■アワセ・カサネ・キソイ!
久しぶりのおしゃべり病理医である。なんとなく照れくさいのは私だけだろう。勝手に照れくさくなったり、うきうきしたりする一方、いきなりやさぐれたりすることは私に限らず、きっとみなさんもあると思うが、そういった自分の中に唐突に浮上してくる「感」を成仏?あるいは昇華させるのが編集である。
「編集は、迅速無常的である」と感じたのは、14離がちょうど第10週「見方のサイエンス」と第11週「日本という方法」の狭間にさしかかっているからだと思う。
前置きはこのくらいにして先週末の2日間の感門之盟のお話をしたい。虫食い状の視聴になったが、とても楽しかった。トイレに行こうと席を立ったところ、おもむろにCMが始まり、振り向いた格好のまま立ちつくすことになったりした。林朝恵さんの低音のウィスパーボイスやカメラをかまえる後藤由加里さんのモノクロ映像にちょっとときめいたり、イシス風呂敷をやたらと宣伝しているジャパネットテラダに「寺田別番、いま、指南返しているじゃありませんか」と笑いながら呟いたりした。「曼名伽組」CMの質の高さにも驚いた。
オンライン開催となってから、リアル対面開催の時以上に、もてなし・しつらい・ふるまいが進化していると思ったが、今回いちばん感じたのは、アワセ・カサネ・キソイの厚みである。特に、今までの感門之盟で少し足りないように感じていた、キソイが強調されたことである。キソイはスパイスのようにとても良い緊張感を全体にもたらす。
■注目のP1グランプリ
いちばん注目したのはP1グランプリである。突破すると感門之盟まであんまりやることないね、となっていた破の学衆全体を教室単位で巻き込む仕組みといい、遊刊エディストと連携した予選から本選への流れといい、実によくできたプログラムだったのではないか。「INFORM共読区」というテーマにもフィットして、ハイパープランニングの読前、読中、読後のプロセスが感門之盟をピークに組み立てられていた。
P1グランプリは、M1グランプリを意識してのネーミングであるはずだが、このコーナーの司会であるタキシード姿の吉村堅樹林頭が、ベストテンの久米宏に見えたのは、背中越しに40歳をかろうじて感じるアラフォーの私だけだろうか。株式会社百聞の和泉佳奈子さん、中村まさとし師範そして、奥本英宏師範という審査員の人選も玄人風でとってもイイ。もっと回を重ねたら、重鎮っぽい手厳しい感じの審査員が入っても面白そうであるが、記念すべき第1回は、ライブ感も十分あり、温かみを感じる素人くささがほのぼのしていてよかった。
P1グランプリ司会の吉村堅樹林頭
タキシード姿なのでいつもよりかっこよくみえる
本選に進んだ3つのハイパープランニングはどれも魅力的だった。プランナーの学衆さんの作品を大事に育て、お披露目させようとする師範と師範代の親心も感じられて素敵だった。個人的に「らくがき・ザ・ワールド」は、いちばん行ってみたいと思ったし、「ここからだ」は、これだけ健康志向が高まる今、ミュージアムの可能性を最も感じるものであったし、そして、優勝した「「シ」に出会うミュージアム」は、とにかくメッセージ性が強かった。まさとし師範が言っていた「死というテーマはなんでもできる」ということを再認識した。なんでもできるからこそ難しく、ふつうにやってはタブーとして退けられるか無視されるか叱られるか、という難しいテーマに真っ向勝負でぶつかったプランナーの心意気に感じ入るものがあった。
私はすぐに自分の身の回りに起きたことと照合して類似性を探してしまう、照合癖を持つ大の“ルイジくんファン”であるが、「シ」に出会うミュージアムは、ミュージアムというよりむしろ教材的な感じがして、経産省のSTEAMライブラリー事業で教材として仕上げられそうではないか!と思った。いったんそう思いついたら最後、こういう流れでここにワークをこうやって入れ込んで、と、妄想的考察が止まらなくなった。
和泉さんの言葉が印象に残った。松岡正剛のハイパー性を感じるにはまだまだ足りないということ、そして、「よもがせわほり」の中の最初の「与件の整理」の重要性について語っていた。そこに一番の不足を感じたということだろうか。
以前、松丸本舗を例にして校長のプランニングの実際を「よもがせわほり」の型を使って、徹底検証してみたことがあった。たしかに校長のプランニングは、「よもが」とその手前のプレプランニングの徹底が私たちの想定をはるかに上回るものだと私も感じる。その想定を体感するのが[離]の世界読書奥義伝であるのだとも思っている。
■3Aと3M
編集には3つがセットになっている大事な柱が二組ある。皆さんもご存じの3Aと3Mである。3Aは、アフォーダンス・アナロジー・アブダクション、3Mは、メッセージ、メソッド、メディアの3つであり、それぞれ[守]と[破]の編集稽古の大事なバックボーンになっている。[離]でも、3Aと3Mが極めて大事であるし、稽古の中でそれぞれの“出自”を辿っていく。
