■2021年夏、プランニング編集術が変わる
呼吸が止まらぬように、イシスの編集もやむことはない。春、200名弱のあらたな[守]学衆が入門する。秋、彼らが[破]学衆に成長する。どのコースも毎期あらたな学衆を迎え入れ、師範代さえ一人残らず入れ替わる。また、今期35[花]では錬成師範が道場演習に介入するようになるなど、各ロールも日々変化する。その新陳代謝は、イシスの骨格であるお題にまで及んでいる。
2021年夏、46[破]でプランニング編集術が変わる。前期45[破]での第1回P1グランプリを受け、たんなる企画術ではなく「松岡正剛のプランニング編集術を学ぶ」というこの一点にねらいを絞り、お題のすべてを研ぎ澄ませた。
■46[破]改編の仕掛け人は、NHKの中村まさとし
お題のリニューアルは、開講ひと月前の3月17日、師範のキックオフ会議から議題にのぼった。3月末の第1回伝習座でも学林堂に師範・評匠・番匠・学匠さらには月匠の11名が車座になり、マスク姿で22時近くまで議論がなされた。
改編を仕掛けたのは、P1グランプリで審査員を任された中村まさとし(評匠)。中村は、NHK労働組合委員長を務めた経歴をもち、松岡正剛を座長に据えた平成28年度経済産業省 日本再考委員会の有識者会議では、大澤真幸や鈴木健、田中優子、ドミニク・チェンらと並びイシス編集学校の師範として唯一参画。イシスが誇る真打ちである。
▲5月29日、46[破]第2回伝習座にて「綜芸46破、種智プランニング」と題したレクチャーを行った中村まさとし(評匠)。空海をもどくような卓越した話術で稽古の意義を語った。
往々にして、能ある鷹は爪を隠し、実るほど稲穂は頭を垂れる。ふだんは超然と構える中村が、なぜか今回ばかりは「脳みそウニです」とつぶやきながら師範ボードに連日連夜の力投。豪徳寺に出向いては「吉村林頭と強い話し合いをしました」と柔和に微笑み、吉村は「まさとしさんが珍しく本気になった」と驚嘆する。眠れる獅子は覚醒した。
■目指すのは「見たことない。でも見たかった!」
お題の何が変わったのか。中村は、累計数十時間に及ぶボード会議で、wordファイル67ページにおよぶお題文すべてに赤を入れた。改訂が完了した6月中旬からは、5回にわたり「文机膝詰プランニングレクチャー」と銘打った説明会をセッティング。師範代全員に対する一方向の講義ではなく、中村は、師範代2名と師範1名のチームごとに2時間、対話しながら改編の意図や各お題の意義をつぶさに伝えていった。
▲中村が師範代・師範へ渡したレジュメ。プランニング稽古で南に掲げる3つのキーワードだ。
改訂は、「ハイパー」という用語がカギとなった。お題のテーマである「ハイパーミュージアム」の「ハイパー」さを稽古のなかで追求することで、「これまで見たことがないけれど、それでいて、これが見たかったと思わせるもの」に迫る。文体・クロニクル・物語編集術にも通じるISISの編集術の本懐へ飛びこむ企てだ。
プランニング編集術は、[破]の4つの編集術のひとつではない。ここまで学んできた3つの編集術を総合的に駆使して、他者のメッセージを編集するものである。松丸本舗のように、たしかに本屋だけれど渦巻状の本棚に違い棚のある本屋。あるいは角川武蔵野ミュージアムのように、図書館ではあるが、ハイ・アンド・ローの垣根が壊され、香港夜市のように賑々しい図書館。そんな思いもよらぬ新ジャンルの創出を目指す。
■《図》ではなくて《地》ごと変えよ
稽古で学びたいのは、既存のジャンルのなかで目新しいバリエーションを増やすことではない。チョコ味をいちご味に変えた「いちごポッキー」はたんなる新商品。しかし、スパゲッティをたらこで味付けし海苔を載せた瞬間、たらこスパゲッティは箸で食べる和洋折衷のパスタという新たな料理ジャンルを開拓したことになる。プランニング編集術では、《地と図》でいえば特別な《図》ではなくて、《地》ごと分類を変えてしまうような、新たなジャンルを切り拓くような編集をしたい。中村は、「水のなかに稲妻が走るような割れ目を見つけよ」と校長松岡の言葉を引きながら師範代を鼓舞した。
▲伝習座では、2階学林堂からスタート。30分のレクチャーで井寸房、本楼ISISカウンター、本棚劇場へとじょじょにトポスごと核心へ迫っていった。撮影は、頼れる姉御池田かつみ(38[守]うろころ女侍教室師範代)。
■稽古体制は重層的に、矛盾をおそれず
ねらいを達成すべく、お題の作業手順も4-00番からクライアントの設定方法などに細かい変化が生まれた。さらに、多数のステークホルダーがいる実際のプランニングを鑑みて、師範代だけでなく、師範や評匠、番匠までもが回答にコメントをする複層的な指導体制も導入された。
野嶋真帆(番匠)は、アジール位相教室学衆Sとゆかりカウンター教室Hの「発想飛び道具」を重ねて指南。別院から涼やかな風を送った。大塚宏(師範代)が開講以来、全指南に自作俳句を添え続ける王冠切れ字教室では、福田容子(師範)が勧学会に「素敵座のホワイトボード」を用意。「師範代も師範も教室仲間もチーム」とばかりに、多中心なバロック的揺さぶりを始めた。
指南が複数から届くことで、学衆は矛盾する方向へ手足が引っ張られるかもしれない。けれど、「それこそ裂け目、編集契機」と原田淳子(学匠)は静かに頷く。「やわらかいダイヤモンドのように、アンビバレントなお題を立てることで思いもよらぬプロフィールが転がり出るかもしれません」
福田は説いた。「たったひとつの正解なんかどこにもない。誰もそんなもの持っていないし、教えてくれない。それが現実の厳しさであり難しさ」。
編集学校の教室というアジールで稽古ができるのは、突破日8月8日まで残り17日。イシスを巣立った学衆が立ち向かうべきは、この複雑な現実社会なのだ。「これが見たかった」を実社会へ産み落とす。鬱血寸前の日本を、編集術で突破する。東京五輪の裏側で、そのための身体づくりが着々と進む。
▲4-00番から4-07番までのお題の関連性についても講義。お題を立体的に立ち上がった。
写真:後藤由加里
図版:中村まさとし
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梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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