43[破]AT物語・テレス大賞受賞、畑勝之さんインタビュー:英雄はマルボロ・ライト

2020/02/22(土)10:21
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主人公は煙草。愛煙家たちが次々と禁煙サイドに落ちるなか、アメリカ生まれのマルボロ・ライトが日本や中国の煙草仲間と一緒に喫煙の意伝子を伝えようと奮闘する。

 

初音イズタロー教室・畑勝之さんの『短くなるまで吸わなけりゃダメだ』が、43[破]AT物語賞のテレス大賞を受賞した。映画『スター・ウォーズ エピソード4-新たなる希望』を喫煙者の受難劇に翻案した物語だ。テレス賞は物語編集における知のマネージに優れた作品に贈られる。畑さんがとっておきの編集秘話を語った。

 

 

「初音イズタロー教室、ホーム・ミーム教室」合同汁講にて。畑さんは後列左から4番目。

 

 

―――まずタイトルが面白いですね。どのようにして付けたのですか?

 

最初は『スモーキング・ウォーズ』としていたのですが、エントリー間際に網口渓太師範代から、スター・ウォーズを連想させないほうがよいというアドバイスを受けて変更しました。本文と連動して軽い感じを出したかったので、かまやつひろしの『ゴロワーズを吸ったことがあるかい』という歌の一節からフレーズを拝借しました。ゴロワーズは30数年前に北方謙三の小説で知って以来、ずっと気になっている煙草です。

 

―――関富夫評匠の講評には「B級感も漂う」とありました。

 

狙いどおりです(笑)。作者の意図をくみ取ってくれていると感じました。「かつて文字のない頃に物語が果たした人類の記録装置としての役割」という記述には、私自身が最近興味をもっている文字のことまで及んでいると感じます。「闘争が描ききれていない」という指摘があることは充分承知していました。喫煙と禁煙の闘争性を前面に出すと、埼玉対千葉と同じくらいの不毛な印象を醸しかねないので、塩梅が難しいなと思っていました。

 

―――あえて闘争は控えたと。禁煙と喫煙を対比させたワールドモデルに興味が尽きません。どうやって翻案したのですか?

 

最初の映画のキャラクターを読み取るお題で、私が考えていた英雄と一般的に認識されている英雄の間にズレがあると感じたのが始まりです。ルークの成長の過程に陰影・葛藤・屈折のようなものが感じられないのが物足りなかった。このままではシラケて稽古に打ち込めないと思い、1週間ほど悩んだ挙句、キャラクターやストーリーからではなく、世界観をベースに翻案して圧倒しようと目論んだのです。これはハイパー・コーポレート・ユニバーシティで講師をされていた押井守さんからの学びです。

 

ライトサイドとダークサイドのある世界観から、白黒二元論でゆらゆらするものは何だろうと考えていて、ある日の朝4時ごろに「喫煙対禁煙」の構図がひらめいた。これならモノを擬人化するのもありだと思い、すぐに明かりをつけて赤いサインペンを走らせました。

 

―――なぜモノを擬人化しようと考えたのですか?

 

過去のAT物語賞の作品に、ルークを友禅に、ダース・ベイダーを贅沢禁止令に翻案したものがあるのをみて唸りました。そこまでぶっ飛べないけれど、モノを主人公に据えることで少しでも飛べればと思っていたからです。キャラクター設定にあたっては、原型を固めて、関連する情報を知文的、クロニクル的に充実させることをめざしました。

 

―――マルボロ・ライトの英雄ぶりがカッコいいですね。講評には「映画スターみたいなキャラ」と書かれていました。各銘柄の発売や価格変化の歴史、法規制などの煙草クロニクルも充実。選評会議では煙草を吸わない読者も納得して読めるとの声が多く聞かれました。では、物語編集術の稽古で畑さんが面白いと感じたことは?

 

網口師範代との交わし合いのなかで、作家と編集者の関係を疑似体験できたことです。作家が世に出るには編集者の産婆術が重要だと感じました。手取り足取りではなく、作家のオリジナリティが失われないようサポートする。網口師範代は「マルボロ・ライトとマイルドセブンの関係をみて読者がリアリティを感じるか」という言い方で、書き手が独りよがりになってはいけないということをさりげなく伝えてくれました。それで我に返り「書くモデルは読むモデルをめざす」という言葉の意味に気づいたのです。師範代はまさに私にとっての編集者でした。

 

―――受賞の感想と物語の型の可能性についてお話しください。

 

AT知文賞やクロニクル編集術で意気込みすぎた反省から、物語には肩の力を抜いて取り組みました。これまでの稽古がテレス大賞受賞につながったのがうれしいです。物語編集術は仕事にも生かせるし、物語の型を意識することであらゆる遊びが可能になると思います。

  • 小路千広

    編集的先達:柿本人麻呂。自らを「言葉の脚を綺麗にみせるパンスト」だと語るプロのライター&エディター。切れ味の鋭い指南で、文章の論理破綻を見抜く。1日6000歩のウォーキングでの情報ハンティングが趣味。

コメント

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川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。