イシスは今、「編集力の実践」のフェーズへ
実践的な編集力を示して欲しい。
第75回感門之盟での教室名発表から二日。47[守]の師範代がZoom上に集う。春の開講にむけて、最初の編集力の実践である「フライヤー制作」レクチャーのためだ。
2020年6月に20周年を迎えたイシス編集学校は、今、新たな段階をむかえている。「編集力の実践」のフェーズだ。感門之盟でのP1グランプリもその一つであり、守の師範代にとって、この「フライヤー制作」は、イシス編集学校や編集工学、教室名や師範代にかけるおもいなどを、編集の総力をもって一つのメディアへ集約させる、まさに編集力の実践の第一歩である。
イシス編集学校のウェブメディア「遊刊エディスト」や、「感門之盟」や「伝習座」の(リアル・オンラインの)ハイブリッド化など、数々のメディア編集の最前線に立つ吉村林頭自らが、フライヤー制作にあたっての三つのプロセスを手渡した。
1.壊す
既知から未知へ。編集をおえたものの再編集へ。誰にでも思いつきそうなアイデアを捨て、与件の拡張によって既知を壊していく。与件には「イシス編集学校」「編集工学」「松岡正剛」「Inform共読区」「教室名」「新型コロナウイルスパンデミック下」「オンライン化」など、多様な切り口がある。
与件の拡張から既存の見方を壊す方法にもいくつかある。
◆コンパイル◆
『広辞苑』などの国語辞典、『角川類語新辞典』、白川静の字源辞典『字統』あたりは必携だろう。英語やラテン語など、外国語の語源をたどることもできる。
吉居奈々師範は、「あさってサンダル教室」というネーミングからパッと連想される「トレンディドラマっぽさ」「少女っぽさ」といったイメージを壊そうと、サンダルのアーキタイプを調べた。辞書や千夜千冊でサンダル情報をコンパイルする中で、古代ギリシアのヘルメスのサンダル「タラリア」にたどり着き、「これだ」と確信したという。
吉居奈々師範作「あさってサンダル教室」フライヤー
日焼けした紙の質感もモードの工夫が。
キャッチコピーにイラスト、テキストの分量や配置なども参考にしたい。
◆連想シソーラス◆
「教室名」だけでも、いかようにも連想を広げることができる。
例えば、近畿大学初の師範代ロールを担う中村慧太へ松岡校長が名づけた教室名は「どんでんコマンド」。
「どんでん」とは、一つに近畿大学ビブリオシアターの「DONDEN」。他にも「どんでん返し」などもある。「どん」と「でん」に分割し、「ドーン!」「電」などと言い換えていくのもいい。コマンドは、ゲームの隠しコマンドや、司令官の「コマンダー」もあるだろう。漢字で置き換えてみてもいい。
◆らしさ◆
ちょっと可愛らしいよね、怪しいよね、お洒落だよね、粋だよね。そうしたやわらかな「らしさ」も、フライヤーの素材となる。
2.肖る
ステレオタイプやありがちなイメージを壊したら、いよいよフライヤーのデザインへ。その際に、徒手空拳で臨むのではなく、何かに「肖る(あやかる)」こと。
◆属性に肖る◆
景山和浩番匠は、スポーツ新聞社勤務という属性から、「イシスポ」というスポーツ新聞に肖ったフライヤーを作成した。自分自身の属性も肖りの対象の一つとなる。
◆メディアに肖る◆
松岡校長の出版物や既存の雑誌、ポスターやジャケットなど、編集力が集結されたメディアからまねぶこと。ただし肖るのは「よくできた」メディアに限る。
例えば、フライヤーとチラシでは何が違うのか? 画像検索で両者を照合するだけでもメディアごとの違いが見えてくる。いくら必要な情報であるとあまりに字ばかりのフライヤーなど誰も読みたいとは思わないだろう。
『NARASIA』の「察の世」より。
日本と中国をキーワードでミメロギアしている。
一種合成されたイラストから文字のレイアウト、言葉選びなど、
細部にまで工夫のあるエディトリアルデザインだ。
「世界のグラフィックデザイン」第一巻、『ヴィジュアルコミュニケーション』の「エディトリアルポスター」も必見だ。
3.創る
最後に「フライヤー」というメディアの仕上げに向かう「創る」プロセスへ。
中村麻人師範は、「十装ダリア教室」という名前の「装」に着目し、自分の好きな装いである「着物」から着想を得て、「切り絵」でフライヤーを制作した。
中村麻人師範作「十装ダリア教室」フライヤー
昔の着物について調べたところ、
柄物もないため複数の色を「重ねて」着ていた。
そこに肖り、このフライヤーでも五枚の切り絵を重ねている。
制作にあたっては、自分の得意手を存分に生かして欲しい。デジタルが得意なら、イラストレーターやフォトショップを駆使してもいい。工作が得意なら切り絵をしてもいいし、モックを作って写真で撮影してもいい。
吉村林頭は、「エスペラ七茶教室」のフライヤー制作プロセスを、この三つのプロセスに重ねる。
「エスペラ(ント)」と「七茶」を調べ、連想をしていくと「宇宙」というらしさを感じるに至った(壊す)。
そこで『全宇宙誌』をモチーフにし、そこに7つの茶碗を並べて北斗七星にするデザインに(肖る)。
デジタル系が得意ではなかったため、まず茶碗をネガ加工した画像や宇宙の背景を印刷し、切って貼ってを繰り返した上で、できあがったものを再度スキャンする、というやり方で制作した(創る)。
吉村堅樹林頭作「エスペラ七茶」フライヤー
「七」茶と北斗「七」星をかけ、茶碗の横には
「chance」「challenge」などの
「七茶の法則」の言葉を星々のように配置している。
茶碗にスマホをいれてみる
吉村林頭が最後に差し出したのは『インタースコア 共読する方法の学校』だった。その表紙には織部茶碗にスマホが入れられている。
普通、茶碗にスマホは入れないでしょ。
編集とは意外な対角線を引くことで、新しい価値や意味を見出すこと。
意外なものを持ち出すことが編集であり、インタースコアのはじまりです。
なぜコップではなく織部茶碗なのか。なぜ鉛筆ではなくスマホなのか。自ら編集されたデザインをリバースエンジニアリングをおこし、共読していってほしい。
フォントにも気を配り、漢字と平仮名で文字の大きさを同じにしないこと。文字の間隔を少し詰めることも怠らない。こうした細部のエディティングから、フライヤーの見えは想像以上に変わっていく。
師範代は一体、茶碗に何を入れるのか。
22のフライヤーは、3月27日(土)の伝習座でお披露目となる。
遊刊エディストでも当日の模様を速報予定だ。
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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