「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
このゲホウグモには、別口の超能力もあるけれど、それはまたの機会に。

空にかがやく木村久美子月匠、地の塩のような吉野陽子冊師という敬愛ひときわの先達の手を経たバトンを受け取りました大音です。入門は2004年9月。「おしまい」の挨拶が決まって「どんとはれ」の西川あづみ師範代による童感どんと教室でした。451夜『正月の来た道』大林太良に始まり、689夜『「いき」の構造』九鬼周造に終わる2002年の千夜千冊──そこには500夜『エクリ』アルベルト・ジャコメッティも600夜『リア王』ウィリアム・シェイクスピアも含まれていました──は当時まったく未知の世界。創生期への遅刻を悔やみつつ、この年の一冊を選びます。
『まさかさかさま動物回文集』文・石津ちひろ、絵・長新太
2002年という年は、上から読んでも2002、下から読んでも2002。どうってことないじゃんと思われるかもしれませんが、次に回文できる年号は2112年。たぶん今、この駄文を読んでいる誰も生きていなさそうな先の話です(それまでに西暦が別の暦にとってかわることも考えられる世界情勢ですが)。
編集学校のこの年は、微妙で決定的な変化を遂げていたと聞きます。それは、「学衆から初めて師範代になった」師範代に教えられた学衆が「師範代になって」教え始めた年だったから。ちょっとややこしいですが、編集術によるミームが初めて垂直伝承した画期と呼べるでしょう。教室や勧学会の中を飛び交う言葉たちは、外の世間とは少しだけ違う「型」に満ちていたはず。そして、熱中する学びを間に置きながら、たいていは「遊び」と「笑い」と「やらかし」が「フラジャイル」や「異例」を取り巻いてきたことが、イシスをどこにもない色に染め上げてきました。
本書の回文から引用すれば、「チンパンジイから怪人パンチ」が日々送られる教室で、最初は「かたくなになくたか」だった学衆の心もとけてゆき、ラスト間際では「たぶうおかしてしかおうぶた」が教室にも勧学会にも続出した、と容易に想像できます。そんななか、キリ番ゲットへの情熱も熱く燃えたに違いありません。
新自由主義と多国籍業によるグローバリゼーションがカジノ資本主義をもたらす世界の片隅で、編集術が「なんか変」を見逃さず、笑いにつつむアマチュアリズムによって根付いていったことは、現役サラリーマンの田中耕一さんがノーベル賞受賞の報に「てっきりドッキリだと思った」というのと同じぐらい、ほっこりする誇りを抱ける出来事です。
千夜千冊にこの類の本はないのかと思し召しのみなさんに、コトダマの力を生かしてきた古今の歌やネット上の言葉遊びを紹介する高柳蕗子さんの『はじめちょろちょろなかぱっぱ』が、この年ちょうど執筆中だったろうこと(出版は2003年3月)を添えておきます。
それでは、「2003年」へ。米川青馬師範に、バトンをお渡しします☆彡
金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:宮崎滔天
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
ISIS co-missionミーティング開催! テーマは世界読書奥義伝[離]
本日、ISIS co-missionミーティングが開催され、イシス編集学校のアドバイザリーボードが豪徳寺・本楼に集結した。 メンバーは、田中優子学長(法政大学名誉教授、江戸文化研究者)をはじめ、井上麻矢氏(劇団こまつ座代 […]
11月は別典祭へいこう! 二日限りの編集別天地? 【11/23-24開催】
2025年11月23日(日)・24日(月・祝)、イシスの新しいお祭「別典祭」(べってんさい)を開催します。 場所は豪徳寺・本楼、主催は多読アレゴリア。ですが、多読アレゴリアのメンバーでなくても、イシス編集学校を一度も受講 […]
【2025秋募集★多読アレゴリア】「別典祭」ダイダイ大開催!!!! イシスの新しいお祭り?
読書の秋はアレゴリア。イシス編集学校とっておきのブッククラブ「多読アレゴリア」2025年秋シーズンの募集がスタートします。秋シーズンの会員期間は2025年9月1日(月)から12月21日(日)です。 秋シーズ […]
佐藤優さんから緊急出題!!! 7/6公開◆イシス編集学校[守]特別講義「佐藤優の編集宣言」
佐藤優さんから緊急出題!!! 「佐藤優の編集宣言」参加者のために佐藤優さんから事前お題が出題されました(回答は必須ではありません)。回答フォームはこちらです→https://forms.gle/arp7R4psgbD […]
多読スペシャル第6弾「杉浦康平を読む」が締切直前です! 編集学校で「杉浦康平を読む」。こんな機会、めったにありません! 迷われている方はぜひお早めに。 ※花伝寄合と離想郷では冊師四人のお薦めメッセージも配信 […]
コメント
1~3件/3件
2025-09-16
「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
このゲホウグモには、別口の超能力もあるけれど、それはまたの機会に。
2025-09-09
空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。
2025-09-04
「どろろ」や「リボンの騎士」など、ジェンダーを越境するテーマを好んで描いてきた手塚治虫が、ド直球で挑んだのが「MW(ムウ)」という作品。妖艶な美青年が悪逆の限りを尽くすピカレスクロマン。このときの手塚先生は完全にどうかしていて、リミッターの外れたどす黒い展開に、こちらの頭もクラクラしてきます。