「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
扉を開ける前に
長女のカヨちゃん(小3)を伴い、近鉄電車とJR湖西線を乗り継いで、福井県敦賀駅前の公設ブックスペース「ちえなみき」に行ってきた。
子ども編集学校プランニングフィールドの吉野陽子さんとKくん(小4)、多読ジム読衆のIさんとYちゃん(小5)親子も一緒である。
敦賀市の知育・啓発プロジェクトの基幹施設として作られ、編集工学研究所が選書に関わった、書店でも図書館でもない、ぜんぶ読めて、すべて購入も可能という他にないブックスペースという触れこみで、9月のオープン以来訪ねてみたくてたまらなかった。
「着いた!」
「早く入ろう!」とKくん。
扉を開けて入る前に「ちょっと待って」と声をかける。プチ読前タイムとして、最近読んでる本を聞いてみた。
ぱっと返ってきたのが「かいけつゾロリ」、「えっと、星新一」、「スパイ・ファミリー」だった。
ドアを押してすべり入った。
「おおー」「なんだか予想とちがったかも!」
子どものための本屋さんだと思って来たら、大人の本がいっぱいだ。
でも、よく見ると絵本もある。大人の本と子どもの本がまぜこぜにされてる。
「あ、家にある本だ!」
知ってる本を見つけた瞬間、子どもと場との距離がぐっと縮まった。
ボードゲームの吸引力
「ちえなみき」は吹き抜け、二階建ての構造になっている。まずは全体を見渡してみたい。階段をのぼる。
階段の横にもいろんな本があって、一段ごとに景色が変わっていく。一番上から見下ろすと
「木の幹みたい!」「雷にも見える」
「幹」の上に、いろんな読書にまつわる引用が書かれている。
本屋さんでこんなに棚そのもの写真を撮りたくなったのは初めてだ。
「あの上、歩いてみたい。怖いかな」「壁にも木が生えてるみたい」
「あの上、歩けるかな?」
わいわい言いながら進むと、2階の奥にボードゲームで遊べるコーナーがあった。
3人、その中の一つのパズルゲームになんとなく吸い寄せられた。解き始めると、とまらなくなった。
カタカタ、カタカタ。頭から湯気が出そうなぐらい集中している。大人はとても入れない雰囲気だ。
「カタミノ」という名前のフランス生まれのパズルゲームらしい。
ほかのボードゲームをあれこれ見たり、近況をおしゃべりしながら、待つともなく待つ。
「パズルゲーム・カタミノに沼(ぬま)る」
檻と引き出し
「ここ、こうでしょ」
「いや、そんなわけないじゃん。ぜったいここだよ」
どんどんレベルアップしていった3人だが、レベル12で急に難しくなったらしい。30分あまり経ったころ、カヨちゃんがついに
「もうやめて、他のところ見に行こう」
とYちゃんをさそって歩き出した。
二階は、やわらかい桃色が基調で、絵本や子どもの本がいろいろ配置されている。
二人が特におもしろがったのが、格子型の本棚だった。
「本を檻から解放してあげよう!」とどんどん開けていく。
檻の本棚
引き出し型の本棚もある。
知ってる本が出てくることもあれば、まったく知らない本がでてくることもある。
一角がブロックや木の遊具で遊べるエリアになっていた。
カヨちゃん、遊具にのぼってヤッホーと手を振る。下にも潜り込む。板に穴があいていて、色つきのプラスチックが嵌めてある。光がさして、暗いところに模様ができる仕掛けがあるとわかる。
「『どんぐりむらのだいくさん』に出てくるのに似てる!」
ひとしきり上ったり下りたりしたあと、二人で暗いところにこもっておしゃべりし始めた。
離れてても大丈夫
子どもが迷子にならない広さだとわかったあたりから、単独で動き始めた。
せっかくだから本を3冊買って帰ろう。
いざ、「何買う?」フィルターを持つと、棚の特徴が見えてきた。
著者順ではなく、テーマ別に並んでいる。そのテーマは、「食べる」「稼ぐ」「占う」など、「生活」から派生したシソーラスになっている。
新しい本だけでなく、古い本もある。目当ての本は探しにくいけど、その分未知の本に出会いやすい仕組みだ。使う本も多い。
ゆらゆらめぐっていると、ケイスケくんを見つけた。一人、大きな机のあるワークショップスペースで、黙々と本を読んでいた。
<はじめの一歩>棚
ヨーロッパ、アフリカ、アジア、外国語を学ぶ
クワガタ!?
カヨちゃんたちは、いつのまにか遊具エリアを抜けだして、「大人本」と「子ども本」がまぜこぜになっている1階に降りていた。
引き出し本棚を「ぜんぶ開けてみよう!」と探検したらしく、「クワガタが出てきたから見に来て」と呼びに来た。
この本屋さんなら、引き出しからホンモノのクワガタが出てきても驚かないと思って見に行ったら『クワバカ』という本だった。
「クワバカね」というと、「バカ」という言葉で笑う。
「あ、『はたらく細胞』がこんなところにある!」
本屋さんでこんなににぎやかにして大丈夫かと思ったが、他の子たちも丸い柱のところでぐるぐる回っている。
静かと賑やかが共存できているのは、路地のような構造のおかげかもしれない。
「引き出しからクワガタ!」
食べる、遊ぶ
買う本を決めた。
普段の書店や図書館とはまったくちがう「背表紙読み筋肉」を使った感覚で、ほっとするとお腹がすいてきた。
会計を済ませたあと、カフェスペースで、ソフトクリームやパフェなどをめいめい注文して、外で食べることになった。
買ったばかりの本の写真を撮ろうと思って出すと、子どもたちが手に取って眺めたり、読んだりしはじめた。
そして、飽きると、芝生に駆けだしていった。
久しぶりに会うのにすごく一緒に遊べてるなと思っていると、水たまり落としあいバトルが始まり、みんな靴がびしょびしょになっていた。
ヨシタケシンスケさんの絵本『あんなにあんなに』をワイワイ読む
中道源蔵茶舗の抹茶ソフトクリーム
数日後、PCに向かって「ちえなみき」のレポート記事を書いていると、カヨちゃんがやってきた。
写真を一緒に見ながら、一番よかったのは芝生だという話をしはじめた。
遊具やブロックもよかった。Yちゃんと「スパイ・ファミリー」の歌を歌えたのも楽しかった。
「将来、わたしが本屋さんを作るなら、ぜったい芝生つきにする。外で本が読めるし、本を読まない子もそこで遊べるから」。
ちえなみき、また行きたいなという。みんな抹茶系だったのに、Kくんだけほうじ茶パフェにしてた。次に行ったら、ほうじ茶ソフトを食べてみるつもりらしい。
そうか、何回も行きたくなる本屋さんには芝生とソフトクリームが絶対必要だったんだ。
本棚の中に座れる本棚
手が届かない本棚
◆アイキャッチ画像:引き出しを開けると出てきた「ぐりこえほん」
写真協力:泉谷よしあき
info
敦賀市知育・啓発施設
BOOKS&COMONS「ちえなみき」
福井県敦賀市鉄輪町1丁目5番32号 otta内(JR敦賀駅すぐ)
https://chienamiki.jp/
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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