を植えつけた。


プランターに6本の苗を植えつけた

 管理する

 植えつけのあとは水をきらさないようにするだけで、他の野菜と比べて特段に管理が難しいわけではない。
 最初は数本しかなかった葉が次々と分けつして増え、ヒョロヒョロからガッシリした雰囲気になっていった。
 いつのまにか水面に水草のようなものが生まれ、浮いている。藻も生えてきた。土の中に眠っていた種や胞子が、水で生き返ったようだった。
 真夏は、あっという間に水がなくなった。
「こんなに稲って水を吸うねんな。蒸発するのもあると思うけど」。
 いつもいるオンブバッタに加えて、これまで庭では見たことのないトノサマバッタも来た。
 葉がかじられている。手をこまねいて見ているわけにはいかない。
 水やりは長男、虫退治は私の担当となる。

すぐに水が無くなる、真夏のプランター稲

 

 スズメを防ぐ

 8月、葉の成長がとまってしばらくすると、茎がふくらんできて、
穂が顔を出し、花が咲いた。
 時間差で6本の株すべてに穂がついた。

開花中の穂にとまっていたバッタ

 株の高さや大きさ、穂がつく早さに、少しずつ違いがある。
「この差はどこからくるんだろう。遺伝子なのか、日当たりなのか」。
 長男、考える。

 実は少しずつ充実してきて、少しずつ穂が垂れるようになってきた。
「あ、食べられてる!」
 目のいい長男は見逃さなかった。
 数本の穂の実がなくなっていたり、籾だけになったりしている。やわらかいデンプン状の中身が吸われたのだ。
 おそらく、スズメだろう。よく見るとフェンス際だけが食べられている。
「なるほど、ここにとまって、くちばしで噛むんだな」
 フェンスにネットをかけて、スズメたちがとまれないようにした。

スズメ対策でフェンスにネットをかける

 

 稲刈りする

 「最近、全然水が減らない。もう育ち終わって、種を乾かす時期に入ったのかも」
 いつ稲刈りをするのがいいのかは、長男にも判断がつかないらしい。
 何日かかけていつ刈り取るかを話し合う。育て方の冊子も参考にする。
 10月15日、ささやかに稲刈りをした。

 

ハサミを使って稲刈り

 洗濯の干し台に、さかさにひっかけて二週間ほど干したあと、脱穀する。 
 たった6株でも大変だ。
 実が穂にしっかりくっついている。乱暴に外すと飛び散ってしまう。
 「千歯こきを発明した人すごいね」といいながら、いろいろな道具を試しつつ実を外した。
 2時間以上かかってようやく籾と藁を分けることができた。集めてみれば一食にも満たないほどのほんの少しの収穫だった。
 おなかいっぱい食べるためには、見渡す限りの田んぼが必要だということが実感できた。
 来年はもっと広い場所で……という欲にムラムラと火がつくのを感じた。それは理性を越えた心の動きだった。

 注連縄を作る

 籾摺りをして食べるのは年明けにすることにして、先に、藁を使った注連(しめ)縄作りをした。
 藁を水で濡らし、たたいてやわらかくする。足で押さえながらより合わせて縄にし、丸い輪を作った。長女が「魔法みたい!」という。
 白い紙を切って紙垂(しで)をつくる。金色の紙で扇をつくり、南天やゆずり葉も飾った。


子どものための農業雑誌『のらのら』(農文協、

現在は休刊中)を見ながら作った注連縄

 注連縄は、お正月がおわったあと、小学校の校庭で行われているとんど焼きで燃やした。
 火を見ていると、この3月で長男の義務教育期間が終わるということが胸に迫ってきた。

 「別」の場所からの出立


 長男は集団生活を苦手にしていたことから、学校教育をそのまま受けることはできなかったけれども、学習のアーキタイプに遡ることに気が
ついてからは、遊ぶことや学ぶことに不自由したという感覚はあまり感じなくなった。  
 かつて稲づくりなどは日常の景色で、学習の「地」になるものだった。現代ではむしろ環境としての「地」の多層多重性を維持することがむずかしくなっている。
 長男の場合はありあまる時間をつかって「地」を充実させることで、子どもが自ら「図」を掘り出す力につながったように思う。
 「図」を描くためのあれこれの方法は、編集稽古を応用して、遊びや会話のなかで意識して伝えた。読む力がつくと、本のネットの中の人々からも学び始めた。
 「別」の場所での経験が満ちると、学校という仕組みが用意した「図」を見てみようという気持ちが育ってきた。気がつけば、「高校生」という新しい属性に向かって自ら進み始めていた。

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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