”松岡正剛の仕事が何より「編集的であること」を体現している”
昨秋スタートしたHyper-Editing Platform[AIDA]は、2月13日に第5講をむかえた。
来月の最終講に先立ち、座衆は「間論(まろん)」を書き上げる。これまでの学びを踏まえ、今後への抱負を織り込みつつ、それぞれの「編集的社会像」に向けてAIDA体験を総括するのだ。
第5講の前には、その準備として指定の課題本を読み、それぞれの「編集的社会像に向けての論点」をアウトプットをした。レポートは、座衆全体で100ページに迫るボリュームだ。
「生命モデルに準えた共同体のあり方」「経済成長神話に代わる物語とは」「『空気の支配』からの脱却方法」「新型コロナウイルスとどう向き合うか」「日本の方法を江戸から再発見するには」といったターゲットを見据えつつAIDAに臨む座衆の表情は、Zoom越しでも今まで以上の切実さを帯びていることがわかる。
編集工学研究所の安藤昭子氏は、冒頭メッセージで「松岡座長の仕事が何より編集的であることを体現している」といい、1971年のオブジェマガジン『遊』『アート・ジャパネスク』『情報の歴史』から『知の編集工学』を経て、『連塾』シリーズや最新の千夜千冊エディションなどを紹介しつつ、3つのキーワードを座衆へ手渡した。
インタースコア、ルーツ、歴史的現在
1.「インタースコア」をする
スコア、つまり「目盛り」や「ものの見方」をクロスさせ、相互乗り入れさせること。何かと何かを掛け合わせ、折り合わせる勇気をもつ。決して放っておかないこと。
『遊』の「相似律」では、「音楽×タオイズム」「文学×医療」などのインタースコアが溢れている。
2.「ルーツ」に遡る
「起源」を見る癖をつけること。表面的なステレオタイプだけでは見えてこない。プロトタイプをとらえなおし、アーキタイプまで迫ること。
『情報の歴史』は、最先端のIT技術から古代文字まで、複数のジャンルを重ねながら遡っている。
3.「歴史的現在」に立つ
今ここにいる私たちは、過去の歴史と切り離されているわけではない。ある過去からひとつづきの存在である。
『連塾』の第3巻のタイトルは「フラジャイルな闘い 日本の行方」。ある章では石川啄木の「歌」に昭和史を見つつ、これからの編集的日本像へとむかう。過去の啄木の歌と自分を切り離さずに、連続してとらえている。
”水戸学とボレロと椎名林檎を一緒くたにやる”
今回のゲストは、政治学者であり音楽評論家でもある片山杜秀氏。松岡座長も『ゴジラと日の丸』を読み、その時代を切り取る編集力に驚嘆したという。
片山氏は、『鬼子の歌』で邦人作曲家のクラシック音楽作品を、『未完のファシズム』で第一次世界対戦をそれぞれ「地」におき、日本の近現代史を「図」として再編集をした。
例えば、山田一雄作曲のオーケストラ作品『おほむたから』は、敗戦の年にあたる1945年の元旦に初演をされ、新年を寿ぐ作品と評価された一方で、その「地」にはマーラーの『交響曲第5番』第一楽章の「葬送行進曲」がモあり、メロディも天台声明がベースとなっている。つまり、「弔い」のイメージが実はあったのではないかと片山氏はみる。
このように、片山氏は「音の材料は何か」「どのような歴史的意味をもつのか」「どの部分が消し去られて、どこが強調されているか」などをリバースエンジニアリングしている。このことは「1.音楽作品と歴史をインタースコアする」「2.葬送行進曲をアーキタイプとしてとらえる」「3.(寿ぎの作品に弔いの素材を用いる)作曲家の方法から、歴史的現在をトレースする」とも言い換えられるだろう。
その後、江戸時代と『未完のファシズム』のあいだを結ぶ「水戸学」を中心に、レクチャーはつづく。時に話題は南北朝時代から墾田永年私財法まで遡りながら、なぜ水戸藩は『大日本史』を編纂しようとしたのか、なぜ尊王攘夷運動に結びつくのか、今の日本の政治体制とどうつながっているのかなどを紐解きつつ、水戸学から歴史的現在をとらえた。
松岡座長は結びとして、昨今の「ラディカルスタイル」の不足を指摘する。そのためには、例えば「水戸学」とラヴェルの『ボレロ』と椎名林檎をまとめてインタースコアをする。それくらいの編集力が必要となるだろう。
この視点は、「間論」を書き上げる座衆にとってもヒントとなるに違いない。
AIDA体験を総括する「間論」は、最終講の3月6日にお披露目となる。
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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