発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

「表面がとても硬いクリームブリュレ」
「賞味期限5秒の水まんじゅう」
「内弁慶なリンゴ飴」
残念ながらこれはお菓子の紹介ではない。自分のお子さんを言い表してみてくださいというお題に対して、集まったママたちからほほえみとともに発表された回答だ。題して「おかしなこども」である。
2022年9月22日『アイドルママ新井和奈の子育て編集ナイトツアー』は少し遅めの夜9時から始まった。子育てやコミュニケーションに悩むお父さん、お母さんのために「編集」の力で解決方法を伝えたい、そんな熱意から画面越しに優しく語りかけるのは、新井和奈師範。来期の記念すべき50守の師範を務めながら、三人のこどもを育てるエディターママだ。
「あなたのお子さんはどんな人ですか」。こどもをもつお母さんならばよく聞かれる質問だろう。そこで、身長や体重や趣味などをならべてもおもしろくないし、イメージも伝わりづらい。要素や属性といった硬い情報ではなく、「~ぽい」「~らしい」といった柔らかい情報をキャッチしてみると、相手にパッと連想を開かせる表現ができる。
「私の息子は最近自我が強くなってきて、外にいるときはいろいろ主張したり反抗的になったりします。でも、家ではとても甘えん坊で、母である自分によく抱きついてきます」。そんなこどもをお菓子に見立てて、「表面がとても硬いクリームブリュレ」である。香ばしく焦げてきた表面の層がちょっと硬いけど、奥にはまだまだ柔らかいプリンの部分があって、その両方がかわいらしいこどもの成長を絶妙に表している。
「普段は少しどうなのかなと思ってしまうこどもの側面も、新しい“見方”を“立てる”ことで笑いに変えることができるし、フィーリングを伝えることができる」。編集学校の守コースで学習する「見立て」の型を紹介しながら、育児への活用方法を説明した。
こどもとコミュニケーションを取るときに、同じ視線になって考えてみることが大切だ、とよく言われる。しかし実際になにをすればいいかということになると困ってしまう親御さんもいるだろう。そこで使えるのが「地と図」という編集の型だ。
一つの情報(=図)はどのような背景や場面や文脈(=地)に置くかで、その情報の意味や見え方が大きく変わってくる。例えばコップ一つを取っても、砂場にあればお城を作る型になり、図工室にあれば筆洗いバケツになり、田んぼにあればメダカの簡易水槽になる。そして、会話をするにあたっては同じ「地」を共有するということが大切だ。
「こどもが学校に行きたくないと言ったときに、その文脈や背景には何があるかを見極めることが歩み寄る第一歩になります」。
大人が理解できない行動や発言をした時に、ただ叱りつけるのではなく、どのような「地」で見ているのか考えて、同じ地平線に立ってみる。これはこどもだけでなく多くの人間関係に使えるので、ぜひ実践してみてほしい。
コミュニケーションがうまくいったら、次は、「ルル三条」でこどもの悩みについて具体的な解決法を考えてみよう。これも守コースで学習することのできる編集学校きっての極上の型だ。
ルル三条とは約束事のルール、役割のロール、道具のツールを合わせた三点セットのことである。これらは三位一体で動いているので、例えばルールに手を加えたときには、ロールとツールも切り離さずに動かしてみることでより面白くダイナミックに編集することができる。
ワークでは、新井師範が自分のこどもに感じている「猫背でゲームするのをやめさせたい」という課題が設けられた。このお題に対して多くのお母さんたちが、今まさに悩んでいることですと共感する中、「ママとヨガをしたらゲームの時間をあげる」という回答が挙がった。答えた方は、自身が毎朝ヨガをすることで姿勢が悪い状態を不快に感じるようになったそう。これをルールとすると、ロールはヨガを教えるママ、ツールはヨガマットやバランスボールとなるだろう。
この回答には産後ヨガのインストラクターもしている新井師範も「おもしろそうかも」と一言。あれやってはダメ、これやってはダメと言うだけではなくて、ルール・ロール・ツールを一体で編集しながらこどもとのゲームを楽しんでみてはどうだろうか。
「育児の悩みも編集の型を使うことで楽しく考えることができる」。新井師範はたくさんのワークの最後にそう語り、子育てと編集が決して遠いものではないことを強調した。
編集とは文章を作ったり、写真を並べたりすることだけではない。昨日の出来事を話すことだって、料理をすることだって、企画をすることだって、もちろん育児だって、どれも立派な編集だ。方法の型を使えば、身近な悩み事に具体的な解決法を提案し、日常をもっと愉快にすることができる。イシス編集学校で学ぶ型を応用できる領域はめっぽう広く、そして編集稽古はめっぽうおもしろいのだ。期待をいっぱいにして編集学校の門を叩いてほしい。家族割もあるので親子や夫婦での入門も大歓迎だ。
「でも、仕事もこどもの世話もいそがしい時期だから、稽古に時間を割けないかも」と二の足を踏んでいる方がいたら、そんなことはまったく心配ご無用だ。編集稽古はさまざまな隙間時間にこそ加速するトレーニングだからだ。
もともと何かを発想したり考えたりするときには「三上」と決まっている。寝床について思考する「枕上」、便所に入って思案する「厠上」、移動中の馬上で思索する「鞍上」である。もっとオシャレな生活をしているなら「5B」でもいい。Bar(酒場)、Bathroom(風呂)、Bus(バス)、Bedroom(寝室)、Boring meetings(退屈な会議)である。ちょっとした時間でもお題によってスピードアップする超思考状態を、その脳でしかと味わっていただきたい。
エディットツアーシリーズはまだまだ続く。起業家、マラソンランナー、料理人などさまざまな編集の達人が登場予定だ。どれも楽しめること請け合い。少しでもおもしろそうと感じるものがあれば、ぜひ参加してみてほしい。(参加された方にはメモリアルな50守に向けて豪華特典があるかも!?)
応募 最終締切: 2022年10月19日(水)
開講: 2022年10月24日(月)
対象:どなたでも *U23割、家族割、再受講割などご利用可能です。
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu
山内貴暉
編集的先達:佐藤信夫。2000年生まれ、立教大学在学中のヤドカリ軍団の末っ子。破では『フラジャイル』を知文し、物語ではアリストテレス大賞を受賞。校長・松岡正剛に憧れるあまり、最近は慣れない喫煙を始めた。感門団、輪読小僧でも活躍中。次代のイシスを背負って立つべく、編集道をまっしぐらに歩み続ける。
第五輪は、朱子学だ。三浦梅園の人間論は朱子学の四書を編集エンジン、五経を編集データとして、日常生活での実践を重視した新たな朱子学を提唱した。梅園による朱子学の再編集である。 朱熹(1130年-1200年)は […]
近代天文学の基盤となるケプラー第三法則を独自で発見し、幕府の暦にはない日食を予測し的中した天文学者、麻田剛立。彼のコスモロジーは西洋にならいながらも全く異色のもの編み出した。そこにあった方法とは一体何であったのか。 &n […]
快晴の日曜日、街並みはクリスマスで賑わうなか、本楼で今年最後のイベントが行われた。『三浦梅園を読む』第三輪である。イエス生誕の祝祭に梅園を学ぶことができるのは輪読座だけだろう。輪読師であるバジラ高橋も力のこもった口調とな […]
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2022年10月30日、輪読座「三浦梅園を読む」第1回目が開催された。 前回までフォーカスしていた湯川秀樹をして天才と言わしめた人、三浦梅園。 三浦梅園を取り扱うのは2回目。かつては『価原』を読んだが、今期は『玄語』を熟 […]
コメント
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2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。