空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。

私の編集学校入門は、2007年の4月。その前年にあたる2006年は、ライブドア元社長の堀江貴文氏が証券取引法違反容疑で逮捕されるというセンセーショナルな事件からスタートしました。
同じインターネット業界とはいえ、私のいたIIJはインターネット接続料で収益を得るレガシーな接続サービスが中心で、ライブドアのような無料接続で集めたユーザーに情報を交換する場を与え、それに連動して掲示する広告料で収益を得るメディアサービスとは全く業態が異なっておりました。
しかし、当時はインターネットに繋がることはもう当たり前であり、2005年にはWeb2.0のような概念も登場し、ウェブをいかにして、新たな情報を生み出し発信するメディアとして活用できるかが価値の源泉になりつつありました。ライブドアのようなインターネットサービスのあり方が今後の主流になるのだろうなとぼんやり考えていた時期でした。
そんな時期に起こったライブドア事件は、前年にニッポン放送を買収しその子会社であるフジテレビをも傘下に収めて、インターネットを中心に据えたメディアコングロマリット構築を目指すホリエモンの野望を挫くべく企てられた、旧勢力による帝国の逆襲だったのかもしれません。
他方、本場アメリカでは、インターネット革命の波は確実に次のフェーズへと歩みを進めていました。2006年にGoogleの元CEOのエリック・シュミットは、誰でも不特定多数の人や企業に対して情報サービスを提供可能とするクラウドコンピューティングが、ウェブアプリケーションと個人データを集約するグローバルプラットフォームとして、世界を動かす新たな時代への移行を宣言しました。
私がそんな年の1冊に選んだのは、この大きな時代の流れを明快な切り口と平易な文章でズバリ予言したこの一冊です。
『ウェブ進化論 ー本当の大変化はこれから始まる』
梅田望夫著/ちくま書房、2006年2月
この時は、なんだか大袈裟なタイトルだなぁと半信半疑で読みましたが、まさにその後、本書に書かれていた以上の大変化が起こったことは周知の通りです。既に本書の内容は陳腐化してしまってはいますが、これから起こるであろうさらに大きな変化を読む目を自分も持ちたいものだと思い選びました。
私が編集学校の門を叩いたのは、そのような大変化の時代を迎える上で情報編集術が必須スキルとなっていくのではないかと考えたからでした。そう考えたのは、上記の本のおかげでもありますが、実はもっと大きなモチベーションを与えてくれたのが、2006年の12月に発売された、松岡校長の『17歳のための 世界と日本の見方』でした。
世界の歴史を縦に読むだけではなく、グローバルな因果関係を、ウェブのハイパーリンクよろしくダイナミックに横に繋いで見る視点はとても新鮮でかつ刺激的でした。
この本の出版が示唆するように、これ以降の編集学校は、いかにして世の中に浸透し、実社会とインタースコアするべきかを明確に意識し始めたのだと思います。まさに編集学校2.0が、ウェブの新時代の到来と同じ時期に始まっていたのです。
そして今年で20年を迎えて「大人になった」編集学校は、さらなる進化の方向性をしっかりと見据えて進み始める節目の年になるのでしょう。そんな大事な年を皆さんと共有できたことをとても嬉しく思います。
金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:宮崎滔天
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
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ヒトが繋げた植物のその先を、人知れずこっそり繋げ足している小さな命。その正体は、自らの排泄物を背負って育つユリクビナガハムシの幼虫です。