編集かあさんvol.7 桜の目盛り、鹿の地図 

2020/04/12(日)10:07
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「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。


 長男(12)、今年も桜のつぼみがふくらむ頃、カメラを手に、近く公園へ開花状況のチェックに行く。気象台の仕事の「モドキ」遊びなのである。
 3月21日、「あの木、一輪咲いてる! でもまだ開花とは言えないな。この気温なら明日は期待できそう」。
 3月22日、「5、6輪は確実に開いてる。開花宣言だ」
 開花の【目盛り】は気象台が定めているのを借りる。
 記録写真を撮る。ほとんどのツボミはまだ閉じていてる。他には誰もいない公園で、長女(6)が錆びたブランコをこぎながら待つ。


 帰宅して気象台のサイトを確認する。奈良の開花宣言はまだ出ていなかった。

 次の日も行く。十本ほどある桜の木、ほとんどが開花状態となっている。が、気象台の発表はいまだ発表されず。
 「本物の標本木はちょっとにぶいのかな」
 奈良の開花標本木は、少し郊外、我が家から直線距離にしておよそ1.6メートル南東の奈良女子大学付属中等教育学校の敷地内にある。
 どうしてこんなに差が出るのだろう。街なかの桜にはもう三分咲きになっている木もある。

徒歩5分の「桜の公園」

 

 自分が標本木を正式に決めるならどうするかをおしゃべりしている足元に、新鮮な鹿のフンがあった。よく見ると、蹄の跡や草をちぎったあともある。 去年も、その前も来ているが、こんなことは初めて。3月頃から、保護エリアである奈良公園の外を歩いている鹿の集団を見かけることが多いなとは思っていた。それでも、奈良公園から2キロほども離れている児童公園まで、大きな道を渡って鹿が来ている証拠を目の当たりにして驚いた。

 

アリが巣穴から出てきたのを今年初めて見つける

カンサイタンポポは去年と同じ場所で咲いていた

 

 奈良地方気象台によって開花観測の発表が出されたのは長男の「宣言」よりも4日あとの3月26日。満開が観測されたのは4月3日だった。

 4月4日土曜日、公園の桜は満開をすぎ、散り初めている。この日は通りすがりにスマホで写真を撮っている人の姿もちらほら見られた。
 すぐ近くの別の公園の桜もチェックしにいくと、「いる!」
 小柄なオス鹿が鉄棒の下に立っていた。長男はすぐにカメラを構えて撮り始める。
 観察し始めて15分ほどすると、鹿は児童公園から出て、奈良公園とは反対のほうにむかって歩き始めた。
 草や木を食みながらゆっくり進む姿に人々がざわめき、スマホを向ける。

 

奈良公園から歩いてきたと思われるオス鹿

 

「一頭でどうして?」
「エサの取り合いに負けて、迷いながらたどりついたんだろうか」
「人に囲まれても全然動じないように見えるね」

 奈良公園への観光客が大幅に減り、鹿せんべいがもらえていないらしいという話はニュースで見ていた。鹿の主食は芝で鹿せんべいはおやつにあたるものだから影響は少ないという意見もあわせて取り上げられていた。
 奈良への観光客がさらに減ることを危惧してか「飢えて凶暴化しているわけではない」ということが強調されていたが、実際に観察してみると、真相はこうだと簡単には言えないねと子どもと話す。
 
 有事の変化の文脈を読むには、平時との比較が欠かせない。しかし、平時の観察は多くの人の興味をひかないし、儲からないので、意外と欠けていることが多い。スマホで撮っていた人もいつの間にか離れていった。長男のみ、残って観察を続けている。

 犬と鹿が苦手な長女が「もう帰ろう」と言うので、ゆっくり離れかけるが、道端の花壇や植木鉢の花などもかなり食べられていることに気づく。それも写真を撮って記録する。

 長男は、微細な変化に気づき、おもしろがれるという性向を持っている。
 定型発達の子どもと比較するとインプットがほんの少し変わっているのだと思う。【目盛り】の刻みが細かいという特長がある。

 ウィルスの動向と鹿の行動の変化はどれぐらい関連しあっているのだろう。
 長男のニュースの見方が、また変わった。テレビやネット、新聞で情報を集めつつ、桜が終わってもあの公園に時々行ってチェックしてみないとと話している。

〇〇編集かあさん振り返り

 インプットの違いを否定せず、対話を通じて発揮されるよう促しているうちに、アウトプットである写真が変わってきました。(この記事の写真はすべて長男が撮ったもの。)
 時間や空間の感じ方が違うと公教育からは遠ざかってしまうケースが多いですが、これをニューロ・ダイバーシティーと捉えて「育てる」とした教育新聞の田中優子法政大学学長のインタビューは画期的です。もっと注目されてよいと思います。

◇教育新聞 2020年2月26日
【探究と方法1】ニューロ・ダイバーシティを育てる(法政大学学長 田中優子)

〇〇遊んだサイト

ウェザーマップ さくら開花予想2020

奈良地方気象台

 

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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