泡立つ九天 其の三 ・ 発表!第1回Q・TENフォトコンテスト受賞作

2022/07/28(木)08:27
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 テキスト重視のイシス編集学校にさざ波を立てる企画が立ち上がった。九州支所・九天玄氣組(以下、九天)のアワード企画第ニ弾「Q・TENフォトコンテスト」だ。フォトコンテストと言っても撮影技術を競うことが目的ではない。お題をフィルターとして、写真で九州らしさを表現する大いなる編集稽古である。
 第1回めのお題は、A部門:1157夜『九州水軍国家の興亡』とB部門:「フラジャイル×九州」の二題。17名から31の作品が寄せられた。
 ここでは組員の投票と特別審査員(今回は九天玄氣組組長)と棋譜陣によって選好された受賞作を紹介する。観光写真では見られない、九州の面影とトポスを堪能あれ。

 

◆組員賞:A部門 (アイキャッチ画像)

『久多島:東シナ海を跋扈した海賊のメルクマール』小川景一(鹿児島) 
 鹿児島県日置市、東シナ海に面した吹上浜の沖合に浮かぶ久多島神社の御神体。海賊が目印にした島にドローンが飛ぶ。構図と色彩、対比とコントラストで観る者の心を大きく動かした。得票多数の一因は九天組員の海賊数寄か。

 

 

◆組員賞:B部門

『招く神が依り代』佐土原太志(宮崎)
 霧島山の噴火を鎮めようとつくられるようになった「田の神さぁ」。祈りに応じて、いつしか米粒のような白い苔がしゃもじに降りたのか。名も無き神と人の感応に、依代の本質を見る。

 

 

◆中野由紀昌賞:A部門

『金甲見守る水の郷』政近玲子(東京)
 九天加入からひと月も経たぬうちに水郷柳川「御花」を訪れて切り撮った一枚。16年前の九天玄氣組発足式の翌日、組長中野の目に入ってきた光景と寸分たがわずだったという奇跡。

 

 

◆棗絽賞:A部門

『その島々を飛び越して来い!』吉田麻子(熊本)
 天草・倉岳から臨む八代海。美しいけれど時間も天気も曖昧な景色に外からの視点を持ち込み、「飛び越して来い!」と告げることで、肥後の見え方を変えた。

 

 

◆桃翰賞:A部門

『舜天海』宮坂千穂(東京)
 お気に入りの地図と帯と本。部屋にいながらにして、東シナ海を呼び込んだ。これはごっこ遊び? 遊ぶとなったらとことんやるのが宮坂流。ひいては九天らしさ。

※舜天海とは 九天玄氣組内の遊読冒険的プロジェクト。朱舜水という儒学者を追うことで、日本の南北朝、江戸時代の初期から幕末、明治維新から大戦へと歴史の串刺しを体感し続けている。

 

 受賞作に共通するのは、タイトルやコメントの編集にひと工夫があったこと。全員が[守]卒門者である九天玄氣組ならではである。「フラジャイル」の被写体に、山、海など大きなものが選ばれているのも意外な特徴であった。

 なによりも、写真と撮影者の説明に投票者のコメントが重なることで、九州や九天が立体的に見えてきたことが収穫だった。

 「Q・TENフォトコンテスト」は今後も続く。棋譜陣は、九州と九天の「らしさ」を引き出す相互編集を目論んでいる。

 

受賞者には賞品として、棋譜陣セレクトギフト「幸味餞(こうみせん)」が贈られた。エンボス加工が美しいカードと熨斗は九天のスーパーハンド内倉須磨子作。中身は九天組員の手によるお茶(白谷清茶堂)とコーヒー(イエナコーヒー)。

 

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コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-07-01

発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。