娘が最近覚えた言葉がある。「最後」だ。
YouTubeキッズアプリのタイマーが終了を告げるたびに「さいご、さいご」と叫ぶ。
でも「じゃあこれで最後ね」と再生を押しても、動画が止まるとやっぱり「さいご」と言うのである。
4月17日に開催されたことば未満ラボ第2回のテーマは浦澤発案の「動画」だった。
ことばがあまりわからなくてもYouTubeにはハマってしまうのはなぜなのか、ワークとイドバタトークの2本立てでリバースエンジニアリングする企画だ。
この日の参加者は長島順子師範代(けんとくん3歳、みかちゃん1歳)、原田祥子師範代、松井路代師範代、浦澤(みち2歳)の4名+子どもたちだった。
ワークは「どてっ」。
浦澤の娘がお気に入りの「どてっ」動画(いろいろなもの…かぼちゃ、大きな石、牛乳の入ったコップ等が「ボレロ」をBGMに倒れる動画)をヒントに、身の回りのものを倒してオノマトペを考えてみる。
ペン、スプーン、ぬいぐるみ、羊羹。参加者が思い思いのものを持ち寄って倒す。
スプーンは「こちん」と軽い音、羊羹は鈍い音。
連続で倒すと「とてとてとて…」と余韻が残る。
みちも「とてっ」という言葉とともに積み木を繰り返し倒していた。
動画から「倒れる」という要素だけを抜き出しても、ことば未満の子どもたちは楽しめるようだった。
そして大人たちも倒れるものを探しては転がし、音や倒れ方の違いを比べては、「さいご」にするときを見失っていたのだった。
続く「動画」にまつわるトークでは、はじめに浦澤が「子どもがなぜ夢中になるのか不思議に思っている動画」を共有した。
「子どもYouTuber」がおもちゃで遊んでいる様子を映している動画だ。
似たような動画がたくさんアップされて、どれも結構再生されているけれど、画面越しにおもちゃを見て楽しいものなのだろうか?
そんな浦澤の疑問が大人参加者たちの記憶を呼び起こす。
原田祥子師範代は女の子がパンケーキを焼いて食べる「ママレンジ」というおもちゃのCMが大好きだった。
長島順子師範代は友達がテレビゲームで遊んでいるのを隣で眺めて楽しんでいたと話す。
ふたりに共通していたのは「自分でやってみたいとは思わなかったの?」という質問に「観ているのが好きだった」と答えたことだ。
長島師範代は戦闘シーンに挑むのが恐かったため、自分で操作をするのはむしろ苦手だったのだそうだ。
「人がやっているのを観ているのはスポーツ観戦も同じだよね」という声もあがり、意外な「実況動画」のアーキタイプの存在にも気づく。
逆に大人が観ているものは基本的に観たがらない。
ちょうどひょっこり登場した松井家のかよちゃん(8歳)にインタビューしてみると、が「同じくらいの歳の子がいないとつまらないんじゃない?」と意見をくれた。
いつかの親戚の集まりで、ずっと続く大人同士の話に飽きてしまったことをふと思い出す。
そんなとき同じように退屈している初めて会う子と目があって、一緒に走り出す。
動画の中の子となかなか「バイバイ」できない気持ちに似ているだろうか。
「共感」、「感情移入」「憧れ」「達成感」きっとどれも言葉よりも先にくる。
楽しいと思うことや自分にはできないことをやってくれる、自分と「似ている」友達の存在が娘を夢中にさせるのかもしれない。
でもその子たちとは住んでいるところも手に入れられる機会の種類も違う。
画面の向こうの友達にくっついている属性の違いを知ったとき、その付き合いは楽しいだけではなくなる日が来るのだろうか。
ネットメディアとの付き合いは「親の知らない体験をすること」に通じると話題にあがった。
親の知らないところで楽しんだり、もやもやしたり、傷ついたりすることは多分止められない。
ならどうしたら良いのかは難しい。
私たちの「自分の親にも子にも話したことがないけれどひっかかっていること」が何かヒントになるかもしれない。
過去2回、ことば未満ラボでは話さなくても出来る、楽しいと思える遊びを探っていた。
でも加えて「大人になってもなかなか言葉にはできない気持ち」をリバースしてみたくなった。
文:浦澤美穂
イドバタ瓦版組
「イシス子どもフィールド」のメディア部。「イドバタイムズ」でイシスの方法を発信する。内容は「エディッツの会」をはじめとした企画の広報及びレポート。ネーミングの由来は、フィールド内のイドバタ(井戸端)で企画が生まれるのを見た松岡正剛校長が「イドバタイジング」と命名したことによる。
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