編集かあさんvol.28 言葉が話せなかったころ

2021/11/15(月)08:30
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「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。



 赤ん坊と本を読む
 
 長男(13)が0歳で、まだ言葉が話せなかったころも時間ができたら読み聞かせをしていた。子どものための読み聞かせというよりも共読の一種、二人だから一緒に本を感じられるように声を出して読んでいたというほうがいいかもしれない。そして、いろいろな遊びが本から生まれた。

 イシス子どもフィールドでイドバタ・ミーティングをしていると、幼い子のかあさんメンバーから「まだ言葉が通じない子どもとのかかわり方や、遊びの引き出し方が雲をつかむようで、とまどいもある」という話が出た。
 それで初めて、もしかして自分がやっていたことは少しユニークだったのかもしれないと思った。
 子どもには自分が読んでみたかった本をなんでも読んでいたが、特に覚えているのは谷川俊太郎の『ことばあそびうた』や、誕生祝いでもらった『三びきのこぶた』や『ももたろう』などである。
 言葉遊びは第一子で張り詰めたところもあった日常をゆるませ、昔話を読めば、生活にちょっとしたスリルと安堵が挟まれて飽きなかった。

 指さしで話す

 長男から、意味のある言葉はなかなか出てこなかった。少し言葉が遅いかもしれないと思い始めた1歳ごろ、「ん」と言いながら、まわりのモノを指さすようになった。
 トマトを指さした時に「トマト」というと、ほっとした表情になる。どうやらアタマの中には言葉があるらしいと感じた。
 上を指したときなどはむずかしい。「てんじょう」「でんき」それとも「うえ」? アタマの中の言葉と合致するまで、「ん」を繰り返す。だんだん「ん!」になってくる。くたびれることもあったけれども、「お題っぽい」とおもしろがって乗りきってしまったのは、編集学校を経験していたからだろう。
 フックにかかっていたハンガーを指したことがあった。「ハンガー」でも「はりがね」でもなくて「ない」が“正解”だった。タオルがかかっていないということを言いたかったのだ。

 人生最初のキーブック

 はじめて子どもが、本というものに目に見えて反応したのが『やさいのおなか』(きうちかつ作/福音館書店)という絵本だった。
 輪切りにした野菜らしきもののシルエットに「これ なあに」という文章が添えてあり、めくると「こたえ」の絵が現れる。

 これなあに  ネギ
 これなあに  レンコン
 これなあに  ピーマン ……


 写実性の高い絵なのが特徴で、おすわりやハイハイができるようになってきた長男に「どれ読む?」と尋ねると、いつでもこの本を指さすようになった。
 この本は、【フセとアケ】の繰り返しでもある。
 「いないないばあ」も、フセてアケる遊びである。もしかしたら、この「型」は、相当原初からヒトに訴えかけるものがあるのかもしれない。

「これ なあに」

「かぼちゃ」

 

 本と世界をつなげる

 料理をする時は、本を真似してみた。
 野菜をまな板にのせ、「おなかはどんなふうになってるかな」とちょっと「フセ」の時間を作ってから、包丁で切って「アケ」る。ただ野菜を切るだけなのに「わあ」という表情が見える遊びに変わった。
 本に出てきた野菜の時は、火にかけたりする前に絵とくらべてみた。そっくりなことが多いが、トマトなどは「おなか」の模様がさまざまだということを発見した。
 だんだん手先が器用になってくると、ついでにピーマンの種を出してもらったり、キャベツをむいてもらったりした。
 むいていくというプロセスでも「フセ・アケ」がある。
 「お手伝い」とは呼ばなかった。遊びの延長線上であるから、好きなだけむいていいことにした。春に近い季節は、最後にごく小さな花の蕾がでてくることもあった。いつもだったら気づかないまま味噌汁に放り込んでいるところだ。これは、かあさんにとっては得意でない家事も乗りきるコツにもなっていった。

 

かぼちゃのおなかは?

切ったばかりのかぼちゃは汗をかいていた



 フェチの芽生え

 長男が最初に、意思を持って発話した言葉は「かき」だった。車に乗っている時、窓の外の柿の木を「ん」と指さしたので「柿だね」と答えると「か・き」と驚くほどはっきり返ってきた。
 2冊目のキーブックは夫が買ってきた『野菜の便利帳』になった。野菜の名前をぜんぶ読み上げていくことがそのまま発音の練習になった。
 「さといもんも」「たまぎぎ」「しいたき」といったヨチヨチ期を経て、少しずつ、頭の中に浮かんだ言葉を口でも出せるようになってきた。
 きうちかつさんの同じシリーズ、『やさいのせなか』『くだものなんだ』も気に入った。言葉の始まりは、フェチの芽生えと重なっていた。

柿の種の「おなか」

 

写真(柿の種の「おなか」以外):松井路代
写真(柿の種の「おなか」):編集かあさん家の長男

◆関連記事

【三冊筋プレス】笑い・遊び・学習(松井路代)
https://edist.isis.ne.jp/post/sansatukin07_matsui/


  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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