雨雲を吹き飛ばす晴れ晴れとした声が届いたのは、第81回感門之盟の開幕を控えた朝だった。声の主は、厳選タングル教室学衆の青井隼人だ。
『うずまく番狂の湯屋浄瑠璃』
皆さんのアイデアをわけたり、かさねたり、ずらしたり、
伏せを意識して、大胆に編集してみたつもりです。
2月初旬の8教室合同の本楼汁講の後、青井の発案で始まった「彩来!空文字アワー」で完成した物語のタイトルが、まだ決まっていなかった。空文字物語のタイトル編集は、初めてではない。3か月前に行なわれた一回目の空文字アワーで、師範代の川村眞由美の音頭の下で経験済みだ。が、今回は少し勝手が違う。汁講での侃侃諤諤の対話を経て作り上げた自慢の教室見立てが出発点であり、38の番稽古を身体に通して評価の目が互いに厳しくなっている。二桁に迫るタイトル案が出されたものの、2日前にも「もう少しらしさを」「アケフセがほしい」「パロディアは?」と妥協を許さぬ仲間の声が届いたところだった。節目のセレモニーの前に何とか仕上げたいという青井の一途さが、仲間の数寄と方法とを全て引き取りながらも余白を醸す編集を成就させた。「良いですなぁ」と物語はようやくの完結をみた。
その日午後の50守の卒門式で、川村のメッセージには「ひとりが動けば、またひとりが動く、思いやりで回転していった」と厳選タングル教室の学衆たちの稽古模様が織り込まれた。同時に、師範から川村に贈られた言葉によって、学衆と同じくらい、いや、それ以上に、葛藤した師範代の日々が明かされた。実は、4か月前、「学衆さんたちに寄り添い続けられるだろうか」と、川村は登板を悩んでいた。先達指導陣たちが不足の奥の可能性を信じる姿に励まされ、場に身を投ずる覚悟を決めた。道すがら、公私にわたり様々な事件が降りかかったが、学衆には一切見せず、「自分の文様づくりに熱狂するような場に」と歌うように指南を届け続けた。「頑張る母の姿に、子どもの私たちが動かされました」と、本楼に駆けつけた学衆の細井あやがそっと見立てた。
イシス編集学校では、入門してから僅か1年半で師範代を担うことができる。どの師範代も不足と不安を抱えながら、師範代登板を決める。世間からは未完成で危なっかしいと言われかねないそのフラジャイルさこそが、師範代と学衆の相互編集をもたらし、場に大きな変化を生む。破学匠の原田淳子が、感門之盟2日目の突破式の冒頭で、静かにイシスのユニークネスを語った。
徐々に明かされるイシスの複層的な学びの仕掛けに、兄弟教室と集う学衆讃証タイムで「私たち学衆だけではなく、指導陣のみなさんにとっても学びの時間だったのですね」と驚きと歓びの声があがる。イシスの方法のなかに身を置き続けることで、「できる/できない」といった画一的な基準に振り回される日常をも変えていけるかもしれない。各々の胸に小さな渦が湧きおこり、師範代の言葉に注意のカーソルが向く。ダルマ・バムズ教室の師範代の小野泰秀は「いつの間にか主語が自分ではなく型になり、成果(回答)そのものよりも、そこに至るプロセスのほうを大切に思うようになった」と応じ、川村も「どんなことも動かせると思えるようになった」と力強い。
感門之盟という節目を迎え、当初はそれぞれにとってバーチャルだった教室が、4か月の夢中な稽古を経て、私たちのリアルとして結実していることを確認しあった。そして、目の前には、次なるバーチャル、冒険のステージが待ち受ける。「とりあえず決めた進破だが、私に突破できるだろうか」と、青井も細井も仲間たちも不安を口にする。が、彼らはとうに知っている。葛藤と共に進む霧の中の新たな虚に向かうその先に、とっておきの晴れ間が待ち受けている。
多様さとフラジリティ : 原田淳子[破]学匠メッセージ【81感門】
なぜイシスはおもしろいのか:康代[守]学匠メッセージ【81感門】
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阿曽祐子
編集的先達:小熊英二。ふわふわと漂うようなつかみどころのなさと骨太の行動力と冒険心。相矛盾する異星人ぽさは5つの小中に通った少女時代に培われた。今も比叡山と空を眺めながら街を歩き回っているらしい。
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わたくし阿曽祐子は、電子部品メーカーで20年以上、人材育成に関わってきた。新入社員、中堅社員、管理職、将来の経営幹部候補、新任役員とあらゆるレイヤーのメタモルフォーゼを見てきた。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」。誰もが […]
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