P1は破の超越体験、学衆市村に訪れたA-ha!の瞬間【79感門】

2022/09/27(火)08:16
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審査員の票は割れた。最後に司会の中村まさとし評匠の一票が投じられる。第4回P1グランプリは、特Bダッシュ教室の「ひきだすヒキダシ研究所」が制した。僅差の辛勝であった。

 

 

「うーん、新しい引き出しってどんなだろう?」

Zoomの画面越しに小椋師範代、市村学衆、森下学衆が考え込む。感門之盟プレゼンまで二週間足らずのある日、チーム作戦会議でのことだ。これまで引き出しの起源を訪ね、引き出しをモーラし、引き出しのシソーラスを広げてきた。引き出しがどれほど人間の生活に文化に、そしてあらゆる創造的活動に影響を及ぼしてきたのか。引き出しは、近世以降その誕生とともに、人間の認知の枠組みを作ってきたのではないか。この仮説に辿りついたところだった。

 

ミュージアムにはインがあってアウトがある。ミュージアムを出た時、何かが変わる体験を興したい。それが目指すハイパーミュージアムだ。引き出しの本来を識り未来を描くには、誰も未だ見たことのない、新たな引き出しの提案が必要だ。作戦会議の場は煮詰まっていた。

 

三者三様に引き出しに「ないもの」、やわらかいダイアモンドならぬ「やわらかい引き出し」に思いを巡らしていたその時、市村の脳裏に唐突にイメージが現れた。市村は美大の出身。これまでもデザインやイラストを手掛けてきた。ふわふわと朧げに消えていきそうなアタマの中のイメージを、紙の上に仮留めするかのように、素早くペンを走らせる。そしてZoom画面に描いたばかりのスケッチを掲げた。

思わず皆が身を乗り出す。

そこには、誰も見たことのない奇妙な形の引き出しがあった。これこそ求めていた新しいヒキダシ降臨の瞬間だった。

 

40を超えるネーミング案を吟味し、「しげるん。」と名付ける。草木が生い茂るように増殖する、生命感溢れるヒキダシのイメージだ。

 

しげるん。は、引き出しを囲う外枠を持たない。引き出しを自在に重ねながら創ってゆく。もはや枠に閉じ込められた引き出しではない。部分が全体を凌駕するのだ。

しげるん。を創ることで、枠に閉じ込められ、既存の分類に慣れてしまった「引き出し人間」から脱却を図るというメッセージがミュージアムに宿った。

 

しげるん。のイメージにあわせ、市村はミュージアムの外観スケッチも描く。プレゼンでの役どころは、ミュージアムのアートディレクター。イメージをヴィジュアルで示した市村にふさわしいロールだった。

特Bダッシュ教室のプレゼン開始を告げる小椋の声が本楼に響く。市村は少し緊張した面持ちで、本棚劇場に上がった。

 

 

三週間に及ぶリアルプランニング稽古はこうして幕を閉じた。松岡校長のハイパーにはまだまだ及ばないが、しげるん。を導き出したプロセスは何物にも代えがたい稽古体験である。

市村は、しげるん。降臨の瞬間を思い出しながら言う。「私はブレイクスルーきたっ!とチームの誰もが感じたあの感覚を信じます」。市村にとってP1への道は「超現実でありパラレルワールドに入り込んだかのような」三週間だったのだろう。本棚劇場でプレゼンテーションする自分は、今まで見たことのない「別様のわたし」だった。そして濃密な相互編集を重ねたP1グランプリは、破の稽古を締めくくるにふさわしい超越体験だったと総括した。

(敬称略)

  • 戸田由香

    編集的先達:バルザック。ビジネス編集ワークからイシスに入門するも、物語講座ではSMを題材に描き、官能派で自称・ヘンタイストの本領を発揮。中学時はバンカラに憧れ、下駄で通学したという精神のアンドロギュノス。

コメント

1~3件/3件

若林牧子

2025-07-02

 連想をひろげて、こちらのキャビアはどうだろう?その名も『フィンガーライム』という柑橘。別名『キャ
ビアライム』ともいう。詰まっているのは見立てだけじゃない。キャビアのようなさじょう(果肉のつぶつぶ)もだ。外皮を指でぐっと押すと、にょろにょろと面白いように出てくる。
山椒と見紛うほどの芳香に驚く。スパークリングに浮かべると、まるで宇宙に散った綺羅星のよう。

川邊透

2025-07-01

発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
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