今まで3Aも3Mも三位一体、あるいは三間連結型のようにとらえていたが、昨日、P1グランプリを観ていて、あ、どちらも一種合成型なんだなと腑に落ちた。そして、3Aと3Mが系統図のようにつながっているイメージも持った。
アフォーダンスとアナロジーが混ざり合って、様々なアブダクションが誕生する。それらのアブダクションを誰かに伝えたいと思った場合に、メッセージとなるわけだが、ここにメソッドが加わることで、メディアになる。このように、たくさんの3Aが集まってメッセージを作り、それらを束ねていくプロセスが3Mである。守から破への流れが、プランニングそのものである。当たり前のことだったのかもしれないが、ようやく3Aと3Mの関係性について全体像がよりくっきり見えてきた。
そのうえで、和泉さんに「松岡正剛のハイパー性を感じるまでにいたらない」と言わしめた、不足の正体が少しずつ見えてくる。与件の整理の重要性、そしてその手前のプレプランニング、準備の段階の大切さは、いずれもどれだけアフォーダンスとアナロジーを駆使し、アブダクションを豊かにできるかということにかかる。
アフォーダンスとアナロジーには、言葉を言い換えていくためのシソーラスの豊かさが不可欠で、校長が松丸本舗をプランニングした際も準備の段階で、本と読書と本屋における様々なシソーラスを、対にしたり3つのセットにしたりしてシェーマ化していた。その豊かな言葉たちから、様々な仮説形成が起こる。たくさんの仮説をもってプランを練っていくことが大切で、ハイパーなターゲットに向かう上で、それらの「たくさんの仮説たち」が息切れしないエンジンとなるのだ。
本、読書、本屋にまつわるシソーラスマップの一つ
『松丸本舗主義』p.28
一方で、メッセージとしてのアブダクションがどんなに強くても、メソッド、つまり型が無ければ、メディエーションとしてはうまくいかない。今回、本選に進んだ3つのプランが松岡正剛の世界観に届くには、もう一歩であるということに対しては、やっぱり3Aと3Mのどこに最も不足があるのか、それぞれに検証する必要があるだろう。おそらく、「らくがき」であろうと、「ここからだ」であろうと「シ」であろうと、さらに豊かなシソーラス性が要求されるのだろうし、「よもがせわほり」の分節化がまだ不十分なのだろう。
色々気づきの多いコーナーで楽しかったと同時に、通常の教室の稽古ではなかなか臨場感をもって学べない企画のプレゼンテーションについても学べる良い機会だった。
ここまでP1グランプリばかり取り上げてきたが、ここで強調したいことは、何よりもこの感門之盟自体がハイパープランニングの一番のお手本であるということだ。「INFORM共読区」というキーコンセプトに向かって、よもがせわほりで組み上げていった感門之盟プランニングは、これからのネクスト・イシスに向けての新しいプランニングの苗代となるだろう。タブロイド紙の編集から当日の会場や進行に携わり、場のもてなし・しつらい・ふるまいに関与されたみなさんの編集の数々は、閉塞感のある日本に何らかの兆しをもたらすはずである。
破の稽古の最後に位置しているプランニング編集術は、[守]から学んできた編集の型を、武器や食器や楽器にして、宴を存分に創り上げる集大成である。卒門で満足している方がおられるなら、声を大にして言いたい。ぜひその奥に向かわないと編集の本質は全く見えてきません。突破したみなさんは、ぜひ花か離へどうぞ!
今、編集学校の中で多読ジムと並んで、稽古が続いている14離。[守]以前の原点に立ち返る世界読書のおおもとを辿る旅もいよいよ終盤。イシスの今の底力とこれからの可能性を存分に感じる素敵な感門之盟からのたくさんの問感応答返を受け取りながら、無事の回帰を祝う退院式に向けてのラストスパートに入る。閉院は4月12日。
小倉加奈子
編集的先達:ブライアン・グリーン。病理医で、妻で、二児の母で、天然”じゅんちゃん”の娘、そしてイシス編集学校「析匠」。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべり病理医』シリーズ本の執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab」開発し、順天堂大学内に「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」http://meditlab.jpを発足。野望は、編集工学パンデミック。
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