自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
師範は教室には見せない師範代の姿を知っている。だから、第78回感門之盟の卒門式と突破式で、学衆達に言葉を送る師範代を見守る目はやわらかで温かい。稽古期間は約4ヶ月。暑さが残り扇風機が手放せない季節から、雪がちらつき炬燵から出られない季節へ変わる。この長期間、フラットでいることは難しい。師範代にも色々なことが起きる。
ある師範代は仕事との時間編集がうまくいかず、指南が遅れがちになった。それを取り戻そうと「得番録のコメントをやめようと思う」と話すと、いつもは「それでいいと思う」と丸ごと包んでくれる師範に「それだけはやめよう」と諭される。ある師範代は「教室に回答は届くが、その前の雑談のマクラがない」と不足を漏らす。師範はすかさずそれを拾い上げ、「マクラ投げ大会をしよう!」と差し入れを行う。そしてある師範代は最愛の人を亡くす。多くを語ると学衆を心配させてしまう、と師範に事情を話し、少しの間教室を抜けた。指南が止んだ静かな教室に現れた師範は師範代の意思をくみとり、多くは語らず、しかし学衆の稽古の足止めをしないよう言葉を残した。
学衆は、一度は誰でも考える。師範代はいつ寝ているんだろうと。「みなさんの回答が面白くて」なんて明るく返すが、立ち止まりたくなる瞬間があったであろう。不安や不足を露呈しすぎると学衆達にも不安が広がってしまう、と師範代達は水面下でバタつく足を見せないのだ。しかし師範は教室には見せない師範代の姿を知っている。師範代を、そして教室を陰でそっと支えている。
「畑本だから仕方ないよね」
「いつもトンネリアン教室」の師範代畑本に感門の言葉を送る際、思わず目を潤ませた師範景山にかけた校長の言葉だ。
そう、ずっと見守ってきた師範代が無事感門を迎えたとき、涙してしまうことは仕方がないのだ。
文:中村裕美(47[破]泉カミーノ教室)
編集:師範代 山口イズミ、師範 新井陽大(47[破]泉カミーノ教室)
撮影:中村裕美、上杉公志
▼番記者梅澤コメント
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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コメント
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2025-11-18
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2025-11-13
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2025-11-11
木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。